チャレンジ企画
時計の針は間もなく12時を指そうとしている。
今夜も残業で、家に着いたのはこんな時間だ。
「……はぁ、疲れたわ。嫌になっちゃう」
ため息と愚痴が、ひとりでにマリコの口を飛び出した。
それを聞き留めた耳がピクリと反応し、そして慰めるようにマリコの手に触れる。
少しでもその疲れを癒したい…。
温もりを分け与えるように身を寄せる。
「ありがとう。ねぇ……」
「?」
「ハグするとね、ストレスが3分の1に減るっていう検証結果があるんですって!」
「……………」
ぎゅっ。
「あー、癒されるわ……」
マリコはフワフワとしたその体はもちろん、何よりプニプニとした肉球の感触に目を細めた。
「ニャア~」
大好きなマリコに抱き締められて、オパールも満足そうに喉を鳴らす。
「俺は必要なさそうだな?」
淹れたてのコーヒーを両手に持ったままの土門は、その様子を見て眉を潜めた。
「ニャッ!」
「お前には聞いてない!」
「ニャァ~」
「べ、べつに羨ましくなんてないぞ……」
「ニャ、ニャ、ニャア」
「ぐぅ……」
「すごいわ、土門さん!オパールの言葉がわかるの?」
「そんな訳あるか!」
そう答えたものの、不思議と会話は成立している。
マリコが大好き♡という強力な共通点の為せる技かもしれない。
「オパール、ありがとう」
マリコはオパールを解放した。
「ニャ?」
「もう大丈夫よ。あとは、ね……?」
オパールは心得たとばかりに、2、3度尻尾を揺らすとリビングの扉の細い隙間から出ていった。
「ねえ、土門さん」
マリコは離れてソファに座る土門に声をかけた。
「なんだ?」
「まだ3分の2、残ってるんだけど……」
「……………」
土門は無視を決め込む。
要するに、拗ねているのだ。
「ねえ……」
「……………」
「ダメ?」
「……勝手にしろ」
「うん、勝手にする」
マリコは土門の腕にぎゅっとしがみつく。
「……………………………くそっ!」
「きゃあ!」
マリコの腰に回された手が、ぐいっとその体を引っ張りあげた。
一瞬の後、マリコは土門の膝の上に座らされていた。
むぎゅっ!
「どうだ?ストレスはなくなったか?」
耳の傍で土門の声がする。
鼻孔を土門の香りが掠める。
背中に土門の腕の温もりが伝わる。
そのすべてが、マリコを満たしていく。
でも。
「ん……。まだ足りないわね」
マリコは小さな嘘をついた。
――――― まだ離れたくないから。
『だって、土門さんに抱き締められると……』
「あー、癒されるわ♡」
心の中で呟いたはずのセリフは、どうやらポロリと溢れていたらしい。
「ダダ漏れだぞ?」
笑いを含んだ土門の声が、マリコの耳元を通り過ぎる。
そして土門はマリコを抱いたまま立ち上がった。
「ど、土門さん!?」
「どうせなら、徹底的に癒してやる!」
その宣言により、『癒し』の時間は『いやらしい』時間へとスライドしていくのだった。
fin?
《+α》
モゾモゾと土門の手が怪しく蠢く。
「ちょっ!待って……ねぇ!」
「待てんな」
「そんな…、やだ、どこ触っ………ねぇ!」
スルリとシャツの中に潜り込む。
大きくて、肉厚の手が触れたのは……?
「……もう黙れ」
「んんっ!!!……………」
ムフフ♡