第二章

 次の休み時間も、何日が経過しても、四葉の憎悪の目は一層強く、濃く増していった。クラスの全員が、私のことを無視し、留美と四葉を中心に私のものを隠したり、机を蹴ったりする。まさしく、漫画に出てくるようないじめ方法。いや、漫画に出てくるようないじめしか知らない、ということだろうか。

「おい純恋、いつもさ、私強いですよ、被害者ですよ、って顔してんのマジでムカつくんやけど。」
「それなー!実際はそんなに弱くないくせに!」

 いつも救われていた四葉ちゃんの優しい声のトーンと関西弁。だが、その優しさは裏返り、関西弁によることで憎悪がもっと滲み出ているようにも感じた。

 ついに、居なくなった私の心の居場所。

 大雅くんも、廊下ですれ違うと、気まずそうに目を細めて逸らす。嗚呼、もう大雅くんは私を必要としなくなったんだ。別に、友達で十分だったんだ。ただの恋人ごっこ、別にいつでも切り捨てられる都合のいい女だったのかな。

 もう、誰も信じられない。四葉ちゃんも、大雅くんも、私を必要としなくなった。私が居なくても大丈夫、ということを知ってしまったんだ。

 大雅くんの去っていく背中を見て、寂しい、そう悟った。私は、もう誰にも必要とされず、一人、一生孤独で生きていくんだ。友情も、愛情も、崩壊し、親情も崩壊しかけている。いや、もう崩壊しているのだろうか。

 そんな自分の人生に、存在に、反吐が出る。

 放課後、私はついに限界を迎えつつあった。メンタルが崩壊し、人間不信になりかけていた。もう誰も信じれない。私の弱さに漬け込もうとした人は、全員私を最後絶望の淵に落とさせる面白い玩具なんだ。

 図書室で一人泣く私。嗚呼、なんて惨めで酷い存在なのだろうか。誰にも頼れず独り孤独で泣いている一匹の生き物。存在価値を忘れ、自分が何者か問いかける一つの塊に過ぎない。

 と、私の前にココアが入った可愛いマグカップが置かれた。静かに、そっと、私を壊れ物みたいに扱うように、少しの刺激で壊れて行かないように、そっと、優しく。咄嗟に顔を上げ、辺りを見回す…必要もなく、一人の男の子が私を悲しそうな目で見ていた。普段、そのポーカーフェイスを崩さない、あの男の子が、表情を崩して、悲しそうな顔をして私を見ていた。

「あ、青葉……くん。」

 私は、少し心が楽になった。さっきまで人間不信になりかけて、誰も信じられなかったのに。その青葉くんの些細なカップを置くだけの行動、表情によって私の心は意と簡単に砕け散ったのだった。人間は、なんて単純なのだろうか。

「無理して、笑わなくていいんだよ。」

 決定的な一言だった。私は、今までの感情が嘘みたいに吹き飛んでいった。私に、こんな醜い私に寄り添ってくれる一つの光。傷口にどれだけ薬を塗っても治らないと思った。でも、違った。やはり人間は弱い。一人の力ではどうしようもできない。人間は、救いようがない醜い生き物なのだと、今一度実感した。

「ただいま。」

 家に入ると一番に頭の中に入ってくるのが美咲さんの匂い。ただ、昨日より少し強くなってる気がする。嗅覚操作が入った後、視覚操作が入ってくる。明らかに私とパパのものではない女物のピアス。小説なら、そのピアスをもって「これ何?」と問い詰める場面だろう。でも、私にはそれをする勇気と気力は全くなかった。だから、少しカマをかけるんだ。

「ねぇパパ。ピアスが落ちてたんだけど、可愛いからもらっていい? 」

 といい、美咲さんのものであろうピアスをパパに見せる。パパはわかりやすく顔を引き攣らせ固まる。その後作り笑いなのか。口角が少し歪んでいる。その後パパは震えた声で「かわいいピアスだね、いいんじゃない?」と言った。「美咲さんが可愛い」と言うニュアンスも少し含まれているのだろうか。不倫相手のピアスを娘にあげる。これは、美咲さんと私を重ね合わしてみてるのだろうか。それか、パパのものになって、と言う本心なのだろうか。気持ち悪い。

「パパ、美咲さんと仲良くね。」

 と言い残し部屋へ戻った。パパは絵に描いたように真っ青になり、ガクガク震えていた。今まで、美咲さんを家に連れてきたことを本気でバレていない、と思ったのだろう。パパは、信じられない。相談なんかできない。

 美咲さん、あなたは私とパパの絆を、春上家の治安を、どうやって壊そうとお考えなんですか。パパも、必死で隠していて。まぁ、バレバレなんですけどね。大根役者っぷりに笑いをあげます。または、私の家庭環境を壊そうとお考えにならないのでしたら、どう言うつもりですか。どう考えても、人の家庭に踏みいじり、壊しにかかっていますよね。自覚はあるのでしょうか。

 私は今、最強の孤独感に襲われています。昔の私の発言、思いが死亡フラグだったかのように、全てが壊れようとしています。留美のいじめ、四葉ちゃんの寝返り、大雅くんの別れ……そしてパパと美咲さんの不倫。どう考えても、どうポジティブに考えようとしても、いいところが全くありません。救いだったのは、青葉くんくらいじゃないですかね。

 面白いですよね。これが、美咲さんが「最悪の形」として産んだ一人娘の末路ですよ。せいぜい自分の犯した罪に呪われてくださいね。嗚呼、可哀想な私、可哀想な美咲さん。
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