ひととせ
ようやく決着がついた……。
森聡美の起訴が決まった。
マリコは屋上でひとり白衣のポケットに手を入れ、背筋を伸ばし、まっすぐに前を見据える。
――――― 春に出会った
マリコのことを、『可哀想でブスな女だ』と断言した女。
結果的に彼女は殺人を犯し、その行為は許されるものではない。
ただ殺人という要素を除けば…、彼女の生き方をマリコは全て否定することはできない。
だからといって、マリコには彼女のような生き方はできないし、したいとも思わない。
「私は、私の人生を歩むだけだわ……ねえ、そうでしょう?」
振り返ったその先にいたのは、土門。
「……………」
土門は答えず、マリコの隣に並んで佇む。
それが、答え。
自分も同じように生きていくつもりだと。
隣に並び、一緒に進んでいくのだと。
マリコは今、この場所に土門が戻ってきてくれたことを心の底から感謝している。
「ねえ、土門さん」
「なんだ?」
「警察学校に戻りたいと思うこと、ある?」
「なんだ、急に?」
「いいから、答えて!」
「戻りたくても戻れない」
「どうして?」
「誰かさんを頼む、と頼まれた……ような気がするからだ」
「なあに?随分あやふやね……」
「お前は戻ってほしいと思ってるのか?」
「まさか!そう思っていたら、こんなの取っておかないわ」
『ほら…』とマリコは土門にスマホの画面を見せる。
その画面には……。
“待ち人、来る”
そう書かれたおみくじの画像が写し出されていた。
「これは……なんだ?」
「うふふ。秘密よ……」
その時、突風が屋上を駆け抜けた。
それは永い冬の終わりと、春の訪れを告げる……春一番。
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