HEAT
name change
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沙明は戸惑っていた。まるで自身が善人であるかような評価をされ、そんなことは初めての経験だったからだ。しかし沙明はそれを悟られることを良しとせず、名前の意識を逸らすためにわざと大袈裟なモーションで寝転んだ。
「あーあ、心配して損した」
当たり前だがプールサイドの床は硬く、お世辞にも寝心地がいいとは言えない。寝転ぶと名前の背中が見える。名前の肩には先ほど沙明が渡したタオルがかかっているが、腰から下は体のラインが丸見えになっている。沙明はこれ幸いと着替えの時には遠慮してしまった彼女の姿をじっくりと堪能した。
「私も疲れたから、ちょっと休憩〜」
バレないように大人しく見ていると名前が突然隣に寝転ぶ。
「はぁ⁉︎ ナニしてんだ⁉︎」
「だから休憩だって」
「お前……。男の隣に寝っ転がって、もっと警戒心みたいなのはねーのか?」
「あるよ。人並みには!」
沙明の気も知らないで、「んー」とか「むー」とか唸りながらタオルを枕にしようと高さを調節している。
沙明はため息を吐いて天井を見上げた。ここが展望室なら綺麗な景色を映し出したりしてムードがあるのに。目に映るのはただの無機質な天井ばかりで情緒もない。横では未だうんうん唸りながら今度は枕の位置の調整をしているし。
そういえば沙明も疲れて休憩したかったのに、結局名前を救助するために余計に体力を使って、さらに疲れたことを思い出した。フタを開けてみれば沙明の勘違いだったわけだが、なかなか浮上してこない名前が心配で考えるより先に体が動いたので仕方ない。
ようやく良い位置が見つかったようで名前は満足げな表情でタオルに頭を預けていた。
それにしても静かだ。船内には二人しかいないし、どちらも黙れば無音がこの場を支配する。
あまりにも静かなのですぐそばにある名前の手に自身の手を伸ばした。やわやわと手の甲を撫でてそのまま指を絡め取る。それでも反応がないため「起きてるか?」と声をかけながら繋いだ手を揺さぶった。
「んー。おきてるおきてる」
「そうやって二回繰り返して言う奴は信用ならねェ」
「えぇ〜、心外だなぁ」
一応起きてはいるみたいだが話し方がいつもより間延びしている。片肘をついて名前を見るとやっぱり眠そうな顔をしていて、目はトロンとしていた。そのまま眺めていると、段々と彼女の瞬きが遅くなって目が開いている時間のほうが短くなった。それでも眠気に抗って必死に瞼を持ち上げようとしているのがみてとれて思わずふっと口元が緩んだ。名前の瞼がぴくりと開いて、目が合い、ふにゃりと力なく笑いかけられると心臓がキュッと締め付けられて痛いくらいだ。
まだ濡れたままの名前の髪を撫でながら彼女の顔を眺めていると、むくりと欲が頭をもたげる。
怖がらせないようにゆっくりと、しかしながら逃げられないように確実に両腕の檻で囲い込む。そうして名前の視界に入るようにするとトロンとしていた目が僅かに開いた。
「しゃーみん?」
しかしまだ眠気が勝っているのか舌にもつれる甘たるい声で名前を呼ばれた。ただそれだけのことなのにまた心臓が妙な打ち方をした。
こわれものにでも触れるように慎重に近付く。お互いの鼻が触れそうなほどの距離まで近づいたが名前は嫌がる素振りはない。むしろそんな沙明の行為を許すように名前は目を瞑った。
沙明が瞼を閉じる瞬間、名前の体が小さく震えたのがわかった。
——へくしゅ!
それはそれはムードを吹き飛ばすような可愛らしい名前のくしゃみだった。
「お前なー」
はぁー、と思わずため息が漏れた。自身のくしゃみで驚いたのか名前の瞳はもうぱっちりと開いていた。
「だって……寒くない?」
「あ? そういえば、そうだな」
名前に言われて気づいたが、さっきまでの暑さは和らいでむしろ肌寒さを感じるくらいだ。
〈沙明様、名前様! ただいま空調設備の復旧を確認いたしました!〉
「はぁーーーー」
さっきよりも大きいため息が出た。ため息というより不満の声のほうが近いかも知れない。
「んふふ……」
「笑うなよ」
「だって……ふふっ」
あからさまにガッカリしている沙明に、名前は堪えきれないとばかりに体を震わせている。
さっきまであったはずの蜜を纏ったような雰囲気は消えて無くなってしまった。
沙明はわざとらしくもう一度ため息を吐いた。キスができなかった腹いせにどさくさに紛れて名前の胸に顔を埋めた。