キス…しないで
交じりあう吐息がようやく遠ざかる。
「お前だけだ……。分かったか?」
マリコは真っ赤な顔で頷く。
「だったら、こんな画像……さっさと消しちまえ」
「うん…………」
マリコの歯切れは悪い。
「お前、まさか……」
「しない!しないわよ!」
「俺はまだ何も言ってない」
「……………」
墓穴を掘ったマリコは視線を泳がせる。
「榊。今ここで、どっちか選べ。画像を消すか。消さずに、ここに……」
土門はカットソーの襟からのぞく鎖骨を指差した。
「キスマークをつけるか、どっちがいい?」
「……………」
マリコは答えに詰まる。
「答えないなら……」
土門はマリコのスマホを取り上げ、勝手に画像を削除する。
「あっ!」
残念そうなマリコの声に、土門は眉を持ち上げた。
「まったく、その好奇心は仕事だけにしておけ!」
*****
「“どっちか”って言ったじゃない!両方なんて、ズルいわ…土門さんの嘘つきっ!」
『はいはい』と土門はマリコの不満を聞き流す。
そして、マリコがポケットから取り出したスカーフを首に巻いてやった。
……一瞬、紅い印が目に映った。
「聞いてるの?土門さんっ!」
「聞いてる……から、もう黙れ………」
今日の天気予報は外れがち。
ほら、また甘い雨が降りだした……。
fin.
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