ズルい男





まるで逃避行のように、二人は土門の自宅へ戻った。

靴を脱ぐのももどかしく、土門はマリコを寝室へ連れていく。


「もういいか?」

そうたずねる口が、マリコの頬を掠めさまよう。


「もういいか?このままお前を抱き潰しても……」

「だ、だめよ!」

そうは言うものの、マリコの抗う力は弱々しい。

「我慢の限界なんだがな……」

土門の手によって、少しずつ背中のファスナーが下ろされる。

「待って、土門さん。あの……」

マリコは、土門のシャツを掴むと恥ずかしそうに続けた。

「ち、ちゃんと加減して……」

「承知した!」

土門はお許しの言葉に破顔する。

「や、約束よ!」

「ああ。でも、守れなくても怒るなよ?」

「嘘つきは泥棒の始まりよ、刑事さん?」

「生憎だが今の俺は刑事でも、泥棒でもない。ただの…男だ」

不敵な笑みに、マリコは目を瞠る。

「もう!」


そしてファスナーが下りきると、マリコは自分からワンピースを脱ぎ捨て、土門に身を寄せた。

「本当は私も……」

「お前も?」

「土門さんに…………」

「俺に?」

「……………」

沈黙するマリコの代わりに、土門が答えた。

「抱いてほしい、か?」

返事の前に、背中のホックがはずされる。


「分かっているなら、聞かないで……」


マリコのことは、何もかもお見通し。
刑事でも、泥棒でもない、だだの……。

なんて、ズルい男!




fin.




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