HEAT
name change
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『すべてのグノーシアがコールドスリープしました』
コールドスリープ室の前で名前と沙明は顔を見合わせて息を吐く。LeViの案内でやっと緊張の糸が切れた。
今回は散々な結果だった。最後までグノーシアの嘘に翻弄され、救われるべき仲間は救えず、なんとか乗員側が勝利したものの、残ったのはこの二人のみだった。
「とうとう俺らだけになっちまったな」
「うん」
沙明の言葉に改めて現実を突きつけられ、名前は鉛を飲んだ気分になった。いくら謝ったところで謝り足りない。余計な犠牲を何人生んでしまったのだろう。お互いただの乗員のためドクター調査もできず、現状では仲間たちのコールドスリープを解くこともできない。
何か会話があるわけでもなかったが、なんとなく二人ともそこから動けないでいた。
「血、出るぞ」
「え?」
沙明は自身の口元をトントンと指差している。
「唇、切れるぞ」
悔しさからか知らずのうちに名前は唇を噛んでいたようだ。唇に触れると歯形が付いているのがわかった。もう少し遅かったらぷつりと切れていただろう。お礼を言おうと沙明のほうを見ると、彼の視線はまだ唇に向いていることがわかった。唇を触っていた手を掴まれ、反対側の肩も掴まれれば、二人は向き合う形になる。
「……沙明?」
「名前……」
その役目のせいか、いつも薄ら寒く感じるコールドスリープ室とその周辺。今は沙明と二人でいるおかげか、あまり寒さを感じなかった。
沙明にとっては数日だが、名前はもう何度もループを繰り返しているうちに少しずつ彼の人となりがわかってきたところだ。
〝性格的にも保身優先で、とにかく自分が生き残ることに特化している〟
名前が把握している沙明の乗員データだ。今回はその目的が達成され、なおかつ残ったのは二人だけとなれば、お互い仲間意識みたいなものが芽生えたのだろうか。
思考は冷静を装っているものの、やはりこの状況に緊張しているのか、手はうっすらと汗ばんで心拍は乱れているのが確認できた。今ここに二人を邪魔するものは何もない。二人分の呼吸の音と、自分の心臓の音だけが嫌に響いていた。
(あつくて、くらくらする)
こういう時どうすればいいのかわからなくて、縋るように沙明を見つめる。心なしか沙明の頬も上気しているような。そして視界いっぱいに沙明の顔が映る頃——
「「あっっっっつ‼︎」」
名前と沙明は同時に叫んだ。これはどう考えても以上な〝暑さ〟だ。
「どうなってんだ?」
「LeVi、状況を教えて?」
LeViに問いかける。
〈申し訳ございません。空調設備が故障してしまったようで。大至急復旧作業に当たります〉
「なにそれ。そんなの……」
名前は初めての事態に焦っていた。しかしながらどこか冷静に、これもループを終わらせる鍵になるのだろうかと考えていた。
「ハァ? 空調設備の故障って……⁉︎ コールドスリープしたグノーシアどもはちゃんとおネンネしてくれてんだろうな」
〈それに関してはご安心ください。故障は空調設備だけですので、その他の施設は問題なく作動していることを確認済みです〉
「それならよかった……のかな」
どうやら想像し得る最悪の事態は免れたようだ。頼みのループ現象も今のところ起こる気配はない。ならばこの事態の解決も次のループへの条件なのだろうか。仕方ない、なんとかこの状況を打破しないとと前向きに考える。
「どうしよっか」
「どうしようっつったってなァ……」
今はなんとか耐えられているが、暑さのせいでじわじわと体力は奪われ続けている。
まずはキッチンに向かうことにした。最初に水を確保したほうが良いというのが二人の共通認識だ。蛇口をひねれば水は出たし、冷蔵庫の中も冷えている。LeViの言っていた通り空調以外の設備は問題ないようだ。
冷蔵庫にあった飲料水を渇いた喉に流し込むと、体の中を冷たい水が通っていったのがわかった。おかげで一時的に回復したものの、少しでも暑さを凌げる場所はないかと船内を歩く。しかしどの部屋の空調も正常に機能していないようで、二人で部屋を開けるたびため息を吐いた。
空調の故障の原因も、この暑さを和らげる方法もわからないまま、行く当てもなく、結局二人は食堂に戻ってきてしまった。じっとしていても汗が流れていくのがわかる。この絶望的な状況に自然と口数は少なくなっていた。
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