Severus Snape
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ハリー・ポッターには想いを寄せている人物がいる。
名前はナマエ・ミョウジ。グリフィンドール所属で、ハリーと同い年だ。
彼女は特にこれといって目立った容姿でもなかった。綺麗な栗毛色の髪の毛に、目鼻立ちは整っているというわけではないが、悪くはない。いわゆる普通の女の子だ。
なぜそんな普通の女の子に、英雄と持て囃されている彼が想いを寄せたのかというと、別段これも理由は普通だった。一目惚れだ。
ホグワーツに入学した時、組分けされる彼女を見て、なぜか初めて会うにも関わらず胸がドキドキと高鳴り、じんわりと温まった。
グリフィンドールに組分けされた時の笑顔といったらもうたまらなかった。
ハリー自身もグリフィンドールに組み分けされて、ナマエの近くの席に座る。ロンやウィーズリーの双子とハイタッチを交わし、これでどうにか関係を築けるぞと意気込んだ矢先であった。
ねっとりとした視線をどこかからか感じる。
「……ねぇ、何か視線を感じるんだけど……」
ハリーの小さな呟きに反応したのはジョージだった。
ジョージは組分けを見るふりをして大広間を見渡した。途端に「うげ」という声と共に彼の顔が歪んだ。
あの陰湿陰険根暗教師と名高いスリザリンの寮監――セブルス・スネイプが、食い入るようにグリフィンドールの席を見ているではないか。
ジョージは御愁傷様とでもいうようにハリーに視線を向けた。
「我らが小さな英雄よ、君の進む道は前途多難だな」
「え?」
「そうだな、魔法薬学の授業に行けばわかるよ。なぁ、兄弟」
「ああ、そうだな兄弟。しかしこの小さな英雄はなんて幸運の持ち主なんだろうな。あんなじめじめした野郎と戦うことになるなんて」
「魔法薬学?じめじめした野郎?」
「そうだ。あそこにいる撫で付けたような黒髪に、黒いローブを羽織った蝙蝠みたいな男がいるだろう?セブルス・スネイプ。そいつだ」
フレッドとジョージの言葉に、ハリーはよくわからないといった風に顔を顰めた。
じっと教員席を見ていると、かちりとスネイプと視線が合った。スネイプは苛立ちを隠そうともせず眉間に皺を寄せると、ハリーを虚な黒い双眼で睨みつけた。
セブルス・スネイプ――直感的にハリーは「こいつとは反りが合わない」と思った。
それから時が流れ――ハリーは何回も行ってきた魔法薬学の授業を、そしてあの育ちすぎた蝙蝠のような教師を、やはり好きになれなかった。理由はいくつかあった。
まず、ハリーは魔法薬学の授業中、スネイプのねっとりした視線から逃れることはできなかった。そして事あるごとに指名され、回答が合っていようがいまいが馬鹿にされ減点をくらう。好きな人の前でだ。これ以上の辱めはなかった。
そして、最大の要因として――ハリーは気づいていた。スネイプのナマエを見る目が自分と同じだという事に。
***
バタン!と扉が大きな音を立てて開いた。風を切るように早足で教壇へ着いたのは、魔法薬学教授のセブルス・スネイプだった。
いつものように黒板に手順を記した後、スネイプは材料を並べ、一方的に言いつけた。
「諸君らには【混乱薬】を作っていただこう。二人一組。制限時間は一時間。材料はここに。始め」
生徒達は顔を見合わせた後、我先にと言わんばかりに近場の人間と二人一組を作った。
その波に乗り遅れたのはハリーとアキラだった。
「……僕たち、あぶれちゃったね」
ハリーは教室内をぐるりと見渡して、ぼそりとつぶやいた。
ナマエも同じようにぐるりと教室内を見渡し、自分の置かれている状況を確認した後、苦笑いを浮かべた。
「……そうみたいね。じゃあ、せっかくだからハリー、私と組みましょう?」
ハリーは願ってもいないナマエからの誘いの言葉に口角を上にあげた。嬉しさで小躍りしてしまいそうな気持ちを抑え、よろしく、と口を開こうとした時だった。
ハリーの言葉を遮るように、低い声が被さった。
「ミス・ミョウジ。貴様は我輩とだ」
ハリーは谷底へ真っ逆さまに落とされた気分だった。
せっかく最悪続きの魔法薬学が最高の時を迎えるかもしれなかったのに!
ハリーは右手をぐっと握りしめ、スネイプを睨みつけた。
「えっと、でも、スネイプ先生。二人一組なのに、ハリーが一人になってしまいます」
ナマエの声にスネイプはゆっくりと言い聞かせるように話す。
「構わん、放っておけ。それに――」
スネイプはチラリとハリーを見た後、フンと鼻を鳴らした。片眉をあげ、薄ら笑いを浮かべる。
「――かのポッター殿は、一人でなんでもそつなくこなしてしまう英雄らしいですからな」
バサリとローブを翻し、ナマエを自分自身で包むかのように歩き出した黒い後ろ姿に、ハリーは恨めしい視線を投げかけた。
グリフィンドールとスリザリンの合同授業である魔法薬学では、このような光景は日常茶飯事だった。
ナマエの知らないところで、ハリー対スネイプの戦いは、いつの間にか二人を大将としたグリフィンドール対スリザリンの、寮を巻き込んでの戦いへと発展していた。
スリザリン生達は、最初は驚きを隠せなかった。
グリフィンドール嫌いのあの寮監が、グリフィンドール生に好意を抱いているだと?なにかの冗談に決まっている。
みんな口々にそうつぶやいていたが、魔法薬学の時間、事あるごとにグリフィンドールであるナマエを気をかける我がスリザリン贔屓の寮監を見て、スリザリン生達の意思は固まった。
セブルス・スネイプの恋路は誰にも邪魔させない、と。
対するグリフィンドールも同じだった。
ハリーのナマエに対する恋心は、当のアキラは気づいてはいないのだが、周りにはほとんど周知の事実だった。
ハーマイオニーが「あれでわからないなんて、察する能力が低すぎるわよ!」と嘆くほどだ。
どちらにしろ、グリフィンドール生はハリーの応援をしていたし、スネイプがハリーを目の敵にしているのもそう言う理由があるからだと思っていた。
だからこそ余計にハリーとナマエをくっつけようとやきもきしていた。
そんな両者の意思など気にもせず、ナマエはスネイプの横で黙々と作業を続けた。
別段魔法薬学が得意というわけでも不得意というわけでもないが、作成した物は完璧には程遠く、ナマエの鍋は本来なら少し黄色く濁るはずのところが、何故か青紫のままだった。
スネイプは腕を組み、ナマエの手元を見る。そしてニヤリと薄笑いを浮かべた。
「……ミス・ミョウジ。我輩が見たところによれば、その混乱薬は意味をなしていない。さしずめラビッジを煎じる時に大きさをまばらにしたな?」
「……すみません……」
「適当にやられては困りますな。ミョウジは授業後残るように。罰則だ」
【罰則】という言葉にグリフィンドールがざわつき、ハーマイオニーが反応する。
「先生!いくらなんでも罰則はやりすぎだと思います!ナマエの鍋は見たところラビッジの大きさがまばらなだけで、手順は何も間違えていな――」
「ミス・グレンジャー」
スネイプの声は冷たかった。
「この授業は我輩が教えているのであり、教師は君ではないはずなのだが?加点も減点も罰則も、権限は我輩にある」
ハーマイオニーはぐっと言い淀むと、申し訳なさそうにナマエを見た。ナマエは眉尻を下げて、「ありがとう、心配しないで」と声には出さず、口の動きだけでハーマイオニーに伝えた。
片付けも終わった頃、授業終わりの鐘がなり、スネイプの視界から逃げるようにそそくさと荷物をまとめ、地下牢教室を後にする生徒達。
ハリーは教室を出る前に、チラリとナマエを見た。
スネイプに理不尽な罰則を言い渡された彼女の背中は小さく見えて、余計にスネイプに怒りが募る。
ナマエを一人にしたくないという気持ちがハリーの足を鈍らせた。
不意に目の前が暗くなったと思ったら、不快感をこれでもかと顔に貼り付けたスネイプがそこには立っていた。まるで教室内に残ったナマエをハリーの視界から遮るように。
「ポッター、貴様に残れとは命じておらん。早々に去れ」
ハリーは我慢の限界だった。かっと頭に血が上って、スネイプを見上げる。
「確かにナマエにミスはあったかもしれないけど、罰則をする程じゃないでしょう?ハーマイオニーもそれを言っていたはずだ!あなたのは――」
「我輩は去れと命じたはずだぞポッター。貴様のその行き過ぎた正義感には虫唾が走る。グリフィンドール五点減点だ」
続けて口にしようとした言葉は、スネイプの減点に遮られた。
それでもハリーの怒りはおさまらなかった。
「……っ、でも!」
「もう一度減点されたいか?ん?それとも罰則をご所望かね?ならば我輩が直々に罰則を施してやろう今日一日それしかできない程のな」
有無を言わせないスネイプにハリーは口を噤むしかなかった。
地下牢教室を飛び出して、談話室へと向かう。
道中、何事かと声をかけてくれたロンとハーマイオニーには申し訳ないけど、それに応えられる程心に余裕はなかった。
ああくそ、イライラする。
***
ナマエは困惑していた。なぜならば罰則を言い渡されたはずなのに、何もないからである。そう、何もだ。
スネイプの罰則と聞いていい顔をする者は一人もいないだろう。
ある生徒はマグル式で全ての鍋を洗わされた。
またある生徒は羊皮紙二巻に及ぶ薬草・材料の在庫整理をさせられた。
そんな話を聞いていたナマエは、罰則を言い渡された時に覚悟をしていた。
どんな事をさせられるのだろう。
今日のうちに寮に帰れるのだろうか。
不安に苛まれながら、ハリーの去った扉が閉まるのを見届けた。
そうして罰則の時間が始まった――ように見えた。しかしスネイプはひらりと自身の黒いローブを翻すと、教卓に座り、先ほどの授業で提出された羊皮紙の採点を始めた。
「え、えっと……スネイプ先生。その、罰則は……」
立ち尽くすナマエが困ったようにスネイプを見上げる。
スネイプは机にくっつくんじゃないかと思うほど近づけられた顔を上げ、ナマエを見た。
黒の双眼がナマエをしっかりと捉える。
眉尻を下げてこちらを見上げるナマエに、スネイプはぴくりと眉をあげた。
「罰則かね?」
スネイプがぎしりと音を立てて教卓から立ち上がる。
のそりと段差を降り、ナマエの前に立つ。
ナマエのスネイプを見上げる顔の角度がもっと急になった。
「えっ、はい」
「罰則が欲しいのかね?」
一歩、スネイプはナマエへと近づく。
一歩、ナマエはスネイプから離れる。
繰り返しているうちに、ナマエの背中には教室の壁が張り付いていた。
「えっ?あの、スネイプ先生が――」
「我輩からの罰則が、欲しいのかね?」
スネイプのローブから伸びる長い両腕が、ナマエの顔を挟む様にして壁に添えられる。
目の前に広がる黒一面に、ナマエの頬は僅かに紅潮する。
スネイプはそれを見ると、口の端をわずかにあげた。
「罰則が欲しいというか――」
「では何が欲しいのかね?」
肘を曲げ、顔を近づける。
ナマエの顔は火でも吹くんじゃないかというくらい真っ赤に色をつけていた。
「ええと、その、スネイプ先生、この状況はその、罰則、です……か……」
じり、と近づいてくるスネイプに、頭が回らなくなる。ナマエの声は震えて小さくなっていた。
自分の置かれている状況が整理できなくて、ナマエは咄嗟に目を瞑る。
それすらもスネイプの心をくすぐり、欲を掻き立てるだけだった。
「ナマエ……」
耳元で名前を囁かれる。
目を瞑っているからか、自身の名前を呼ぶその声はいつになく妖艶で、いつもの鬱憤を晴らすような猫撫で声ではなく、低く、求めるような声だった。
「我輩は……逃さんぞ……?」
スネイプの息が耳に当たって、ナマエは身を捩った。「ひぃ……」という自分のとは思えない艶やかな声が反射的に出てしまい、恥ずかしさで目を見開く。
その姿を見てスネイプは満足気に鼻を鳴らすと、ナマエの髪を一房手に取り、口づけた。
するすると自身の周りから退いていく黒に、ナマエの足は力を失い、へたりとその場に座り込んだ。
その様子を見て、スネイプはまた満足気に鼻を鳴らした。
「こんな事で腰を抜かしていては、この先が思いやられますな」
スネイプはナマエに再度近づくと、立たせようと手を伸ばした。
その時だった。
バタン!と大きな音が鳴り、開いた扉からは数人の足音が聞こえた。
スネイプとナマエが音の方向へ顔を向けると、そこには先ほど追い返したハリー、ロン、ハーマイオニーがそこに居た。
よく見るとその後ろにはドラコも居るではないか。
扉を開けた張本人であろうハリーは目を大きく開き、ロンは口をこれでもかとあんぐり開け、ハーマイオニーは叫んではいけない。というように口を両手で勢いよく塞いだ。
スネイプは今の自分たちを冷静に分析した。
顔を赤く染め、目には涙を溜め、床にへたり込んだ生徒と、そんな生徒に手を伸ばしている教師――
やってしまった、と悟った時には遅かった。
ぴたり、と時間が止まったように、地下牢教室に沈黙が流れる。
一瞬の沈黙を破ったのはロンだった。
「いつも陰険根暗教師だと思ってたけど、まさか教室で手を出すなんて!」
ロンの一言にスネイプのこめかみに青筋が一つ増える。
「ロン、あなたそんなこと思ってたの?とっても失礼よ!性格の方は否定はしないけど、スネイプ先生はそんな人じゃないわ!」
ハーマイオニーの一言にスネイプの唇が痙攣を始めた。
「ふん、お前らに先生の事がわかってたまるか。全く、グリフィンドールの奴らは物事の表面しか見ないな!ウィーズリー、グレンジャー、お前らに先生の純粋な愛情がわかってたまるか!」
ドラコの声にスネイプの右手が震える。
「純粋な愛情?へぇ、マルフォイ。まるでスネイプとナマエが恋人同士のように言うじゃないか。僕だってナマエの事が好きなのに!」
その言葉に、事を黙って見守っていたアキラの頬がまた赤くなる。
そんなハリーの一言が決定打となった。
「黙らんか!」
ドン!と机が大きな音を立てる。
しん、と静まり返る教室で、スネイプは撫で付けたような黒髪から入口にいる四人をこれでもかというくらいに睨みつけた。
視線で人が殺せそうだった、と後にロンは語った。
「勝手に大声で、入り口で騒ぎおって!各自十点減点だ!」
「えっ⁉︎」
声を上げたのはドラコだった。
「せ、先生。何か間違えていませんか?僕はスリザリンですよ?減点って、自分の寮に――」
スネイプは視線だけでドラコを捉えると、わなわなと震える唇を開いた。
「間違いなどない。ドラコ、十点減点だ。貴様なら十点くらい取り返せるであろう」
スネイプの言葉にハッとすると、ドラコはハリーたちの首根っこを掴み、力尽くで地下牢教室から追い出した。
ぐいぐいと押し出される傍ら、ハリーは首をナマエに向けた。かちりと目が合った瞬間、ハリーは咄嗟に口を開いた。
「ナマエ!今の言葉に嘘はないから!」
最後にハリーは微笑みを見せて、地下牢教室の扉はドラコによって閉められた。
残されたスネイプは不快感を隠そうともせず、眉間に皺を寄せたままだった。扉とスネイプを交互に見るナマエに「帰ってよろしい」と小さく告げると、スネイプはそのまま研究室へと吸い込まれるように早足で歩いて行ってしまった。
地下牢教室にひとり残されたナマエは、スネイプの後ろ姿を眺めたままだった。
***
次の日の魔法薬学の授業では、グリフィンドールの席はナマエを中心に据え、守るようにハリーが側にいた。
対するスリザリンは、そんなグリフィンドールの席を睨んだ。
二つの寮生が睨み合っている中、ナマエの視線は教壇に立つスネイプをじっと見つめていた。その頬は紅潮しているように見えた。
それに気づいたハリーは視線をたどった。
スネイプもまた、ナマエを見つめていた。
二人の視線は何故か熱を孕んでいる気がした。
ハリーはそれを見て、がっくりと項垂れながら、一つ小さくため息を吐いた。ロンとハーマイオニーもそれに気づいたみたいで、ハリーの背中をポンポンと軽く叩く。
この授業中、いつもなら何点も引かれてしまうグリフィンドールの得点は無失点だった。
そして、授業に出席した生徒は少し顔を強張らせながら口を揃えて言った。「あんなににやけているスネイプは初めて見た」と。
名前はナマエ・ミョウジ。グリフィンドール所属で、ハリーと同い年だ。
彼女は特にこれといって目立った容姿でもなかった。綺麗な栗毛色の髪の毛に、目鼻立ちは整っているというわけではないが、悪くはない。いわゆる普通の女の子だ。
なぜそんな普通の女の子に、英雄と持て囃されている彼が想いを寄せたのかというと、別段これも理由は普通だった。一目惚れだ。
ホグワーツに入学した時、組分けされる彼女を見て、なぜか初めて会うにも関わらず胸がドキドキと高鳴り、じんわりと温まった。
グリフィンドールに組分けされた時の笑顔といったらもうたまらなかった。
ハリー自身もグリフィンドールに組み分けされて、ナマエの近くの席に座る。ロンやウィーズリーの双子とハイタッチを交わし、これでどうにか関係を築けるぞと意気込んだ矢先であった。
ねっとりとした視線をどこかからか感じる。
「……ねぇ、何か視線を感じるんだけど……」
ハリーの小さな呟きに反応したのはジョージだった。
ジョージは組分けを見るふりをして大広間を見渡した。途端に「うげ」という声と共に彼の顔が歪んだ。
あの陰湿陰険根暗教師と名高いスリザリンの寮監――セブルス・スネイプが、食い入るようにグリフィンドールの席を見ているではないか。
ジョージは御愁傷様とでもいうようにハリーに視線を向けた。
「我らが小さな英雄よ、君の進む道は前途多難だな」
「え?」
「そうだな、魔法薬学の授業に行けばわかるよ。なぁ、兄弟」
「ああ、そうだな兄弟。しかしこの小さな英雄はなんて幸運の持ち主なんだろうな。あんなじめじめした野郎と戦うことになるなんて」
「魔法薬学?じめじめした野郎?」
「そうだ。あそこにいる撫で付けたような黒髪に、黒いローブを羽織った蝙蝠みたいな男がいるだろう?セブルス・スネイプ。そいつだ」
フレッドとジョージの言葉に、ハリーはよくわからないといった風に顔を顰めた。
じっと教員席を見ていると、かちりとスネイプと視線が合った。スネイプは苛立ちを隠そうともせず眉間に皺を寄せると、ハリーを虚な黒い双眼で睨みつけた。
セブルス・スネイプ――直感的にハリーは「こいつとは反りが合わない」と思った。
それから時が流れ――ハリーは何回も行ってきた魔法薬学の授業を、そしてあの育ちすぎた蝙蝠のような教師を、やはり好きになれなかった。理由はいくつかあった。
まず、ハリーは魔法薬学の授業中、スネイプのねっとりした視線から逃れることはできなかった。そして事あるごとに指名され、回答が合っていようがいまいが馬鹿にされ減点をくらう。好きな人の前でだ。これ以上の辱めはなかった。
そして、最大の要因として――ハリーは気づいていた。スネイプのナマエを見る目が自分と同じだという事に。
***
バタン!と扉が大きな音を立てて開いた。風を切るように早足で教壇へ着いたのは、魔法薬学教授のセブルス・スネイプだった。
いつものように黒板に手順を記した後、スネイプは材料を並べ、一方的に言いつけた。
「諸君らには【混乱薬】を作っていただこう。二人一組。制限時間は一時間。材料はここに。始め」
生徒達は顔を見合わせた後、我先にと言わんばかりに近場の人間と二人一組を作った。
その波に乗り遅れたのはハリーとアキラだった。
「……僕たち、あぶれちゃったね」
ハリーは教室内をぐるりと見渡して、ぼそりとつぶやいた。
ナマエも同じようにぐるりと教室内を見渡し、自分の置かれている状況を確認した後、苦笑いを浮かべた。
「……そうみたいね。じゃあ、せっかくだからハリー、私と組みましょう?」
ハリーは願ってもいないナマエからの誘いの言葉に口角を上にあげた。嬉しさで小躍りしてしまいそうな気持ちを抑え、よろしく、と口を開こうとした時だった。
ハリーの言葉を遮るように、低い声が被さった。
「ミス・ミョウジ。貴様は我輩とだ」
ハリーは谷底へ真っ逆さまに落とされた気分だった。
せっかく最悪続きの魔法薬学が最高の時を迎えるかもしれなかったのに!
ハリーは右手をぐっと握りしめ、スネイプを睨みつけた。
「えっと、でも、スネイプ先生。二人一組なのに、ハリーが一人になってしまいます」
ナマエの声にスネイプはゆっくりと言い聞かせるように話す。
「構わん、放っておけ。それに――」
スネイプはチラリとハリーを見た後、フンと鼻を鳴らした。片眉をあげ、薄ら笑いを浮かべる。
「――かのポッター殿は、一人でなんでもそつなくこなしてしまう英雄らしいですからな」
バサリとローブを翻し、ナマエを自分自身で包むかのように歩き出した黒い後ろ姿に、ハリーは恨めしい視線を投げかけた。
グリフィンドールとスリザリンの合同授業である魔法薬学では、このような光景は日常茶飯事だった。
ナマエの知らないところで、ハリー対スネイプの戦いは、いつの間にか二人を大将としたグリフィンドール対スリザリンの、寮を巻き込んでの戦いへと発展していた。
スリザリン生達は、最初は驚きを隠せなかった。
グリフィンドール嫌いのあの寮監が、グリフィンドール生に好意を抱いているだと?なにかの冗談に決まっている。
みんな口々にそうつぶやいていたが、魔法薬学の時間、事あるごとにグリフィンドールであるナマエを気をかける我がスリザリン贔屓の寮監を見て、スリザリン生達の意思は固まった。
セブルス・スネイプの恋路は誰にも邪魔させない、と。
対するグリフィンドールも同じだった。
ハリーのナマエに対する恋心は、当のアキラは気づいてはいないのだが、周りにはほとんど周知の事実だった。
ハーマイオニーが「あれでわからないなんて、察する能力が低すぎるわよ!」と嘆くほどだ。
どちらにしろ、グリフィンドール生はハリーの応援をしていたし、スネイプがハリーを目の敵にしているのもそう言う理由があるからだと思っていた。
だからこそ余計にハリーとナマエをくっつけようとやきもきしていた。
そんな両者の意思など気にもせず、ナマエはスネイプの横で黙々と作業を続けた。
別段魔法薬学が得意というわけでも不得意というわけでもないが、作成した物は完璧には程遠く、ナマエの鍋は本来なら少し黄色く濁るはずのところが、何故か青紫のままだった。
スネイプは腕を組み、ナマエの手元を見る。そしてニヤリと薄笑いを浮かべた。
「……ミス・ミョウジ。我輩が見たところによれば、その混乱薬は意味をなしていない。さしずめラビッジを煎じる時に大きさをまばらにしたな?」
「……すみません……」
「適当にやられては困りますな。ミョウジは授業後残るように。罰則だ」
【罰則】という言葉にグリフィンドールがざわつき、ハーマイオニーが反応する。
「先生!いくらなんでも罰則はやりすぎだと思います!ナマエの鍋は見たところラビッジの大きさがまばらなだけで、手順は何も間違えていな――」
「ミス・グレンジャー」
スネイプの声は冷たかった。
「この授業は我輩が教えているのであり、教師は君ではないはずなのだが?加点も減点も罰則も、権限は我輩にある」
ハーマイオニーはぐっと言い淀むと、申し訳なさそうにナマエを見た。ナマエは眉尻を下げて、「ありがとう、心配しないで」と声には出さず、口の動きだけでハーマイオニーに伝えた。
片付けも終わった頃、授業終わりの鐘がなり、スネイプの視界から逃げるようにそそくさと荷物をまとめ、地下牢教室を後にする生徒達。
ハリーは教室を出る前に、チラリとナマエを見た。
スネイプに理不尽な罰則を言い渡された彼女の背中は小さく見えて、余計にスネイプに怒りが募る。
ナマエを一人にしたくないという気持ちがハリーの足を鈍らせた。
不意に目の前が暗くなったと思ったら、不快感をこれでもかと顔に貼り付けたスネイプがそこには立っていた。まるで教室内に残ったナマエをハリーの視界から遮るように。
「ポッター、貴様に残れとは命じておらん。早々に去れ」
ハリーは我慢の限界だった。かっと頭に血が上って、スネイプを見上げる。
「確かにナマエにミスはあったかもしれないけど、罰則をする程じゃないでしょう?ハーマイオニーもそれを言っていたはずだ!あなたのは――」
「我輩は去れと命じたはずだぞポッター。貴様のその行き過ぎた正義感には虫唾が走る。グリフィンドール五点減点だ」
続けて口にしようとした言葉は、スネイプの減点に遮られた。
それでもハリーの怒りはおさまらなかった。
「……っ、でも!」
「もう一度減点されたいか?ん?それとも罰則をご所望かね?ならば我輩が直々に罰則を施してやろう今日一日それしかできない程のな」
有無を言わせないスネイプにハリーは口を噤むしかなかった。
地下牢教室を飛び出して、談話室へと向かう。
道中、何事かと声をかけてくれたロンとハーマイオニーには申し訳ないけど、それに応えられる程心に余裕はなかった。
ああくそ、イライラする。
***
ナマエは困惑していた。なぜならば罰則を言い渡されたはずなのに、何もないからである。そう、何もだ。
スネイプの罰則と聞いていい顔をする者は一人もいないだろう。
ある生徒はマグル式で全ての鍋を洗わされた。
またある生徒は羊皮紙二巻に及ぶ薬草・材料の在庫整理をさせられた。
そんな話を聞いていたナマエは、罰則を言い渡された時に覚悟をしていた。
どんな事をさせられるのだろう。
今日のうちに寮に帰れるのだろうか。
不安に苛まれながら、ハリーの去った扉が閉まるのを見届けた。
そうして罰則の時間が始まった――ように見えた。しかしスネイプはひらりと自身の黒いローブを翻すと、教卓に座り、先ほどの授業で提出された羊皮紙の採点を始めた。
「え、えっと……スネイプ先生。その、罰則は……」
立ち尽くすナマエが困ったようにスネイプを見上げる。
スネイプは机にくっつくんじゃないかと思うほど近づけられた顔を上げ、ナマエを見た。
黒の双眼がナマエをしっかりと捉える。
眉尻を下げてこちらを見上げるナマエに、スネイプはぴくりと眉をあげた。
「罰則かね?」
スネイプがぎしりと音を立てて教卓から立ち上がる。
のそりと段差を降り、ナマエの前に立つ。
ナマエのスネイプを見上げる顔の角度がもっと急になった。
「えっ、はい」
「罰則が欲しいのかね?」
一歩、スネイプはナマエへと近づく。
一歩、ナマエはスネイプから離れる。
繰り返しているうちに、ナマエの背中には教室の壁が張り付いていた。
「えっ?あの、スネイプ先生が――」
「我輩からの罰則が、欲しいのかね?」
スネイプのローブから伸びる長い両腕が、ナマエの顔を挟む様にして壁に添えられる。
目の前に広がる黒一面に、ナマエの頬は僅かに紅潮する。
スネイプはそれを見ると、口の端をわずかにあげた。
「罰則が欲しいというか――」
「では何が欲しいのかね?」
肘を曲げ、顔を近づける。
ナマエの顔は火でも吹くんじゃないかというくらい真っ赤に色をつけていた。
「ええと、その、スネイプ先生、この状況はその、罰則、です……か……」
じり、と近づいてくるスネイプに、頭が回らなくなる。ナマエの声は震えて小さくなっていた。
自分の置かれている状況が整理できなくて、ナマエは咄嗟に目を瞑る。
それすらもスネイプの心をくすぐり、欲を掻き立てるだけだった。
「ナマエ……」
耳元で名前を囁かれる。
目を瞑っているからか、自身の名前を呼ぶその声はいつになく妖艶で、いつもの鬱憤を晴らすような猫撫で声ではなく、低く、求めるような声だった。
「我輩は……逃さんぞ……?」
スネイプの息が耳に当たって、ナマエは身を捩った。「ひぃ……」という自分のとは思えない艶やかな声が反射的に出てしまい、恥ずかしさで目を見開く。
その姿を見てスネイプは満足気に鼻を鳴らすと、ナマエの髪を一房手に取り、口づけた。
するすると自身の周りから退いていく黒に、ナマエの足は力を失い、へたりとその場に座り込んだ。
その様子を見て、スネイプはまた満足気に鼻を鳴らした。
「こんな事で腰を抜かしていては、この先が思いやられますな」
スネイプはナマエに再度近づくと、立たせようと手を伸ばした。
その時だった。
バタン!と大きな音が鳴り、開いた扉からは数人の足音が聞こえた。
スネイプとナマエが音の方向へ顔を向けると、そこには先ほど追い返したハリー、ロン、ハーマイオニーがそこに居た。
よく見るとその後ろにはドラコも居るではないか。
扉を開けた張本人であろうハリーは目を大きく開き、ロンは口をこれでもかとあんぐり開け、ハーマイオニーは叫んではいけない。というように口を両手で勢いよく塞いだ。
スネイプは今の自分たちを冷静に分析した。
顔を赤く染め、目には涙を溜め、床にへたり込んだ生徒と、そんな生徒に手を伸ばしている教師――
やってしまった、と悟った時には遅かった。
ぴたり、と時間が止まったように、地下牢教室に沈黙が流れる。
一瞬の沈黙を破ったのはロンだった。
「いつも陰険根暗教師だと思ってたけど、まさか教室で手を出すなんて!」
ロンの一言にスネイプのこめかみに青筋が一つ増える。
「ロン、あなたそんなこと思ってたの?とっても失礼よ!性格の方は否定はしないけど、スネイプ先生はそんな人じゃないわ!」
ハーマイオニーの一言にスネイプの唇が痙攣を始めた。
「ふん、お前らに先生の事がわかってたまるか。全く、グリフィンドールの奴らは物事の表面しか見ないな!ウィーズリー、グレンジャー、お前らに先生の純粋な愛情がわかってたまるか!」
ドラコの声にスネイプの右手が震える。
「純粋な愛情?へぇ、マルフォイ。まるでスネイプとナマエが恋人同士のように言うじゃないか。僕だってナマエの事が好きなのに!」
その言葉に、事を黙って見守っていたアキラの頬がまた赤くなる。
そんなハリーの一言が決定打となった。
「黙らんか!」
ドン!と机が大きな音を立てる。
しん、と静まり返る教室で、スネイプは撫で付けたような黒髪から入口にいる四人をこれでもかというくらいに睨みつけた。
視線で人が殺せそうだった、と後にロンは語った。
「勝手に大声で、入り口で騒ぎおって!各自十点減点だ!」
「えっ⁉︎」
声を上げたのはドラコだった。
「せ、先生。何か間違えていませんか?僕はスリザリンですよ?減点って、自分の寮に――」
スネイプは視線だけでドラコを捉えると、わなわなと震える唇を開いた。
「間違いなどない。ドラコ、十点減点だ。貴様なら十点くらい取り返せるであろう」
スネイプの言葉にハッとすると、ドラコはハリーたちの首根っこを掴み、力尽くで地下牢教室から追い出した。
ぐいぐいと押し出される傍ら、ハリーは首をナマエに向けた。かちりと目が合った瞬間、ハリーは咄嗟に口を開いた。
「ナマエ!今の言葉に嘘はないから!」
最後にハリーは微笑みを見せて、地下牢教室の扉はドラコによって閉められた。
残されたスネイプは不快感を隠そうともせず、眉間に皺を寄せたままだった。扉とスネイプを交互に見るナマエに「帰ってよろしい」と小さく告げると、スネイプはそのまま研究室へと吸い込まれるように早足で歩いて行ってしまった。
地下牢教室にひとり残されたナマエは、スネイプの後ろ姿を眺めたままだった。
***
次の日の魔法薬学の授業では、グリフィンドールの席はナマエを中心に据え、守るようにハリーが側にいた。
対するスリザリンは、そんなグリフィンドールの席を睨んだ。
二つの寮生が睨み合っている中、ナマエの視線は教壇に立つスネイプをじっと見つめていた。その頬は紅潮しているように見えた。
それに気づいたハリーは視線をたどった。
スネイプもまた、ナマエを見つめていた。
二人の視線は何故か熱を孕んでいる気がした。
ハリーはそれを見て、がっくりと項垂れながら、一つ小さくため息を吐いた。ロンとハーマイオニーもそれに気づいたみたいで、ハリーの背中をポンポンと軽く叩く。
この授業中、いつもなら何点も引かれてしまうグリフィンドールの得点は無失点だった。
そして、授業に出席した生徒は少し顔を強張らせながら口を揃えて言った。「あんなににやけているスネイプは初めて見た」と。
