Love is all
新横浜で新幹線を降りたマリコは、改札を出ると、地下鉄に乗りかえるために歩き出した。
数歩も進まないうちに、前方から悲鳴が聞こえた。
続いてマリコの前を歩く女性の体が
すると、その女性の先に一人の若い男が現れた。
男は右手にサバイバルナイフを握っていた。
そのナイフの切っ先は深紅に染まり、ポタポタと血痕を落としていた。
男が顔を上げる。
マリコと目が合った。
男は何の表情も浮かべぬまま、腕を振り上げる。
振り下ろされるナイフが自分に向かってくる様子を、マリコはまるでスローモーション映像を見ているかのように、視線で追っていた。
『刺される?』
いざとなったら体が動かない。
マリコは衝撃に備え、ただ目を閉じることしかできなかった。
しかし、訪れたのは予想していた激痛では無かった。
力強い腕に引かれた衝撃と、大きな体に包まれた温かさだけだった。
「?」
目を開け、マリコは何が起きたのか、即座に理解した。
「土門さん!!!!!」
マリコを守るように庇う土門の右の脇腹の周囲に、どんどんと赤黒い染みが広がっていく。
土門は傷口を手で押さえ、顔を歪めている。
「ケ、ガ…、ない、か?」
マリコはしっかりと頷いて見せる。
「私は大丈夫。土門さん、喋らないで」
マリコはバッグからハンカチを取り出し、傷口に当てる。
土門のスラックスからベルトを抜き取ると、止血を始めた。
「に、げ…、ろ!」
「喋らないで。それに、いやよ!」
マリコが目を向けると、通り魔の男は奇声を発しながら到着した警察官に突進していくところだった。
間もなく確保されるだろう。
マリコは土門に意識を戻した。
「だれか!救急車を!」
どこからか、『は、はい!』という声が聞こえる。
「土門さん、大丈夫よ。すぐに救急車が来るわ」
土門はかすみ始めた視界にマリコを捉え、力なく頷くと、そのまま意識を失った。
「土門さん、土門さん!土門さん!!!」
土門の口元に耳を寄せれば、微かに呼吸音が聞こえる。
マリコは、ほっと息をついた。
しかし、予断を許さぬ情況は続いている。
救急車が到着するまでの時間をこんなにも長く感じたことはない。
土門の少しずつ弱くなる心音と、浅くなる呼吸を感じながら、マリコは祈らずにはいられなかった。
――――― 神様!どうか……!!!
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