続いていく、二人
姿を消した火浦を追って……。
事件の真相を確かめるために。
今日から正式に土門が捜査に合流する。
マリコは目を覚ますと、洗面所で顔を洗う。
何となくいつもより丁寧に化粧を施し、いつもより時間をかけて髪を整える。
そしてキッチンに向かい、冷蔵庫を開けた。
栄養補助ゼリーを手に取り……マリコはためらう。
『バレたら絶対怒られるわよね……』
一瞬悩んだ後、ゼリーを元の場所に戻すと、牛乳を手に取った。
テーブルに用意した皿にシリアルと牛乳を注ぐ。
新聞に目を通しながら、少しずつ喉に流し込む。
家を出るまであと15分。
マリコはクローゼットから、迷うことなく服を選んだ。
「おはようございます!」
「あ、マリコさん、おはようございます!」
亜美がお団子頭を揺らし、元気に挨拶する。
「マリコさん、そのコートに赤いニットのコーデ、素敵ですね~」
「そう?」
「やっぱりマリコさんは、赤が似合います!」
「ふふふ。ありがとう」
マリコは亜美に微笑んでみせた。
「榊」
「土門さん」
名前を呼び合い。
視線を合わせ。
これまでのように、懸命に捜査に臨む。
二人で。
一緒に。
この服とネクタイの色がその証。
土門が心に蓋をしていた過去も……ようやく全てが明らかとなった。
そして。
屋上にはマリコが立っている。
「土門さん?」
ふと、マリコは振り返る。
空は晴れ渡り、暖かさと少しの冷たさが混じった秋の空気は清々しい。
見下ろす京都の街並みは、いつもと変わらぬ時を刻んでいる。
でも、今ここに ―――――。
――――― ただ、貴方だけがいない。
足早に駆け抜ける風は、いたずらにマリコの髪をさらっていく。
――――― 待っていろ……。
風に乗ってふいに届いたそれは、マリコの幻聴だろうか?
一歩踏み出し、出口へと向かうマリコは、ここへ来る前の亜美との会話を思い返す。
「マリコさん、きれいな色のカットソーですね!ピンク……薄紫ですか?」
「ほんとう?ありがとう。実は、今気に入っている色なの……」
マリコは睫毛を伏せて、ある人物の顔を想い描く…。
紫は赤と青の混色。
どちらかの色の配分次第で、青にも、そして赤にもなる。
立ち止まり、マリコは胸元に手を当てる。
私はこの服が赤く変わる未来を願っているわ……。
貴方の赤いネクタイと、私の赤い服。
糸ではないけれど、きっと繋がっている。
――――― 待っている。
今はどちらの色にも染まらぬままに。
――――― 待っているわ。土門さん。
――――― 待っていろ。待っていてくれ……、榊。
マリコはもう一度京都の街を振り返る。
それはきっと、幻聴なんかじゃない。
fin.
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