Love is all





「お兄ちゃん!入るわよ!」

シャーッと開いたカーテンの向こうには、美貴が仁王立ちしていた。

二人は慌てて離れる。
しかし、土門はマリコの手を離そうとしない。

「お前、入る前に声くらいかけろ!」

「かけたわよ!大体、いちゃつくならみんなが帰ってからにしてよね」 

「みんな?」

「あの、土門さん。実は…父さんと母さんがね、来てるの」

マリコが申し訳なさそうに、小声で伝える。

「なに?そうか…心配かけちまったんだな」

「そういうことよ!まったく…、お兄ちゃんには学習能力がないの!?」

顔を出した途端、ギャーギャーと喚く美貴に、土門が心底迷惑そうな顔をする。

「う、うるさいっ!」

「それに、何度も呼び出されるこっちの身にもなってよね!職場にも迷惑かけるじゃない!!」

「……別に、来なくていい」


ぼそりと呟いた土門の台詞に、美貴の眉がつり上がる。


「なんですってぇー!そりゃ、私なんかより、マリコさんがいれば十分よねぇ?」

「よくわかってるじゃないか」

「ちょっと、土門さん!美貴ちゃんも……」

マリコが気遣わしげに、二人の間に割って入る。

「お前は黙ってろ!」

「マリコさんに、何て言い種よ!大体ね、さっさとお兄ちゃんが結婚でもして、私以外の家族ができれば問題ないのよ!」

「お前に言われなくても、そのつもりだ」

「何がそのつもりなのよ!」

「だから、俺は榊とだなあ…………」

ここに至って、ようやく土門は気づいた。
売り言葉に買い言葉。
巧みに美貴の誘導に引っ掛かってしまったのだ。

「ふふん。マリコさんとなに?」

「……………」

土門は腹をくくった。
マリコの手を引き、隣に立たせる。

「まだ具体的なことは決めていないが……。これからは、こいつと…一緒に生きていく」

マリコも瞳を潤ませて、頷く。

美貴はようやく実現した目の前の光景に、暫く言葉がでなかった。

『嬉しい』
『良かった』
そんな感想しか思い浮かばない。
でも、そんなものかもしれない……人は本当に嬉しいとき、他に何が言えるだろう。



「マリコさん。こんなお兄ちゃんだけど、よろしくお願いします。マリコさんがお姉さんになるなら、大歓迎です!」

美貴は強引に土門からマリコの手を奪い、握りあう。

「美貴ちゃん…。私もよ」

マリコも感無量に、ぎゅっと美貴の手を握り返す。

「おい!俺には?」

「は?お兄ちゃんに改めて言うことなんてないわよ?」

さてと、と美貴は二人から離れる。

「まだ家族は私だけですからね。手続きに行ってくるわ!」

美貴はカーテンに手をかけ、振り返る。


「何も言うことなんてないわよ。だって、お兄ちゃんは……いつまで経っても私のお兄ちゃんだから!」


そう言うと、病室を出ていった。




「まんまと嵌められたな……」

ワザとらしく溜息をつくものの、土門はまんざらでもない様子だ。
この世にたった一人の妹だ。
やはり色々と思うところはあるのだろう。

「でも、ちゃんと伝えられて良かったじゃない?私も気になっていたの」

「まぁな……。と、すると、次は……」



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