ひととせ
『サカキガフリン…。サカキガフリン……。榊が不倫だと!?』
土門は頭を抱える。
巡査長だというその男の手がマリコの肩にまわり、引き寄せる。
――――― 待て、榊っ!!
ガバッと跳ね起きた土門は、うっすらと額に浮かんだ汗を拭う。
『なんて夢だ!』と隣に目を向ければ、そんな土門に気づく様子もなく、マリコはすやすやと眠っている。
「まったく呑気な奴だ…………ん?」
違和感を覚えた土門は少しだけ掛け布団をめくる。
すると、土門のパジャマの端をマリコがしっかりと握っていたのだ。
少しだけ頬を弛ませた土門は、そんなマリコを背後からそっと抱き込むように眠りに落ちた。
『ドモンサンガイドウ?ドモンサンガイドウ??土門さんが……異動!?』
警察学校で教壇に立つ土門の姿が、マリコの瞳に眩しく映る。
――――― 土門さん……。
ぱちっと目を開けたマリコは、自分の体が拘束されていることに気づいた。
頭上からは静かな寝息が聞こえる。
それだけでマリコは安心する。
土門を起こさないように、マリコは慎重に体の向きを変えた。
すると。
「う……ん」
眉をハの字にして頬を弛ませたその寝顔は、満ち足りて幸せそうだ。
「一体どんな夢を見ているのかしら?」
いかにマリコでも、それは鑑定のしようがない。
もしかしたら、亡き妻のことだろうか……。
それでも。
今、この温もりはマリコだけのものだ。
明日の朝からは、お互い別々の場所へ向かう。
ほんの少し…。
本当はすごく……寂しい。
マリコはその気持ちを飲み込んで、再び布団に潜り込む。
その隣で…。
「う…ん。…さ……か、き」
土門の寝言が聞こえる前に、マリコは眠りに落ちていた。
fin.