ひととせ
「すごい風!春一番かしら?」
マリコは、はためく髪と白衣を押さえる。
「ああ。もう春なんだなぁ……」
春が過ぎ。
夏が過ぎ。
秋が過ぎ。
冬が過ぎた。
そしてまた、春が巡ってくる。
どんな新しいことが待っているだろう……。
「新しい出会いもあるかしら?」
「そうかもな。お前の場合は……、新しい鑑定器具か?」
「それ!とても楽しみだわ」
マリコは瞳をキラキラと輝かせる。
「おいおい、冗談のつもりだったんだがなあ」
二人はくすりと笑いあう。
新しく変化すること。
それは希望に満ち、考えるだけで気持ちが上向く。
でも、きっと。
変わらないものもある……。
マリコにとってそれは、科学を信じる心。
そして、それと同じだけ。
「ううん、違うわね」
「榊?」
それ以上に……、土門を想う気持ち。
それは季節が変わっても、きっと変わらない。
「土門さんは、春が来たら…何が変わると思う?」
「そうだな。……お前への想いかな?」
「えっ!?」
マリコは驚き、そして途端に不安そうに目を伏せた。
「ばか。何て顔してる?」
土門は苦笑いして、マリコの頬に手を伸ばす。
「…………」
「季節なんて関係ない。この想いは……お前に会う度に変化している」
それを確かめるかのように、土門の指が触れたマリコの頬を撫でる。
「どんどん強く、大きく膨らんでいる。……天井知らずだな」
「そんな……」
照れるマリコを、土門は楽しげに眺める。
そして。
「変わっていこう、榊。楽しいことだけじゃない。きっと辛いこともこの先あるだろう。それでも、きっと俺たちなら乗り越えられる。この一年がそれを証明してくれたはずだ」
そういうと、マリコに向かって手を差し出した。
「お前となら……」
『想い』という名の樹木は、巡る春に小さく芽吹き、少しずつ成長していく。
時には曲がったり、枝が折れることもあるだろう。
それでも、広い空を目指して伸びていく。
だが、それは一人では無理だ。
より大きく、より強くなるために……。
「土門さんとなら……」
マリコは土門の手に自分の手を重ねた。
その手は固く握られる。
新しい春に。
新しい二人。
さあ。
新たな一歩を踏み出そう。
この
fin.
5/5ページ