青天に鐘がなる
name change
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「リアリィ!? 鉱石の中から少女!? なんでそんな面白そ……いや、貴重なことを言わんのだ! ハァリィアップ! 早く連れて来い!!」
ロベリーに言われたのが数日前。
イチカラ村に戻り名前にロベリーの話をするとすぐに「行きたい!」と色良い返事がもらえた。
リンク一人であればアッカレ古代研究所までワープするのだが名前がいるとなれば話が変わる。
パラセールで向かうにしてもそもそも山や塔へ登るのも大変だと結局馬に乗って陸路で向かうことになった。
馬に乗るのが初めてだと言う名前の身体を抱き上げ鞍に乗せて、そのうしろにリンクが乗って手綱を握りイチカラ村を発った。
「私、イチカラ村の外に出るの初めて!」
リンクの前で馬に跨る名前がはしゃいでいるのが伝わる。
そう言われてはじめて気付いた。名前は目覚めてからずっとイチカラ村の中だけで過ごしていた。目覚める前の記憶もないと言うし、イチカラ村以外の記憶がないのだ。
「ちょっと寄り道しようか」
自然とそう提案していた。名前に少しでもいろんなものを見せてみたかったからだ。
街道沿いに少し馬を走らせて、東の方角を向けば小さな砂浜がある。ヒガッカレ海岸だ。
リンクはそこに寄ることにした。
「わ、足が沈む!」
名前は浜の砂に足を取られて歩きにくそうにしているがそれすらも楽しんでいるようだ。
「これが海だよ」
「うん、すごくキレイ」
名前は夢中で波を追ったり追いかけられたりしている。
これまでの旅の途中一人ではこんな時間はなかった。
「向こうに見えるのがマキューズ半島で——」
回生の祠で目覚めてからというもの言われるがまま勇者の使命とやらを背負わせられたリンク。
いろんな土地を訪ねるうちに思い出したこともある。
ゼルダ姫御付きの騎士に選ばれたことや英傑のみんなのこと。
でもあれから100年もの月日が経った今の自分には何もなくて。
ハイラル王やインパ。プルアやロベリー。これまで出会った100年前のリンクを知る人たちの期待に応えられているのだろうか。
本当にあのハイラル城に巣食うガノンなんかに勝てるのだろうか、不安に苛まれる夜もある。
しかし自分以上に何も持たない名前はリンクに期待しないし、ありのままを受け入れてくれる。
役目だとかを忘れてそんな時間に癒されているのは確かだった。
道中休み休み進めばヒガッカレ馬宿に着く頃にはすっかり辺りは暗くなっていた。
「リンク、ごめんね」
名前が何に謝っているのかがわからなくて首を傾げる。
「私がいるからこんなに時間かかってるんだよね」
名前はリンクがパラセールを使ったり、シーカーストーンのおかげでワープをしたりして旅をしていることをリンクから聞いて知っていた。自分がいるせいで陸路を選択したことをわかっている名前は気に病んでいるようだ。
実際、彼女とアッカレ古代研究所に行くという目的がなければ、わざわざ小さな浜やきれいな丘に立ち寄ることもなかっただろう。
「寄り道、疲れた?」
「ううん、どこもステキだった!」
「おれも楽しかったから。名前が喜んでくれたらそれでいい」
それはリンクの本心だった。
ついでに波と戯れる名前をこっそりとウツシエに残したことは名前には内緒だ。
リンクもこのひとときをしっかりと満喫していた。
「今日は疲れたでしょ。早く休もう」
「うん」
馬宿に入れば奥側にベッドが並んでいる。今日はもう休むように伝えると名前は素直にベッドに横になった。
「おやすみ、リンク」
「おやすみ、名前」
たまにはこんな穏やかな夜も悪くない。