第一章

 周りが全て記号のような日常。そんな生活、抜け出したかった。感情が渇ききった私__冬月 恋依(ふゆつき こよみ)__は今日も退屈な日々を過ごしている。私はいつものキャンパスに足を踏み入れ、感情の色をなくす。

「恋依おはよ。」
「おはよう。」

 キャンパス内でできた友人と他愛のない話をして授業を受ける。だが、今日のキャンパスの空気は一味違った。全員が一つの話題で持ちきりになり、色々な妄想を楽しんでいる。

__転入生

 そう、今日この大学に転入生が入ってくる。だが、私は一切興味がなかった。イケメンかな、優しいかな、友達になれるかな、そんなの正直どうでもよかった。別に転入生が誰だろうと私には関係ない。

 今の人生、正直楽しくなかった。勉強、生活は飽きるほど同じような毎日を送っている。趣味も特になく、周りや人々、環境が全て記号のような毎日と感じる。そんな私の人生、特に興味が惹かれることはなかった。だが、最近興味があるものができた。

「調律師」だ。

 昔吹奏楽部に入っていたこともあって、音楽用語には惹かれる。でも、その内容は残酷で、誰もが背を向けたくなるようなことだった。私以外は。人生が退屈で、そんな非日常に憧れる毎日。調律師のその犯行がひどく美しかった。他の人に言ったら引かれるだけだろう。

 でも、私はそう言う人だった。昔からミステリーやサスペンスが大好きで、色々な殺人を見てきた。最近ニュースでやっている殺人事件。親や友達は「怖いよね〜。」とか言ってるけど私は違った。犯行があまりにも単純すぎるからだ。ナイフで滅多刺し、首を絞める、どれも単純で絶対に警察にバレる。その場だけのその時の気分だけの犯行、実に面白くなかった。

 でも、調律師は違った。ターゲットを慎重に選び、ターゲットをじっくり痛めつける、それから遺体を隠すがその隠し方も美しい。警察や他の人が絶対に見つける場所に隠していた。……隠しているとは言わないか。そして、遺体を見つけさせるためにマークを刻んでいる。これは警察の挑発に見える。だが、犯人の痕跡は全く残さず、今でも犯人の尻尾は掴めていない。

 ……これこそが私の描く理想の犯行像だった。特にお気に入りなのが「ターゲットをじっくり痛めつける」こと。一回急所を刺したら人間は一回で死ぬ。でも、急所をわざと外し、悲鳴や痛み、恐怖の顔をじっくり堪能してから殺すと言うところが私と似ている気がした。そして、マークを刻み、全世界へ「私の犯行だ。」と自慢している。典型的なサイコパスだし、私と同じ思考をしていることで親近感が湧いた。

 犯人を特定しようとしたこともある。だが、警察が全く犯人を特定できていないのだったら一般人の私は無理だろう。すぐ諦めた。だが、犯人に会って何故、こんな犯行をしているのか聞きたかった。私と同じところを探したかった。

「初めまして、須能大学に転入してきました、御代 律(みしろ りつ)です。よろしくお願いします。」

 私は一瞬にして惹かれた。彼の命を宿す漆黒の黒い目。ハイライトがなく、死んでいる目。私と同じだ。直感的にそう感じた。興味深い。私はどうしても彼に接触したかった。彼が何をどう思いこの大学に転入してきたのか。私と同じ思考をしているのだろうか……。今すぐにでも彼に話しかけたい。私の本能がそう言っていた。だがここは所詮普通の大学、今は普通の授業。そんな権利はない。授業が終わるまで待つことにしよう。

 と、聞いてしまった。いや、耳に入ってきた。彼の評価。「え、まって!イケメンなんだけど!」「かっこいい〜優しそう!」「手綺麗……。」そんな単純なものなのか、人間は。そういうものか。人間は旧石器時代から脳の発達は変わっていない。発達していない。だから、単純。彼に近づきたい人は多い。だが、目的が違う。そこらへんの女子がイケメン目的で寄ってたかるのとは訳が違う。私は、そんなことには興味がない。

 チャイムが鳴った。と同時に彼の前に女子が寄ってたかっている。

「律くん、だよね。連絡先交換してくれない? 」

 女子は、彼にメロメロだった。その様子を冷めた目で見る私。少しでも存在に気づいて欲しくて、最大の狂気と歓喜を何もない目に宿して。

  そして彼は気づいた。すれ違いざま、彼は私にしか分からない狂気の目を向けた。光は一切宿さず、虚無の目。私は嬉しかった。彼が私を認識してくれた。だが、彼が好印象の目で私を見たわけではないことだけ分かった。ただ、少しの独占欲と冷静に見下していることは考えないでおこう。
1/1ページ
    スキ