しゃみぬいといっしょ!



「はぁ〜」
「なによ」
「いやなんだそれ!?」
 沙明が砂まみれ埃まみれになっていたのでシャワールームにやって来たのだが、どうやら私の格好が気に食わないらしい。
 シャワーを浴びるために服を脱いだが、下に着ていたインナーは撥水加工が施されているため着たままである。
 自分がシャワーを浴びるならもちろん全部脱ぐが、今は汚れた沙明を洗うために来たのだ。わざわざ全裸になる必要はないだろう。
「いや、ここはフツー裸になるところだろ!」
「でもこれ水を弾くから大丈夫だよ」
「ちーがーうーだーろー!!!!」
 うるさい。どこの議員だ。
 第一、沙明だってこれだけは後生だから!とパンツだけは履いたままだ。
「もういいじゃん。お湯かけるよ」
 シャワーのコックを捻り頭から思いっきりお湯を浴びせてやった。
 濡れた部分から沙明の肌が徐々に色濃くなっていく。
 お湯をかけられた沙明は大人しく、を通り越してくったりとしていく。
「大丈夫?」
「アー。濡れると身動き取りにくくなるからさ。それで風呂が嫌いなんだよ」
 そうだったんだ。ちゃんとお風呂が嫌な理由があったんだね。
「そう、ごめんね。なるべく早く済ますね」
 ジャリジャリと縫い目に挟まっている砂を指で掻き出して、顔についた泥も擦って落とす。急いで泡を洗い流して、ぎゅっと絞ったあとは水気を取るようにタオルで包んでシャワーブースを出た。

 鏡の前に座らせてドライヤーを全身に当てていく。表面はだいぶ乾いた様子だが、中綿……と呼んでいいのだろうか。中身はまだずっしりと水分が含まれている。
「これってどうするの?」
「ンー。自然乾燥か……しゃーねえ、アレ使うか」
 そう言って沙明が目を向けたのは備え付けられている洗濯乾燥機だ。
 普段であればシャワーのために脱いだ服を入れておくと、シャワーが終わるころには洗濯と乾燥まで終わった状態で用意してくれる優れものだ。
「もしかして、洗いの状態からアレでよかったのでは?」
「まーな。でもお前が一緒にシャワーって言ったからさ」
「もう、言ってよ」
 すっかり騙された。姿は小さくて可愛いが中身はいつもの沙明だ。

 乾燥機に放り込んでしばらくすると、すっかり乾燥の終わった沙明が出てきた。水分を絞り出されて軽い体になった沙明がぴょんと跳ねる。
「おかえりなさい」
 乾燥機で荒々しく洗われた彼は髪があちらこちらに跳ねている。
「あらあら……」
 鏡の前に座らせて髪を手櫛で整える。元から癖毛だから真っ直ぐにはならないけどさっきよりはマシになったでしょ。
 最後に別の洗濯機で洗っておいた彼の服を用意する。
「お前、良いやつだな」
「どうしたの突然?」
「俺のことちゃんと人みたいに扱ってくれるから」
「だって沙明は人間でしょ?」
「そうだけど、この見た目だし……」
 沙明は俯いて自身の体を見つめる。
 確かここへ避難してくる時も結構雑に扱われたんだっけ。
 人間なのに、人間じゃないみたいな扱いをされたら誰だって傷付くよね。
「でも、私は沙明のこと……ちゃんと人間だって知ってるから」
「そっか!」
 沙明は私の言葉がよっぽど嬉しかったのかンーフーフーン♪なんて鼻歌混じりだ。

 沙明のことを人間だと知っている。その理由を種明かしした時には、沙明にとって私はズルをしてることになるのだろう。
 それでも、この宇宙ではもっとこの小さな沙明と仲良くなりたいな……。
 そう思い沙明の鼻歌に乗ってみると「ヘタクソ」と一蹴されてしまった。


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