第一章
「ただいまー。」
いつもは帰ってくる「おかえり」の返事。だが、今日はこの家には誰もいない。パパは出張、だが、家政婦さんみたいな人が来るみたいな情報があったが、その家政婦さんみたいな人は一体誰なのだろうか。
「おかえり、純恋ちゃん。」
キッチンに立っている見覚えのありすぎる後ろ姿。お気に入りの赤いワンピース、髪先を巻いた茶髪のロングヘアー、パパが好きそうな安心する背格好。いや、私は安心しない。この人は、私の一番近い人で、一番恩を返さなければいけない人。でも一番大っ嫌いな人。
「お母……さん、?」
「そうだよ。」
「嘘……。」
私はただ、唖然としその場に震えて立っていることしかできなかった。パパはなぜ、私と美咲さんを二人っきりにしていいと思ったのだろう。そっか、パパは私が美咲さんのこと嫌いって知らない。私もパパと一緒で美咲さんのこと大好きだと思っているのか。
「あ、今日純恋ちゃんのためにいっぱいご飯作ったから。」
私は悔しいのか、怖いのかはわからなかったが、美咲さんの話を聞かずに部屋へ走って逃げてしまった。もう、何も考えたくなかった。今の家族の状況、関係、信頼。もう何もかもわからなくなってしまった。
何故、美咲さんがいるのだろうか。パパは美咲さんと縁を切ったはずじゃなかったのか。じゃあ何故、二人は結婚しなかったのだろうか。何故、何故美咲さんは今頃、この家庭に顔を出してきたのだろう。
*
「ただいま〜」
「おかえり。」
午後八時、春上雅夜は帰宅した。愛する美咲がいる家へ。帰宅するとそこには純恋の姿はなく、少し落ち込んでいる美咲の姿があった。そしてまた、昔の懐かしい光景が目の前にある、とひどく幸福感に見舞われた。
「何か、美咲がいるの、久しぶりだな。」
「そうだね。おかえりっていう人がいつもと違うからドキドキしちゃう。」
雅夜は、嬉しかった。昔愛してた、美咲がこの家に戻ってきてくれたんだから。そして、もう、この家に閉じ込めておきたかった。重婚は認められない日本。その制度に雅夜はひどく悩まされてきた。そして、衝動に抑えきれず、雅夜は美咲にバックハグをした。
「美咲は俺の特別。」
「私も雅夜くんは特別。」
そして、二人して触れ合ったはいいもの、雅夜は不安になってしまった。
「…ねぇ、やっぱあの男のところに行っちゃうの?」
「まぁ、ね。もう私は逃げない。」
これが美咲の個性だ。美咲は目の前にある出来事に一生懸命で、全力を尽くすタイプだ。雅夜はそういう美咲の性格に惚れたが、こういう時に対して不利な状況にある。雅夜は美咲と結婚したいと思っている。純恋を養うためにも、純恋の将来のためにも、父子家庭は不利な現実だ。
「そっか……。何か辛いことがあったら真っ先に俺のところに来てね。」
「うん。言われなくてもそのつもり。」
今の雅夜にはこの言葉で精一杯だった。「好き」の二文字だけなのに、こんなにももどかしくて苦しい日本語はないと実感した。そして切り替え、話題を変える。
「さて、ご飯食べるか〜、純恋は?」
さっきから気になっていた純恋の行方。普段はリビングで絵を描いているのだが、今日はその姿は見当たらない。やはり、美咲がいることに対して違和感を抱いているのだろうか。
「多分、自分の部屋にいるんじゃない?」
「そっか、呼んでくるね。」
「うん。」
雅夜はそのまま、愛する美咲の唇に小さくキスを落とした。抑えきれない衝動が、呼吸と共に溢れる愛が、もう限界を迎えようとしていた。雅夜は、もう限界だった。美咲を奪い去りたいと思う気持ちが、好きという気持ちが溢れかえってしょうがないのだから。今日くらい、今くらいは夢見させて、と願う。
「俺はまだ好きだよ。」
いつもは帰ってくる「おかえり」の返事。だが、今日はこの家には誰もいない。パパは出張、だが、家政婦さんみたいな人が来るみたいな情報があったが、その家政婦さんみたいな人は一体誰なのだろうか。
「おかえり、純恋ちゃん。」
キッチンに立っている見覚えのありすぎる後ろ姿。お気に入りの赤いワンピース、髪先を巻いた茶髪のロングヘアー、パパが好きそうな安心する背格好。いや、私は安心しない。この人は、私の一番近い人で、一番恩を返さなければいけない人。でも一番大っ嫌いな人。
「お母……さん、?」
「そうだよ。」
「嘘……。」
私はただ、唖然としその場に震えて立っていることしかできなかった。パパはなぜ、私と美咲さんを二人っきりにしていいと思ったのだろう。そっか、パパは私が美咲さんのこと嫌いって知らない。私もパパと一緒で美咲さんのこと大好きだと思っているのか。
「あ、今日純恋ちゃんのためにいっぱいご飯作ったから。」
私は悔しいのか、怖いのかはわからなかったが、美咲さんの話を聞かずに部屋へ走って逃げてしまった。もう、何も考えたくなかった。今の家族の状況、関係、信頼。もう何もかもわからなくなってしまった。
何故、美咲さんがいるのだろうか。パパは美咲さんと縁を切ったはずじゃなかったのか。じゃあ何故、二人は結婚しなかったのだろうか。何故、何故美咲さんは今頃、この家庭に顔を出してきたのだろう。
*
「ただいま〜」
「おかえり。」
午後八時、春上雅夜は帰宅した。愛する美咲がいる家へ。帰宅するとそこには純恋の姿はなく、少し落ち込んでいる美咲の姿があった。そしてまた、昔の懐かしい光景が目の前にある、とひどく幸福感に見舞われた。
「何か、美咲がいるの、久しぶりだな。」
「そうだね。おかえりっていう人がいつもと違うからドキドキしちゃう。」
雅夜は、嬉しかった。昔愛してた、美咲がこの家に戻ってきてくれたんだから。そして、もう、この家に閉じ込めておきたかった。重婚は認められない日本。その制度に雅夜はひどく悩まされてきた。そして、衝動に抑えきれず、雅夜は美咲にバックハグをした。
「美咲は俺の特別。」
「私も雅夜くんは特別。」
そして、二人して触れ合ったはいいもの、雅夜は不安になってしまった。
「…ねぇ、やっぱあの男のところに行っちゃうの?」
「まぁ、ね。もう私は逃げない。」
これが美咲の個性だ。美咲は目の前にある出来事に一生懸命で、全力を尽くすタイプだ。雅夜はそういう美咲の性格に惚れたが、こういう時に対して不利な状況にある。雅夜は美咲と結婚したいと思っている。純恋を養うためにも、純恋の将来のためにも、父子家庭は不利な現実だ。
「そっか……。何か辛いことがあったら真っ先に俺のところに来てね。」
「うん。言われなくてもそのつもり。」
今の雅夜にはこの言葉で精一杯だった。「好き」の二文字だけなのに、こんなにももどかしくて苦しい日本語はないと実感した。そして切り替え、話題を変える。
「さて、ご飯食べるか〜、純恋は?」
さっきから気になっていた純恋の行方。普段はリビングで絵を描いているのだが、今日はその姿は見当たらない。やはり、美咲がいることに対して違和感を抱いているのだろうか。
「多分、自分の部屋にいるんじゃない?」
「そっか、呼んでくるね。」
「うん。」
雅夜はそのまま、愛する美咲の唇に小さくキスを落とした。抑えきれない衝動が、呼吸と共に溢れる愛が、もう限界を迎えようとしていた。雅夜は、もう限界だった。美咲を奪い去りたいと思う気持ちが、好きという気持ちが溢れかえってしょうがないのだから。今日くらい、今くらいは夢見させて、と願う。
「俺はまだ好きだよ。」