第一章

「き、木下さん!!」

 次のチャイムがなった時、私は木下さんに謝りに行くことにした。木下さんに声をかけるが、本を読んでいて見向きもしない。本に集中しているのだろうか。その気持ちはよくわかる。だが、何回声をかけても返事をしてくれることはなかった。

「……青葉でいい。」

 やっとのことで木下さんは返事をしてくれた。こちらを見ることはなく、本に視線を落としながら。「青葉でいい。」とはどう言うことだろうか。木下さん……じゃなくて青葉くんって呼べばいいのだろうか。

「えーっと、青葉くん?あの、さっきはありがとうございました。」
「……。」

 謝罪をするが青葉くんはこちらに向くことはなかった。ただただ本に集中しており、これ以上は言葉を返してくれない雰囲気が漂っていた。返事は諦めようと席に戻ろうと思った時……。

「読書の邪魔しないでくれる?」
「あ、ごめんなさい。」
「あと、当然のことをしただけだし。いじめてる人の頭がおかしいんだから。」

 いじめている人の頭がおかしい。本当にそうだ。嫌なところがあれば、治すことだってできるのに。なぜ、暴力と暴言、と言う人を傷つける行為に走ってしまうのだろうか。そう考えて席に戻ろうとすると、四葉ちゃんがこちらへ向かってきた。

「なんなんあいつ。態度悪すぎへん?」
「まぁまぁ、四葉ちゃんそんなこと言わずに。」

 四葉ちゃんは普段いい子なんだけど、少しお口が悪い時があるんだ。完璧な四葉ちゃんにも欠点があって、少し親近感が湧く。と、教室の外に一つの人影があった。

「純恋ちゃんいる?」

 岡崎 大雅(おかざき たいが)くんだ。少し経ってから私が呼ばれてるんだ、と思い声をかけに行こうと思った瞬間、あの、稲垣留美が大雅くんに話しかけに行った。

「大雅様!!どうされました?」

 大雅くん、容姿も良くて性格もいいから色んな女の子にモテるんだ。稲垣留美もその1人で、今日も大雅くんに絡んでいる。

「純恋ちゃん呼んでくれる?」
「はい!!」

 留美と大雅が話し終え、留美がこちらにくるっと向きを変えた瞬間顔つきが変わった。こちらを睨むように目を細め、鬼の血相をし、こちらに向かってきたのだった。大雅くんに関わっているからって嫉妬でもされたのだろうか。もしかして、いじめられている原因もこれ?

「ブスミレ、大雅様がお呼びよ。」

 私は留美の目つきが怖くなり、早足で大雅くんのところへ行った。大雅くんはそんなことも知らず、天使のような微笑みでこちらを見ている。

「大雅くん、どうしたの?」
「最近会えてなかったなって……。」

 そうだ、最近大雅くんに色々迷惑をかけてしまうから、と言ってあわないようにしていた。留美関係で。歌絵はそんなに大雅くんのことは好きじゃないらしいんだけど、留美はかなりの大雅くんファン。しかも私がアイドルを推していることもあって少し気まずい空気になっていた。

「今日、一緒に帰らない?」
「うん。」

 まさかその質問が飛んでくるとは思わなかった。大雅くんとは家の方向が一緒だし、たまに一緒に帰ってたんだけど、今日一緒に帰れるとは思ってなかった。と、それを横目に聞いていたのだろう、四葉ちゃんが会話の中に入ってきた。

「岡崎さん!!抜け駆け禁止!彼氏やからと言ってこの四葉様から純恋を取ろうなんて百年早いで!!」
「そ、そっか。」

 安定の四葉ちゃん。私のことを大切にしてくれてるんだなぁ、って実感できる一言。四葉ちゃん特有の笑いの取り方。大雅くんは若干引き気味。こう言う時は四葉ちゃんも一緒に帰りたいと言うことだろう、と感じ取れる。

「四葉ちゃんも一緒に帰る?」
「いいの!?やったぁー!!」

 大雅くんには申し訳ないけど、四葉ちゃんにも申し訳ない。あと、大雅くんと四葉ちゃんも仲良くなってほしい。四葉ちゃんは大雅くんのこと岡崎さんって呼んでるし、大雅くんは四葉ちゃんのこと名前すら知らないんじゃないかな?

「ってことで。」
「じゃあね。」

 そのまま、大雅くんは教室へ帰って行った。四葉ちゃんはウキウキで謎の舞なんて踊っちゃって。そんなに一緒に帰ることが嬉しかったのか、と思うと私はやっぱり大切にされているんだなって実感できる。私は、いい友達に恵まれているんだな。

 そして、楽しい1日がもう直ぐ終わる、と思っていた。あの時までは。
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