HEAT
name change
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「はぁーーーー」
大きなため息とともに沙明の頭が胸元に降ってきた。あからさまにショックを受けた沙明の態度は年端もいかぬ幼子のようで、思わず名前の頬は緩んでしまった。
微睡みの中にいても沙明が迫っていることは気づいていて、でも決して嫌ではなく、沙明なら良いと思って目を瞑ったのだ。
(たかが自分とのキスひとつでこんなに翻弄されるのか)
そう思うといたずら心がムクムクと湧いて——こういうところは、まだまだ自分も子どもだと思う——、まだ胸元に沈んでいる沙明の頭をぽんぽんと撫でる。むくりと顔が上がって目が合った。何か言いたげだが何も言われないのを言いことに、そのまま撫でるのを続けているとまた沙明の顔は胸元に沈んだ。
しばらくそうしていると沙明の体が段々とリラックスしてきたのか体重がのしかかる。このまま時間を過ごすのも悪くはないが、だんだん胸が圧迫されて苦しくなってたし、流石にそろそろ肌寒くなってきた。水着姿でまだ髪も体も半端に濡れたままだ。
「寒い。服着ない?」
プールサイドから下りて床に散らばった服を集めると、もう慣れてしまったループの感覚があった。
終わらないループだと思っていたが、今この瞬間というものはすぐに終わってしまうのだ。このまま沙明と別れるのが名残惜しいとすら思ってしまって、時間はあるようでないのだと思い知らされる。
(もう少しだけ、この時間が続けばいいのに)
なんて、とても自分勝手なことを考えてしまって、ともに時をかけるあの子に心の中で謝罪をした。
ふと温かいものが背中から纏わる。はっとして状況を捉えると沙明にうしろから抱きしめられていた。
「服、着ねーの」
「ん。着るよ」
服を着ると伝えたはずなのに沙明は離す気配はない。
「またボーッとしてんのかよ。やっぱお前警戒心とかねーだろ。二人っきりなんですケド?」
「警戒……」
沙明に言われて考えてみたが確かに今、沙明に対して警戒は全くと言っていいほどしていなかった。それはなぜかと考えた結果「沙明は他人が本当に嫌がることはしない人だから」という答えを導き出した。その証拠に今だって力尽くで物事を進めることも可能なのにこうして警告を促してくれている。
沙明のセツに対するアレな言動を思い出すが、あれはあくまで沙明にとっては〝初めて〟の出来事だから仕方ないと呆れるほど甘い結論にたどり着いた。
「むしろ安心する、かな。寝ちゃいそうなぐらい、ふふっ」
「ハッ、そうだったなァ!」
首を傾けて沙明の顔を覗き込むと、すぐそばで目を細めて笑う沙明がいた。
また初めて知る表情だと、気づくと同時に腹の底からあたたかい気持ちが湧き上がる。
これまで何度も初めましての再会をして、それなりの時間を共有してきたと思っていたがまだまだ足りないらしい。この短くも長い時間の中で、名前はこの船に乗り合わせた仲間以上に、一個人として沙明のことを想い始めていた。
このループを終わらせるためには特記事項の解放が必要なことはわかっているが、今となってはそれよりも好きなものや嫌いなもの、下船後はどこに行くのか、これから何をしたいのか、ただただそんなことが知りたかった。
「ねえ沙明」
次はどんな皆に、君に会えるだろうか。そう考えると芽吹く季節を待つ草木のような気持ちが芽生える。
沙明の腕の中で向きを変え、しっかりと顔を見合わせる。
今の名前の頬は火照り、胸は時間よりも早いスピードで鼓動を刻んでいた。
「君のことをもっと知りたくなったよ」
『終了条件を満たしました』
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