福男





「土門教官、今日もお昼ご一緒してもいいですか?」

一人で裏庭へ向かおうとしていた土門に、目ざとく気づいた女性が走り寄ってくる。

「いや、今日は……」

その女性は土門が提げている袋に気づいた。

「それ、もしかしてお弁当ですか?」
「……ああ」
「私も作ってきたんですけど……。この前『美味しい』って言ってくださったから……」

そう、その弁当がすべての発端だった。




一週間前、たまたま裏庭のベンチでコンビニ弁当を食べていた土門に、一人の女性が声をかけた。

「食堂で食べないんですか?」
「君は……、小山内おさないだったな」

その女性は、土門が受け持つ生徒の一人だった。

「はい。他の教官方は食堂で食べてらっしゃいますよね?」

「今日はたまたまだ。小山内こそ、原則食堂だろう?」
「私、食物アレルギーが酷くて。特例で、お弁当の持参を許可してもらっているんです」

週末は自宅で過ごし、月曜の朝は自分で弁当持参することを特別に認められているのだという。

「そうか。大変なんだな」
「あ、いいえ。もう慣れっこなので。そうだ!これ…よかったら召し上がってください。詰めこみすぎたみたいで」

そういって差し出されたのは3段重ねの一番小さな弁当箱だ。
中には彩り鮮やかな煮物が入っていた。

しばらく逡巡しゅんじゅんした土門だったが、里芋と椎茸を頬張る。

「旨い!」
「よかったぁ。どうぞ、召し上がってください」

土門は遠慮なく箸を伸ばす。
すぐに空になった箱を土門は自分の荷物にしまった。

「洗って返すな」
「いいえ!そんなことをしていただくわけには…」
「構わん。旨かった。ありがとう」

土門は立ち上がると、「遅れるなよ」と声をかけ、一足先に戻っていった。



その日の夕方、土門は久しぶりに京都府警の入口をくぐった。
今年度の生徒達の配属先について、打ち合わせを行うためだ。
今までとは違い、制服に身を包んだまま。
これまでとは違い、警務部へ足を向ける。
そこで人事のエースと呼ばれる二渡ふたわたり警視と小一時間ほど打ち合わせをし、土門は今日の業務を終えた。
帰りしな、やはり懐かしくなり、捜査一課を覗いてみた。

「土門さん!」

いちはやく気づいた蒲原が声を上げた。

「よお!」

部屋にいた他の面々も土門に気づくと、みな声をかけてくれる。
そして、今日は珍客もいた。

「土門さ~ん!」とヒラヒラ手をふる長身の男は、マリコと同じ白衣を羽織っている。

「橋口!久しぶりだな」
「うん。土門さんも元気そうだね?」
刑事課ここにいるより健康的な生活を送っているからな」
「ははは。そうだよね~。あれ?土門さん、それなに?カワイイね!」

呂太が指差しているのは、土門が提げている半透明の袋の底に見えているカラフルな箱。

「ああ、これか?昼に生徒から弁当のお裾分けをもらってな。洗って返すんだ。残念ながら、空だぞ」

からりと笑う土門だったが、蒲原と呂太は何となく嫌な予感がした。

「生徒って、女性ですか?」
「ああ、そうだ」

「土門さん、今日は科捜研にもくる?」
「いや、特に用事はないな」

「それならいいけど…。そのお弁当箱、マリコさんには見せない方がいいと思うよ」
「何でだ?」
「うーん、勘?」
「は?」

土門はいつものごとく、片方の眉をあげる。

「よくわからんが…。あいつは料理になんて興味ないだろう」

そこでこの件の会話は終了し、土門は別の刑事たちと会話を始めた。

「ふーん。土門さん、甘く見ちゃダメだと思うなぁ」

呂太は、「マリコさんに、土門さんに会ったことは伝えておこう」と呟いて科捜研へ戻っていった。



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