Love is all





「僕らもお邪魔していいかな?」

カーテン越しに声がかかった。

「榊、開けてくれ」

マリコがカーテンを開くと、伊知郎といずみが立っていた。

土門はゆっくりと体を起こす。
それに気づくと、すかさずマリコが手助けする。

その様子を榊夫妻は微笑ましく見つめていた。



「土門さん、災難だったね。痛みはどうだい?」

「もう大丈夫です。これ以上酷い怪我をしたこともありますから」

「確かにね……」

伊知郎は科捜研時代を思い返し、苦笑いを浮かべる。
しかし、改めて表情を引き締めると、土門に頭を下げた。

「土門さん、マリコを庇ってくれたそうだね。どうもありがとう」

いずみも夫にならう。

「頭を上げて下さい!自分は、当然のことをしただけです」

「刑事として、かな?」

眼鏡の奥の伊知郎の瞳が、問いただす。

やっぱり来たか…と、土門とマリコは顔を見合わせた。


「いいえ。違います」

土門は強く言い切る。

「監察官、いえ。榊さん。私はこれからの人生をマリコさんと歩んで行きたいと考えています。この先何があろうと、今回のように彼女を守っていきます。私たちのことを認めていただけますか?」

マリコはそっと土門の腕に触れる。
指先が白んでいるのは、緊張しているからだろう。

「君たちはもう大人だ。僕らが口を挟むことじゃないよ。それに、土門さん。君以外にうちの娘を任せられる人はいないよ」

ハハハと伊知郎は苦笑する。

「ちょっと、父さん!」

言い返したマリコは、伊知郎の隣で沈黙したままのいずみの様子が気になった。

「母さん?」

「あの、……土門さん」

「はい」

「ご存知だと思いますが、このは家事全般が壊滅的です」

「か、母さん!?」

突然何を言い出すのかと、マリコは慌てる。

「でもそれは母親である私の責任です。そして、それ以外にも女性として至らぬ点も多い娘です」

「も、もう何を言って……」

『でも…』と、いずみの声がマリコのそれに重なる。

「とっても優しい……自慢の娘です」

「……………母さん」

マリコは、目を瞠る。

「たしかに、榊は料理の味付けが微妙ですし、掃除は苦手で、アイロン掛けも得意ではありません」

「ちょっと、土門さん!土門さんまで、何を……」

「でも、自分を犠牲にしてでも誰かを助けたり。悲しむ人にそっと寄り添ったりすることのできる…そういう優しい女性だということも知っています。だから自分は、誰かを守ろうと必死になる……そんな彼女ごと守っていきたいと思います」

いずみの大きな瞳は涙の膜に揺れていた。

「ありがとう、土門さん。マリちゃん…いえ、マリコをどうかよろしくお願いします」

そういって土門へと頭を下げたその時、いずみの頬を流れていく涙に、マリコは母の愛情を痛いほど感じたのだった。




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