チャレンジ企画





梅雨の季節はムシムシと汗ばむような日もあれば、春先に逆戻りしてしまったかのようなひんやりとした陽気の日もある。
ここ数日、京都では後者の日々が続いていた。

屋上の屋根の下で土門と話ながら、マリコは時おり白衣の袖を撫でている。

「寒いのか?」

「ええ、少し」

土門はジャケットを脱ぐと、マリコに羽織らせた。

「ありがとう」

「顔色も良くないな……」

「ここ数日寒くて、何となく寝付けないのよ……」

「そうか……」

『気を付けろよ』と口にして、土門は先に屋上を立ち去った。



その夜。

「土門さん。これ、ありがとう」

マリコはきちんと畳んだジャケットを土門へ返そうと、その背中に声を掛けた。

「今、手が離せないんだ。ソファの上にでも置いてくれ」

すると、キッチンに立つ土門からはそんな素っ気ない答えが返ってきた。

「土門さん、さっきから何してるの?」

「ん?ちょっと待て………と、できた」



湯気の立ち上るマグカップを、土門はソファに座るマリコの前に置いた。
そして、自分もその隣に腰をおろす。

「ホットミルクだ。寝る前に飲むと、“ホット”してよく眠れるぞ!」

「………………」

マリコは土門を凝視する。

「ねぇ……もしかして笑うところだった?」

「な、なんのことだ!?べ、べ、別に……」

あまりの狼狽えように、マリコは声を立てて笑っている。

「可笑しいわ、土門さんたら!」

マリコは笑いすぎて浮かんだ涙を拭うと、ホットミルクを一口含んだ。

「美味しい。温かくて、“ホット”安心する味ね、土門さん?」

尚もくすくす笑うマリコに、土門は臍を曲げる。

背中を向けてしまった土門に、マリコはそっと寄りかかる。
ホットミルクの温かさと、土門の心地いい体温がマリコを眠りへと誘う。

「今夜はゆっくり眠れそう……」

完全に瞼の下りたマリコは、ふわりと体が宙を浮き、何度も髪をすかれる夢を見た。
気持ちがよくて、マリコは「いい、ゆ、め……」と寝言を漏らす。

「おいおい、夢じゃないんだがなぁ……」

苦笑しつつ、土門はその額に眠りの魔法をかけた。

「おやすみ、榊」




fin.




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