Severus Snape
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ぱちり、ぱちり、と薪が割れる音が響く。そんな仄暗い談話室の中に小さな影が二つあった。
二つの影は一つに重なるかというくらいに近づき合った。
こそこそと小さな声で話す重なった影は、影の主、ハーマイオニーの驚きの声と共に二つに分離した。
「あなた、正気?」
「うーん、おかげさまで正気かな」
ハーマイオニーの訝しげな声に、もう一つの影の主であるナマエは肩をすくめた。
***
数時間前、ナマエからハーマイオニーに相談があると持ちかけられたのが就寝前。皆がベッドへ入り込んだ時間を見計らって、二人は静かな談話室へと降りてきたのだ。
「相談って何かしら?」
ハーマイオニーは眠そうに目を擦った。明日も授業があるから早めに切り上げたい。と体全体で訴える彼女に、少しばかり申し訳なさが募る。
「えっと、その……スネイプ先生のことなんだけど……」
スネイプ先生。その単語にハーマイオニーは顔を顰めた。こんな夜遅くに、どうしてあんな陰湿な男の名前を聞かなければならないのか。
ナマエはハーマイオニーが顔を顰めたのを気にせずに続きを話す。
「あのね、魔法薬学を学んでいる時もそうなんだけど、食事の時間とか……スネイプ先生が現れる時間、ずっと目でスネイプ先生を追ってしまうの」
もじもじと顔を少し赤らめて話すナマエに眩暈がする。
もしかして、いや、もしかしなくても彼女は――
ハーマイオニーの勘は当たっていた。
「もしかしてナマエ、あなた……」
「うん、スネイプ先生を見てると、心臓がきゅうっと切なくなって、ドキドキと波打つの。私……スネイプ先生の事、好きなの……かも……」
ナマエの消え入る様な声に、ハーマイオニーは頭を抱えた。
そして冒頭の台詞に至った。
「ナマエ、あの……とても言いづらいんだけど、それは……恋だと思うわ」
まさか自分の親友が、自分の寮から最も嫌われている教師に恋をするなんて。
ハーマイオニーはうーんと唸ると、目の前でぱちりと割れる薪を見つめた。
この様子だと、ハーマイオニーは数分は考え込んで自分の世界へ行ってしまうだろう。こうなってしまうと、彼女がこちらに戻ってくるのにも数分はかかるだろう。
ナマエは談話室のふかふかなソファに深く腰をかけると、同じ様に暖炉の薪を見つめた。
暖炉の温かさにうつらうつらと舟を漕ぎ始めた時だった。ふと二人に影が落ちた。
「よう、お二人さん」
「こんなところで何やってんだ?」
二人の間に割って入ってきたのは、グリフィンドールが誇るイタズラ兄弟のフレッドとジョージだった。
「もしかして」
「恋の相談?」
呆気に取られているハーマイオニーと、少し顔の赤いナマエの二人に視線を交互にやると、双子は「図星だな」と声を揃え、お互いの顔を見合わせてニヤリと笑った。
「それなら君に」
「この指輪をやろう」
ナマエの手にぽとりと落とされたのは小さなシルバーリングだった。どこからともなく出されたそれは、装飾らしい装飾は一つもなく、シンプルなデザインだ。
「……これは?」
「こいつは【呼び寄せの指輪】だ」
「【呼び寄せの指輪】?」
ナマエはまじまじと指輪を見つめた。
そんなナマエにフレッドが左の薬指を指さす。
「こいつをそこに着けておけば効果抜群だ!」
ぱちりとウインクを一つ飛ばすフレッドに、すかさず反対側に居たジョージが口を挟む。
「絶対に左の薬指だ。そうじゃないと効果を十分に発揮しないからな!覚えておけよ!」
二人でナマエの左薬指をトントンと叩くと、双子は意気揚々と自分たちの部屋へと帰って行ってしまった。
双子という嵐に巻き込まれた二人は、ぽかんと口を開けて嵐が去って行った方向を見るしかできなかった。
先に現実へと戻ってきたのはハーマイオニーだった。
「……ねぇ、その指輪、とても胡散臭いけど……着けるの?」
ハーマイオニーはナマエの手の中にあるシルバーリングをまじまじと見る。綺麗な銀色が、暖炉の光を反射して少し赤く燃えている様に見えた。
あの双子の事だ。どんな効果であれ、イタズラグッズに変わりは無いだろう。
警戒を怠らない様にと忠告をするハーマイオニーをよそに、ナマエはこの指輪に密かな希望を抱いているのを自身で感じていた。
***
翌日、双子に言われた通りに左手の薬指に【呼び寄せの指輪】を着けたナマエは驚きに目を丸くさせた。
全くサイズの合っていなかったそれは、指に着けた途端瞬く間にひとりでに縮み、ナマエの薬指に巻き付いた。
勢いよく巻きついたそれは、もう二度と離さんと言わんばかりにナマエの薬指を締めつけた。
その様子に、一抹の不安が過ぎる。
――まさか、もう二度と外れないなんて事ないよね?
頭にふと浮かんだ疑問に、サッと顔から血の気が引くのがわかった。
取れないなんて冗談じゃない!
ナマエはぐっと力一杯指輪を引いてみた。
が、やはり指輪は薬指に絡みついたまま一ミリも動かなかった。
いつになっても談話室に降りてこないナマエを心配したハーマイオニーの扉をノックする音が響く。
「ちょっと、ナマエ?起きてる?もう朝食の時間よ!早く行かないと何も食べられなくなってしまうわ!」
急かすハーマイオニーの言葉に、どうにでもなれと半ば投げやりになりながら支度を済ませる。
談話室へと降り立てば、出入り口で仁王立ちするハーマイオニーを見つけた。
慌てて近寄れば、少し頬を膨らました顔がこちらに向いた。
「もう!遅いじゃない!ハリーやロンは先に行ってるわ!」
「ごめんごめん、ちょっとコレと戦ってて……」
眉を吊り上げるハーマイオニーに、左手を見せる。
ハーマイオニーはまじまじと目の前に出された手を眺めると、吊り上がっていた眉はみるみるうちに眉間に皺を作った。
「……あなた、本当に左手の薬指に着けたのね」
ハーマイオニーは呆れた様にため息をついた。
「だって!フレッドとジョージが左手の薬指に着けろって言ってたじゃない!」
「そうだけど!あなたには危機感が足りなさすぎるし、左手の薬指に着ける指輪が意味する事を知らなさすぎるわ!」
朝食後の休憩時間に教えてあげるわ!と意気込むハーマイオニーと共に大広間へと向かう。
大きな扉を開ければ、グリフィンドールの席でこちらに手を振るハリーとロンの姿が見えた。
そそくさと二人に駆け寄り、対面の席に座り込む。
「遅かったね。大丈夫?体調悪いの?」
トマトを一口頬張りながら目の前のハリーが心配そうに話す。
「トイレが長引いたとか?」
右手のフォークでベーコンを突き、左手のトーストを齧りながらロンが聞く。
「ロン、あなたにはデリカシーのかけらも無いの?教えてあげる。そういう発言は、女性には失礼よ!」
カボチャジュースを手元に寄せながら、ハーマイオニーが眉間に皺を寄せた。
そんな彼ら越しに教員席をちらりと見ると、やはり今日も全身黒づくめの彼はそこに居た。
大広間の喧騒も自分には関係ないと言う様に、無駄のない動きでトーストと紅茶を平らげて行く。
そんなスネイプをどれくらい見ていたのだろう。
スネイプは片眉を上げたかと思うと、眉間に皺を寄せ、眼光を鋭くさせた。漆黒の眼と視線が一瞬交わる。
慌てて視線を逸らしてしまう。
別にやましい事なんてしていないのに、なぜか今はスネイプと目を合わせられなかった。
「あれ?ナマエ、それは何?」
ハリーはナマエの左手を不思議そうに眺めた。
「あっ、これは」
ハリーの問いかけに、逸らした視線をハリーの方へと向ける。
「えっ。ナマエ、君って恋人が居たの?」
ロンがお代わりしたベーコンを片手に食い気味に話す。
ロンの思いがけない一言にナマエは目を丸くさせた。
「……恋人?」
「うん。だってほら、左の薬指に指輪を着けているだろう?誰に貰ったんだい?」
友達の特ダネを掴んだとでも言う様に、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべるハリーとロンに、ナマエは目眩がした。
あの双子にしてやられた。こんなことならハーマイオニーの忠告をちゃんと聞いておくべきだった。
ナマエはハリー達の方へ少し身を乗り出すと、三人だけに聞こえる様に囁いた。
「……フレッドとジョージに、好きな人を呼び寄せる指輪だって貰ったの」
ナマエの答えに、ハリーとロンは今までのいやらしい笑みから一転、今度は憐れむ様な表情をナマエに向けた。
「兄貴達か……君も災難だったね、頑張って」
そう言うと、ロンは労う様にナマエの目の前にフルーツをそっと置いた。
ハリーも曖昧な笑みを浮かべていて、その口元は引き攣っていた。
ハーマイオニーは「だから言ったじゃない!」とでも言わんばかりに呆れた視線をこちらに投げると、彼女の優しさなのかソーセージを少し分けてくれた。
不意に気になって、ちらりと視線を教員席へと戻した時には、先ほどまで訝しげにこちらを睨んでいたスネイプの姿はもうそこには無かった。
ナマエは全身でがっくりと項垂れた。
***
朝食もそこそこに、次の授業――闇の魔術に対する防衛術の教室へ向かう為に廊下を歩いていたところだった。突然両肩に衝撃が走り、体が前につんのめった。
「びっくりさせた?」
「ごめんごめん」
勢いよく肩を組んできたのは、昨日ぶりに会った同じ寮の双子だった。燃える様な赤毛が今日も輝かしい。
他の寮生からすれば今の状況は両手に花と言うべきなのだろうが、ナマエはそれどころではなかった。
左手の薬指に指輪を嵌めてから、全くと言っていいほど良いことがない。
「渡した指輪はどうだい?」
「効果はあったかな?」
フレッドとジョージの顔は期待に膨らんでいた。
そんな双子の態度にナマエは表情を歪めると、ここが廊下のど真ん中というのも忘れて同じ顔の二人に向き合った。
「ねぇ、この指輪、全く取れないんだけど!」
左手を双子の前に差し出す。その薬指には、絶対に離さないと言わんばかりに銀色に輝くリングが巻き付いていた。
「当たり前だろう?それはそういう物なんだ」
そんなナマエの様子を気にも留めず、フレッドはさも当たり前と言う様に口を開いた。
「【呼び寄せの指輪】は、その名の通り想った者を呼び寄せないと取れないさ。そんなこと当たり前だろう?」
「当たり前だろうって……冗談じゃないよ!」
「おいおい、僕たちは揶揄うつもりでその指輪を渡したわけじゃないよ」
声を荒げるナマエに、ジョージがまぁまぁと宥める様に口を挟む。
そんな双子の態度に、ナマエの心には嵐が吹き荒れた。感情がひどく揺さぶられた。
誰のせいでこんな事になっていると思ってるんだ!
じんわりと涙が溢れて、目の前が滲んできた時だった。不意に影が落ちて、どこからともなく低く這う様な声と闇を思わせる漆黒を纏った姿が現れた。
「廊下の真ん中で大声で喚き散らすなど……通行の邪魔なのだが、何の騒ぎだね?」
ぎくり、と目の前の双子は肩を震わせた。そしてまずいと言わんばかりに目を丸くした後、お互いの顔を見合わせた。
「あー……スネイプ先生?本日も良いお日柄で。こんな天気の良い日に珍しくお散歩ですか?」
声を上げたのはフレッドだった。
スネイプは無言でフレッド、ジョージ、そしてナマエを順番に品定めをする様に視線を這わせると、じろりとフレッドとジョージに視線を合わせた。
「あー……違うのね……それもそうか。えっと……それじゃあ相棒」
「ああ、そうだな。これはその――逃げるが勝ちという事だ!」
二人はスネイプが口を開く前に廊下を駆け出した。
バタバタと駆け出す双子に「チッ」と盛大に舌打ちをすると、スネイプはその場に一人残されたナマエに視線を戻した。
「……して、貴様は何をしているのかね?」
「あ……えっと……」
スネイプの少しばかり怒りを含んだ声に、ナマエの肩はびくりと反応する。
「……見せつけか?」
スネイプは眉根を寄せ、ナマエの左手を睨んだ。
教材を抱えた左手に、銀色の輪が光る。
ナマエ自身、他の誰かにそう思われても構わなかったが、スネイプは別だ。
そんなことない。これは違うんです。
そう言いたかったのに、まるで強固な口封じの呪文を受けたかのように、全くと言って良いほど自分の口は動かなかった。
何も言わないナマエに、スネイプの眉間はどんどん深く谷を作っていく。
「……チッ。来い」
スネイプはナマエの腕を掴むと、引きずる様に廊下を大股で歩いていく。
闇の魔術に対する防衛術の教室とは真反対の方角へと進むスネイプに、ナマエは必死に着いていくので精一杯だった。
道中、ずかずかと廊下を横切る忌々しい教師の姿と、半ば引きずられている様にしか見えないグリフィンドール生の姿に、それを目の当たりにした生徒たちは哀れみの視線を向けた。
きっと罰則に違いない。そんな囁き声に、同じ事を思っていたナマエは下を向いて足を動かすしかできなかった。
***
勢いよく開いたのは地下牢教室――の隣の扉だった。スネイプはナマエを部屋に押し込むと、ガチャリと鍵をかけてしまった。
「先生、その」
「黙れ」
有無を言わさずぴしゃりと放たれた言葉に、口を噤む。
未だ目の前の漆黒に顔を上げる勇気は出なかった。
永遠にも思えた沈黙の後、先に口を開いたのはスネイプだった。
「どいつだ?」
「え?」
スネイプの一言に、全く上げられなかった顔を上げてしまった。
目の前の男は、今にも怒り狂いそうな――しかしどことなく悲痛に耐えている表情を浮かべていた。
「それを寄越したのは、何処の男だと聞いているのだ」
「……や、えっと……」
「我輩が、それが何なのか知らぬとでも思っていたのか?全くもって腹立たしい」
スネイプの口は止まらない。
「期待を持たせる貴様もだ。そのような下世話な物に縋るしか無い想いを抱えているのにも関わらず、よくも勘違いをさせる様な視線を何とも思ってもおらん者に投げかけられるものだ」
ぐっ、と左腕を強く掴まれる。
白く絹のような肌に巻き付く銀色の輪を見て、スネイプはまたこれでもかという程に深く眉間に皺を寄せる。
ナマエは混乱していた。
待ってほしい。彼は今、何と言った?
下世話な物に縋るしか無い、というのは聞き捨てならないのだが、その後の言葉だ。
勘違いをさせるような視線――?何とも思っていない者――?
それってつまり、先生は私の視線を感じていて、そしてそれで勘違いをしたという事で――
回らない頭でそこまで考えついた時、ナマエの顔はみるみるうちに紅く染まっていった。
未だ腕を掴むスネイプはその様子を見て、しまったと思った。
怒りに身を任せ、うっかり口を滑らしてしまった。
「……今のは忘れろ」
先ほどとは打って変わって、怒りに震えるような声ではなく、それは羞恥に塗れていた。
あんなに百面相をするスネイプを見るのは初めてだった。
ナマエは自分が置かれている状況が決して良いものではないのにも関わらず、徐々に口角が上がっていくのがわかった。
「……何を笑っている」
「だって先生、ふふ」
不機嫌に睨みつけているその視線も、今となっては不器用な照れ隠しにしか見えない。
「先生、私、スネイプ先生が好きです」
ナマエの真っ直ぐな言葉に、スネイプはぐっと口を結んだ。その後、大きなため息がつかれた。眉間の皺は今も深い。
「そういうのは男の方から言うものだ」
「でも、想いを伝えるのにどちらから、なんて事はないですよ」
「ではミョウジ」
スネイプは掴んでいた自身の手を、ナマエの左腕からその銀の指輪が光る左の手に滑らせた。
「こんな子供騙しのおもちゃではなく、我輩がお前に似合うものを将来捧げようではないか」
あんなにも強固だった締め付ける力を失った銀の指輪は、するりとスネイプの細く節がはっきりとした指で簡単に外された。
代わりに指輪のあった場所には、ちゅ、と熱を孕んだ音と柔らかくかさついた感触が走った。
にやり、と口角を上げるスネイプに、呆然とするナマエの頬の赤みが引く事はなかった。
それがスネイプの唇だということに気づいた時には、ナマエの視界は漆黒に包まれ、スネイプの温かく力強い腕が巻きついていた。
外された【呼び寄せの指輪】は、二人の足元で祝福するように光を放っていた。
二つの影は一つに重なるかというくらいに近づき合った。
こそこそと小さな声で話す重なった影は、影の主、ハーマイオニーの驚きの声と共に二つに分離した。
「あなた、正気?」
「うーん、おかげさまで正気かな」
ハーマイオニーの訝しげな声に、もう一つの影の主であるナマエは肩をすくめた。
***
数時間前、ナマエからハーマイオニーに相談があると持ちかけられたのが就寝前。皆がベッドへ入り込んだ時間を見計らって、二人は静かな談話室へと降りてきたのだ。
「相談って何かしら?」
ハーマイオニーは眠そうに目を擦った。明日も授業があるから早めに切り上げたい。と体全体で訴える彼女に、少しばかり申し訳なさが募る。
「えっと、その……スネイプ先生のことなんだけど……」
スネイプ先生。その単語にハーマイオニーは顔を顰めた。こんな夜遅くに、どうしてあんな陰湿な男の名前を聞かなければならないのか。
ナマエはハーマイオニーが顔を顰めたのを気にせずに続きを話す。
「あのね、魔法薬学を学んでいる時もそうなんだけど、食事の時間とか……スネイプ先生が現れる時間、ずっと目でスネイプ先生を追ってしまうの」
もじもじと顔を少し赤らめて話すナマエに眩暈がする。
もしかして、いや、もしかしなくても彼女は――
ハーマイオニーの勘は当たっていた。
「もしかしてナマエ、あなた……」
「うん、スネイプ先生を見てると、心臓がきゅうっと切なくなって、ドキドキと波打つの。私……スネイプ先生の事、好きなの……かも……」
ナマエの消え入る様な声に、ハーマイオニーは頭を抱えた。
そして冒頭の台詞に至った。
「ナマエ、あの……とても言いづらいんだけど、それは……恋だと思うわ」
まさか自分の親友が、自分の寮から最も嫌われている教師に恋をするなんて。
ハーマイオニーはうーんと唸ると、目の前でぱちりと割れる薪を見つめた。
この様子だと、ハーマイオニーは数分は考え込んで自分の世界へ行ってしまうだろう。こうなってしまうと、彼女がこちらに戻ってくるのにも数分はかかるだろう。
ナマエは談話室のふかふかなソファに深く腰をかけると、同じ様に暖炉の薪を見つめた。
暖炉の温かさにうつらうつらと舟を漕ぎ始めた時だった。ふと二人に影が落ちた。
「よう、お二人さん」
「こんなところで何やってんだ?」
二人の間に割って入ってきたのは、グリフィンドールが誇るイタズラ兄弟のフレッドとジョージだった。
「もしかして」
「恋の相談?」
呆気に取られているハーマイオニーと、少し顔の赤いナマエの二人に視線を交互にやると、双子は「図星だな」と声を揃え、お互いの顔を見合わせてニヤリと笑った。
「それなら君に」
「この指輪をやろう」
ナマエの手にぽとりと落とされたのは小さなシルバーリングだった。どこからともなく出されたそれは、装飾らしい装飾は一つもなく、シンプルなデザインだ。
「……これは?」
「こいつは【呼び寄せの指輪】だ」
「【呼び寄せの指輪】?」
ナマエはまじまじと指輪を見つめた。
そんなナマエにフレッドが左の薬指を指さす。
「こいつをそこに着けておけば効果抜群だ!」
ぱちりとウインクを一つ飛ばすフレッドに、すかさず反対側に居たジョージが口を挟む。
「絶対に左の薬指だ。そうじゃないと効果を十分に発揮しないからな!覚えておけよ!」
二人でナマエの左薬指をトントンと叩くと、双子は意気揚々と自分たちの部屋へと帰って行ってしまった。
双子という嵐に巻き込まれた二人は、ぽかんと口を開けて嵐が去って行った方向を見るしかできなかった。
先に現実へと戻ってきたのはハーマイオニーだった。
「……ねぇ、その指輪、とても胡散臭いけど……着けるの?」
ハーマイオニーはナマエの手の中にあるシルバーリングをまじまじと見る。綺麗な銀色が、暖炉の光を反射して少し赤く燃えている様に見えた。
あの双子の事だ。どんな効果であれ、イタズラグッズに変わりは無いだろう。
警戒を怠らない様にと忠告をするハーマイオニーをよそに、ナマエはこの指輪に密かな希望を抱いているのを自身で感じていた。
***
翌日、双子に言われた通りに左手の薬指に【呼び寄せの指輪】を着けたナマエは驚きに目を丸くさせた。
全くサイズの合っていなかったそれは、指に着けた途端瞬く間にひとりでに縮み、ナマエの薬指に巻き付いた。
勢いよく巻きついたそれは、もう二度と離さんと言わんばかりにナマエの薬指を締めつけた。
その様子に、一抹の不安が過ぎる。
――まさか、もう二度と外れないなんて事ないよね?
頭にふと浮かんだ疑問に、サッと顔から血の気が引くのがわかった。
取れないなんて冗談じゃない!
ナマエはぐっと力一杯指輪を引いてみた。
が、やはり指輪は薬指に絡みついたまま一ミリも動かなかった。
いつになっても談話室に降りてこないナマエを心配したハーマイオニーの扉をノックする音が響く。
「ちょっと、ナマエ?起きてる?もう朝食の時間よ!早く行かないと何も食べられなくなってしまうわ!」
急かすハーマイオニーの言葉に、どうにでもなれと半ば投げやりになりながら支度を済ませる。
談話室へと降り立てば、出入り口で仁王立ちするハーマイオニーを見つけた。
慌てて近寄れば、少し頬を膨らました顔がこちらに向いた。
「もう!遅いじゃない!ハリーやロンは先に行ってるわ!」
「ごめんごめん、ちょっとコレと戦ってて……」
眉を吊り上げるハーマイオニーに、左手を見せる。
ハーマイオニーはまじまじと目の前に出された手を眺めると、吊り上がっていた眉はみるみるうちに眉間に皺を作った。
「……あなた、本当に左手の薬指に着けたのね」
ハーマイオニーは呆れた様にため息をついた。
「だって!フレッドとジョージが左手の薬指に着けろって言ってたじゃない!」
「そうだけど!あなたには危機感が足りなさすぎるし、左手の薬指に着ける指輪が意味する事を知らなさすぎるわ!」
朝食後の休憩時間に教えてあげるわ!と意気込むハーマイオニーと共に大広間へと向かう。
大きな扉を開ければ、グリフィンドールの席でこちらに手を振るハリーとロンの姿が見えた。
そそくさと二人に駆け寄り、対面の席に座り込む。
「遅かったね。大丈夫?体調悪いの?」
トマトを一口頬張りながら目の前のハリーが心配そうに話す。
「トイレが長引いたとか?」
右手のフォークでベーコンを突き、左手のトーストを齧りながらロンが聞く。
「ロン、あなたにはデリカシーのかけらも無いの?教えてあげる。そういう発言は、女性には失礼よ!」
カボチャジュースを手元に寄せながら、ハーマイオニーが眉間に皺を寄せた。
そんな彼ら越しに教員席をちらりと見ると、やはり今日も全身黒づくめの彼はそこに居た。
大広間の喧騒も自分には関係ないと言う様に、無駄のない動きでトーストと紅茶を平らげて行く。
そんなスネイプをどれくらい見ていたのだろう。
スネイプは片眉を上げたかと思うと、眉間に皺を寄せ、眼光を鋭くさせた。漆黒の眼と視線が一瞬交わる。
慌てて視線を逸らしてしまう。
別にやましい事なんてしていないのに、なぜか今はスネイプと目を合わせられなかった。
「あれ?ナマエ、それは何?」
ハリーはナマエの左手を不思議そうに眺めた。
「あっ、これは」
ハリーの問いかけに、逸らした視線をハリーの方へと向ける。
「えっ。ナマエ、君って恋人が居たの?」
ロンがお代わりしたベーコンを片手に食い気味に話す。
ロンの思いがけない一言にナマエは目を丸くさせた。
「……恋人?」
「うん。だってほら、左の薬指に指輪を着けているだろう?誰に貰ったんだい?」
友達の特ダネを掴んだとでも言う様に、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべるハリーとロンに、ナマエは目眩がした。
あの双子にしてやられた。こんなことならハーマイオニーの忠告をちゃんと聞いておくべきだった。
ナマエはハリー達の方へ少し身を乗り出すと、三人だけに聞こえる様に囁いた。
「……フレッドとジョージに、好きな人を呼び寄せる指輪だって貰ったの」
ナマエの答えに、ハリーとロンは今までのいやらしい笑みから一転、今度は憐れむ様な表情をナマエに向けた。
「兄貴達か……君も災難だったね、頑張って」
そう言うと、ロンは労う様にナマエの目の前にフルーツをそっと置いた。
ハリーも曖昧な笑みを浮かべていて、その口元は引き攣っていた。
ハーマイオニーは「だから言ったじゃない!」とでも言わんばかりに呆れた視線をこちらに投げると、彼女の優しさなのかソーセージを少し分けてくれた。
不意に気になって、ちらりと視線を教員席へと戻した時には、先ほどまで訝しげにこちらを睨んでいたスネイプの姿はもうそこには無かった。
ナマエは全身でがっくりと項垂れた。
***
朝食もそこそこに、次の授業――闇の魔術に対する防衛術の教室へ向かう為に廊下を歩いていたところだった。突然両肩に衝撃が走り、体が前につんのめった。
「びっくりさせた?」
「ごめんごめん」
勢いよく肩を組んできたのは、昨日ぶりに会った同じ寮の双子だった。燃える様な赤毛が今日も輝かしい。
他の寮生からすれば今の状況は両手に花と言うべきなのだろうが、ナマエはそれどころではなかった。
左手の薬指に指輪を嵌めてから、全くと言っていいほど良いことがない。
「渡した指輪はどうだい?」
「効果はあったかな?」
フレッドとジョージの顔は期待に膨らんでいた。
そんな双子の態度にナマエは表情を歪めると、ここが廊下のど真ん中というのも忘れて同じ顔の二人に向き合った。
「ねぇ、この指輪、全く取れないんだけど!」
左手を双子の前に差し出す。その薬指には、絶対に離さないと言わんばかりに銀色に輝くリングが巻き付いていた。
「当たり前だろう?それはそういう物なんだ」
そんなナマエの様子を気にも留めず、フレッドはさも当たり前と言う様に口を開いた。
「【呼び寄せの指輪】は、その名の通り想った者を呼び寄せないと取れないさ。そんなこと当たり前だろう?」
「当たり前だろうって……冗談じゃないよ!」
「おいおい、僕たちは揶揄うつもりでその指輪を渡したわけじゃないよ」
声を荒げるナマエに、ジョージがまぁまぁと宥める様に口を挟む。
そんな双子の態度に、ナマエの心には嵐が吹き荒れた。感情がひどく揺さぶられた。
誰のせいでこんな事になっていると思ってるんだ!
じんわりと涙が溢れて、目の前が滲んできた時だった。不意に影が落ちて、どこからともなく低く這う様な声と闇を思わせる漆黒を纏った姿が現れた。
「廊下の真ん中で大声で喚き散らすなど……通行の邪魔なのだが、何の騒ぎだね?」
ぎくり、と目の前の双子は肩を震わせた。そしてまずいと言わんばかりに目を丸くした後、お互いの顔を見合わせた。
「あー……スネイプ先生?本日も良いお日柄で。こんな天気の良い日に珍しくお散歩ですか?」
声を上げたのはフレッドだった。
スネイプは無言でフレッド、ジョージ、そしてナマエを順番に品定めをする様に視線を這わせると、じろりとフレッドとジョージに視線を合わせた。
「あー……違うのね……それもそうか。えっと……それじゃあ相棒」
「ああ、そうだな。これはその――逃げるが勝ちという事だ!」
二人はスネイプが口を開く前に廊下を駆け出した。
バタバタと駆け出す双子に「チッ」と盛大に舌打ちをすると、スネイプはその場に一人残されたナマエに視線を戻した。
「……して、貴様は何をしているのかね?」
「あ……えっと……」
スネイプの少しばかり怒りを含んだ声に、ナマエの肩はびくりと反応する。
「……見せつけか?」
スネイプは眉根を寄せ、ナマエの左手を睨んだ。
教材を抱えた左手に、銀色の輪が光る。
ナマエ自身、他の誰かにそう思われても構わなかったが、スネイプは別だ。
そんなことない。これは違うんです。
そう言いたかったのに、まるで強固な口封じの呪文を受けたかのように、全くと言って良いほど自分の口は動かなかった。
何も言わないナマエに、スネイプの眉間はどんどん深く谷を作っていく。
「……チッ。来い」
スネイプはナマエの腕を掴むと、引きずる様に廊下を大股で歩いていく。
闇の魔術に対する防衛術の教室とは真反対の方角へと進むスネイプに、ナマエは必死に着いていくので精一杯だった。
道中、ずかずかと廊下を横切る忌々しい教師の姿と、半ば引きずられている様にしか見えないグリフィンドール生の姿に、それを目の当たりにした生徒たちは哀れみの視線を向けた。
きっと罰則に違いない。そんな囁き声に、同じ事を思っていたナマエは下を向いて足を動かすしかできなかった。
***
勢いよく開いたのは地下牢教室――の隣の扉だった。スネイプはナマエを部屋に押し込むと、ガチャリと鍵をかけてしまった。
「先生、その」
「黙れ」
有無を言わさずぴしゃりと放たれた言葉に、口を噤む。
未だ目の前の漆黒に顔を上げる勇気は出なかった。
永遠にも思えた沈黙の後、先に口を開いたのはスネイプだった。
「どいつだ?」
「え?」
スネイプの一言に、全く上げられなかった顔を上げてしまった。
目の前の男は、今にも怒り狂いそうな――しかしどことなく悲痛に耐えている表情を浮かべていた。
「それを寄越したのは、何処の男だと聞いているのだ」
「……や、えっと……」
「我輩が、それが何なのか知らぬとでも思っていたのか?全くもって腹立たしい」
スネイプの口は止まらない。
「期待を持たせる貴様もだ。そのような下世話な物に縋るしか無い想いを抱えているのにも関わらず、よくも勘違いをさせる様な視線を何とも思ってもおらん者に投げかけられるものだ」
ぐっ、と左腕を強く掴まれる。
白く絹のような肌に巻き付く銀色の輪を見て、スネイプはまたこれでもかという程に深く眉間に皺を寄せる。
ナマエは混乱していた。
待ってほしい。彼は今、何と言った?
下世話な物に縋るしか無い、というのは聞き捨てならないのだが、その後の言葉だ。
勘違いをさせるような視線――?何とも思っていない者――?
それってつまり、先生は私の視線を感じていて、そしてそれで勘違いをしたという事で――
回らない頭でそこまで考えついた時、ナマエの顔はみるみるうちに紅く染まっていった。
未だ腕を掴むスネイプはその様子を見て、しまったと思った。
怒りに身を任せ、うっかり口を滑らしてしまった。
「……今のは忘れろ」
先ほどとは打って変わって、怒りに震えるような声ではなく、それは羞恥に塗れていた。
あんなに百面相をするスネイプを見るのは初めてだった。
ナマエは自分が置かれている状況が決して良いものではないのにも関わらず、徐々に口角が上がっていくのがわかった。
「……何を笑っている」
「だって先生、ふふ」
不機嫌に睨みつけているその視線も、今となっては不器用な照れ隠しにしか見えない。
「先生、私、スネイプ先生が好きです」
ナマエの真っ直ぐな言葉に、スネイプはぐっと口を結んだ。その後、大きなため息がつかれた。眉間の皺は今も深い。
「そういうのは男の方から言うものだ」
「でも、想いを伝えるのにどちらから、なんて事はないですよ」
「ではミョウジ」
スネイプは掴んでいた自身の手を、ナマエの左腕からその銀の指輪が光る左の手に滑らせた。
「こんな子供騙しのおもちゃではなく、我輩がお前に似合うものを将来捧げようではないか」
あんなにも強固だった締め付ける力を失った銀の指輪は、するりとスネイプの細く節がはっきりとした指で簡単に外された。
代わりに指輪のあった場所には、ちゅ、と熱を孕んだ音と柔らかくかさついた感触が走った。
にやり、と口角を上げるスネイプに、呆然とするナマエの頬の赤みが引く事はなかった。
それがスネイプの唇だということに気づいた時には、ナマエの視界は漆黒に包まれ、スネイプの温かく力強い腕が巻きついていた。
外された【呼び寄せの指輪】は、二人の足元で祝福するように光を放っていた。
