館内異性間交流




その日、マリコは調べもののために府立図書館を訪れていた。
書棚の一番奥のスペースを朝から陣取り、科学、人体、犯罪といったタイトルの散らばった分厚い本や雑誌を何冊も両脇に積み上げている。
「これにも載ってないわ……」
お目当ての論文が見つからず、マリコは席を立ち、また次の本を探す。

左端の本から背表紙をなぞるように、右手の人差し指を滑らせ、気になる本を数冊抜き出す。
だんだんと自分の背を越えた高さの書棚まで探し進めていくと、一段と興味を引くタイトルを見つけた。
「もしかして、これなら……」
んー、と背を伸ばすが指先すら届かない。
近くに踏み台も、はしごも見あたらないので、仕方なくマリコは司書に頼もうとした。

「この本か?」
頭の上から声をかけられ、マリコは隣を見上げた。
「えっ?土門さん??」
先程から隣に人がいたことには気づいていたが、まさか土門だとは思いもよらなかった。
「全然気づいてなかったな?(苦笑)」
ほらっ、とお目当ての本を取り出して渡してくれる。
「ありがとう……何か急ぎの用だった?」
館内なので、マリコはスマホをマナーモードにしていた。
もしかして、連絡に気づかなかったのかもしれない。
「いや。昼飯を食いに出た途中だ」
「えっ?もうそんな時間!?」
マリコの腕時計は12時半を過ぎていた。
「お前、昼飯は……まだ、だな?」
「ええ。12時過ぎているのも気づかなかったわ」
「相変わらすだな。ひと休みして、飯行くか?」
「そうね!この本だけ置いてくるから待ってて」
そういうと、かなりの重量がある本を両手で抱え直す。

「重そうだな」
「持ってくれるの?」
「いや……」
期待しているマリコには悪いが、こんなチャンスをものにしない手はない。
土門は両手がふさがったマリコを書棚に押し付けるとその唇を奪った。
押し返すこともできないし、図書館なので大きな声を出すこともできない。
マリコはただ土門のなすがまま、その唇が離れていくのを待つしかなかった。
「そんな顔して怒っても迫力ないぞ?」
土門は真っ赤な顔で睨むマリコの唇を親指でなぞる。
「こんな風に無理矢理されるのは嫌!しばらく土門さんとはキスしません!!」
圧し殺した小声でマリコは悔しそうに言うと、土門を残してスタスタと席に戻っていく。

「おい、榊!」
これは本気で怒らせたか?と焦った土門がマリコの肩を引くと、くるりと振り返り、土門の腕に本の束を乗せる。
「私の机まで運んで。あと、お昼は土門さんの奢りよ」
腰に手を当て、人差し指を土門の鼻先に突きつけて、わかった?というように詰め寄る。

「……わかった」
土門は神妙な面持ちで、大人しく頷くしかなかった。




fin.



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