Severus Snape
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ハリー、ロン、ハーマイオニーの三人は大広間で昼食を取る薬草学の助教授、ナマエをじっと観察していた。
何故こんなことになったのか――話は数時間前に遡る。
ナマエはスプラウト先生の助教授をしていて、いつもニコニコと笑顔で授業のサポートをしてくれる良い先生だ。ホグワーツでは珍しく明るく気軽に会話をしてくれる先生だったので、ナマエ目当てに温室に来る生徒もちらほら居るくらいの人気だった。
そんなナマエにある噂が立っていた。
【薬学教授のセブルス・スネイプがナマエを狙っている】
そんなまさか!ハリーは思った。
セブルス・スネイプといえば、性格は陰険、根暗、間違えた時の指摘はねちっこいし、自寮贔屓。外見は肌は土気色、べたついた髪の毛に鉤鼻で、黒いマントをいつも羽織っていて、その姿はまさに育ちすぎた蝙蝠。
対するナマエは性格は明るく温厚、生徒の失敗も「誰でも失敗はするよ」と慰めてくれる。外見は肌は白くきめ細やか、櫛通りも滑らかそうな髪の毛で、目鼻立ちも悪くない。いつも温室で植物の世話をしているせいか、園芸のようなエプロン姿しか見た事はないが、それでも一生懸命な姿は見ていて応援したくなる。
そんな真逆に位置する二人が、噂になるなんて!そんなのユニコーンが自ら姿を現すくらいあり得ない!
「ねぇ、何かの間違いじゃないの?」
ハリーはスプラウト先生に熱心に質問をするハーマイオニーを見ながらロンに投げかけた。
ロンは「本当に間違いだったら良いのにな」と当てにならない返事を返した。
ハリーは一向に終わらないハーマイオニーの質問に痺れを切らすと、温室から出ようと扉に足を進めた。
扉に手をかけた時だった。温室の外で話し声が聞こえた。
「あら、スネイプ教授!こんにちは」
「どうも」
ハリーは一瞬目を見開くと、体をくるりと反転させてロンの元へ急いで戻った。
「ロン!ロン!聞いて!今外で、ナマエ先生とスネイプが!」
「え?なんだって?」
「だから!ナマエ先生とスネイプが、温室の外で話してるんだよ!きっとスネイプはデートの予約をとりに来たんだ!」
ハリーの言葉にロンは目を見開くと、二人で声のする方へと向かった。
温室の扉をそっと開いて外を覗き見る。向かいの温室の入口ではナマエとスネイプが立ち話をしていた。
会話の内容は聞こえないが、ナマエは時折笑顔を浮かべながら相槌を返していて、スネイプも心なしか口角が上がっていた。その顔は減点を愉しみにしているときのようないやらしい笑みではなく、柔らかいもののように見えた。
「ヒュー……あいつ、あんな顔するんだね。僕、あんな笑顔を見せられたら怖くて震えちゃうよ……」
「あら!いつもスネイプ先生には震えてる癖によく言うわよ!」
ロンが軽口を叩いた時だった。質問を終えたハーマイオニーが、教本を両手でしっかりと抱えながらハリー達の後ろに立っていた。
「うわ!びっくりさせるなよハーマイオニー!」
「あなたが勝手にびっくりしたのでしょう?それに、盗み聞きは良くないわ!」
「でも、ハーマイオニー。もし本当にスネイプがナマエ先生の事を狙っているとしたら、どうしよう。僕はあんまり……優しいナマエ先生と『あの』スネイプがくっつくのは良い気がしないな」
『あの』を強調したハリーの表情はとても歪んでいた。
おやつに食べた百味ビーンズが【ミミズ味】だった時以上だ。
「僕も嫌だけど……そうだ、ナマエ先生にその気が無ければ、スネイプだって諦めるしかないよな!」
ロンの一言にハリーが名案だ!と声を上げた。
それを聞いてハーマイオニーはむっと頬を膨らませた。
「何よ。それじゃあナマエ先生に直接聞くしかないじゃない。スネイプ先生の事、好きなんですか?って」
「馬鹿言え。ハーマイオニー、君は変なところで頭が回らないな。正直に聞いたところで、はぐらかされるだけだ」
「それじゃあ僕たちでナマエ先生の様子を探るしかないね」
ハーマイオニー、ロン、ハリーの順で意見交換と名ばかりの言い争いを始める。
彼らの中で【スネイプがナマエの事を狙っている】というのは確定事項になっていた。
ゆらりと影が落ちた事に気づいたのは、ハリーが「それじゃあ今から観察だ」と口にした時だった。
「これはこれは――大英雄のハリー・ポッターとそのご友人ではないですかな。次の授業は我輩の魔法薬学の筈だが……こんなところで油を売るとは、余程授業に自信を持っていると窺える」
三人の肩がぎくりと跳ねた。
ゆっくり後ろを振り向くと、そこには先ほどとは別の――僕たちがいつも見る――憂さ晴らしの対象を見つけた時の笑みを浮かべたセブルス・スネイプが立っていた。
何か言わないと。ハリーは咄嗟に口を開いた。
「あー……その……僕たち、魔法薬学の課題で出てくる薬草がわからなくて。だからナマエ先生に……」
「ほう?薬学がわからないのに、薬学教師の我輩ではなく薬草学の助教授に教えを乞おうというわけか?それとも、あの助教授に面白おかしく今までの武勇伝でも話せば振り向いて貰えるなどと思っておるのかね?ん?」
ハリーの言葉を遮る様に繰り出されたスネイプの怒涛の攻めに、ハリー達はその場で顔を見合わせた。
動き出せたのは「グリフィンドール、マイナス一点。各自一点だ」という理不尽な減点を受けた後だった。
***
――そして、冒頭に戻る。
昼食時、ナマエの隣は毎回、確実にスネイプが座っていた。
毎回隣に座るので、いつの間にか二人は食事中もおしゃべりを楽しむ間柄になったようだ。
パンをちぎりながらナマエの話に耳を傾けるスネイプの表情は、それはそれは穏やかだった。
その様子に生徒達は目を丸くして驚いていたし、今でも信じられなさそうに視線を投げる者も居るが、教師陣は気にするそぶりを見せるどころか、むしろその様子を楽しそうに眺めていた。
「……ねぇ、ロン。ナマエ先生とスネイプ、何話してるんだろう」
「知るもんか!それよりもハリー、君は昼食を食べたほうがいいよ。何も進んでないじゃないか」
ハリーの言葉にロンはチキンを頬張りながらぶっきらぼうに答える。
ハリーの横に座るハーマイオニーはコーンポタージュを一口飲むと、ちらりと教員席を見た。
教員席の端ではいつもの様にスネイプがナマエの耳元で何かを囁いた後、スネイプは席を立ってどこかへ行ってしまった。その後、顔をほんのり赤くしたナマエも席を立ち大広間から出て行こうとしていた。
これはチャンスだ。
ハーマイオニーは席を立つと駆け足で大広間の扉を開けて、前を歩くナマエに駆け寄った。
「ナマエ先生、少し良いですか」
「あら、あなたはグリフィンドールの……」
「ハーマイオニー・グレンジャーです」
「ああ!ハーマイオニー!どうしたのかしら?さっきの授業でわからないところでもあった?」
「ええ、ナマエ先生に聞きたいことがあるんです。あまり人のいないところで質問したいのですが……」
ハーマイオニーの言葉にナマエは視線を少し左右させると、申し訳なさそうに眉を下げた。
「ああ……ごめんなさい。この後すぐには時間を取れなくて……十五時頃なら平気なのだけれど……」
しどろもどろに話すナマエに、ハーマイオニーはすかさず探りを入れる。
こんなの怪しすぎるじゃない。はぐらかされても、徹底的に聞き出してやるんだから!
「時間が取れないというと……この後、どこか行かれるのですか?」
「えっと……うーん……みんなにはナイショよ?」
ナマエは観念した様にハーマイオニーの耳元に顔を近づけた。
ふわりと温室でよく嗅ぐ花の匂いがハーマイオニーの鼻をくすぐった。
「スネイプ教授に、アフタヌーンティー誘われているの」
「えっ」
「みんなにはナイショにしててね!絶対よ!」
そう言うと呆然としているハーマイオニーを置いて、ナマエは地下牢教室へと足早に向かって行った。
「……大変だわ。ハリー達に知らせないと」
ハーマイオニーはすぐさま踵を返して、まだ昼食を頬張っている親友達の元へと駆けて行った。
***
地下牢教室へとつながる階段を降りるナマエの足取りは軽かった。
恋焦がれている者の元へ向かうのだ、軽やかにならないはずがない。それと同時に、階段を一段降りるたびに緊張が増す。
セブルス・スネイプは気難しい人である、と他の先生方に聞いていた。あまり他人を寄せ付けない人、とも。
薬学終わりの生徒達から愚痴を聞く時もあったし、ひょっこり覗きに行った授業ではスネイプお得意の減点の嵐を目の当たりにして、ナマエは「なるほど、これが生徒達の言う理不尽というやつか」と納得した時もあった。
だから、初めてスネイプにお茶を誘われた時、自分の耳を疑った。
初めてのお茶会はそれはそれは互いに緊張して、部屋中の空気が重かった。今となっては懐かしい思い出だ。
何度かやりとりをして、今では挨拶もできるようになったし、色々な話ができる間柄にはなれたはずだ。そして、そこに至るまでに恋焦がれてしまった。
だからこそ、疑問だった。「何故、私とお茶会を?」
その疑問は今も解決はしていないし、聞くつもりもない。――いや、聞く勇気が出ない。
ナマエは地下牢教室の扉の前で一呼吸おくと、扉のトントンとノックした。
「入りたまえ」
扉の向こうから聞こえてきた低い声に扉を開き、中へと入る。
レポートの採点をしていたのか、教壇で羽ペンを忙しなく動かすスネイプの姿がそこにはあった。
スネイプはこちらをちらりと見ると、羽ペンの動きを止め、こちらへ一歩近づく。
「……さて、かけたまえ。今日は我輩が決めてよろしいかね?」
「ええ!スネイプ教授の紅茶はどれも美味しいですから」
「それはそれは。光栄ですな」
スネイプの表情は相変わらずいつもと変わらない。が、先ほどよりも声色は少し明るかった。
着ていた漆黒のローブを翻して、紅茶の準備を始める。
ナマエは教室内をキョロキョロと見回すと、おどろおどろしい教室には似つかわしくない一つの花を見つけた。
「あ……マトリカリアだ……」
「さすがは薬草学助教授、よく知っているな」
「スネイプ教授はマトリカリアがお好きで?」
「いいや。花を飾るなどということは到底好かん」
スネイプはティーカップをナマエの前に置くと、自身も対面する様にソファーに腰掛けた。
ナマエはいただきます。と出された紅茶を一口飲んだ。
甘く、そして余韻を残さず消えていく香りに、ナマエはスネイプを見た。
「……知らない味だわ」
「……ほう、初めて口にするかね」
「ええ、とっても甘くて……バニラですか?あとはフルーツの香りもする……なんという紅茶なのですか?」
スネイプはティーカップをテーブルに置くと、ナマエをじっと見つめた。射抜かれそうな目にナマエは目を逸らせなかった。
「パルフェタムールだ。聞いたことはないかね?」
その言葉にナマエの心臓がどくんと音を立てた。
顔に熱が集まって、とても恥ずかしい。
そんなナマエの様子を見て、スネイプはニヤリと口角を上げた。
「そのマトリカリアも、贈り物用だ」
「それは……どなたに、ですか……」
顔を赤くしながらこちらを見上げるナマエに、スネイプの口角はますます上がる。
「わかっておるのではないかね?」
「……わかりません……ちゃんと、聞きたいです」
「……」
スネイプは立ち上がりナマエの横に腰をかけると、自身の手の甲でナマエの白く柔らかい頬を撫でたあと、その手のひらでナマエの頬を抱いた。
至近距離で合う視線に、ナマエは目が離せなかった。
「我輩の口から聞きたいと申したのはナマエ、貴様だからな」
スネイプの低く甘い声が全身を駆け巡る。まるでこの紅茶の様だ。
「我輩は、貴様を、愛している」
スネイプはゆっくり、溶かすように耳元で囁くと、ナマエの艶のある赤い唇に顔を近づけた。
そんな秘密のお茶会を扉の外で小さな獅子達が盗み聞きしていた事実を知ったスネイプは、後日ありとあらゆる理由をつけて減点の嵐を振りまいたとか。
何故こんなことになったのか――話は数時間前に遡る。
ナマエはスプラウト先生の助教授をしていて、いつもニコニコと笑顔で授業のサポートをしてくれる良い先生だ。ホグワーツでは珍しく明るく気軽に会話をしてくれる先生だったので、ナマエ目当てに温室に来る生徒もちらほら居るくらいの人気だった。
そんなナマエにある噂が立っていた。
【薬学教授のセブルス・スネイプがナマエを狙っている】
そんなまさか!ハリーは思った。
セブルス・スネイプといえば、性格は陰険、根暗、間違えた時の指摘はねちっこいし、自寮贔屓。外見は肌は土気色、べたついた髪の毛に鉤鼻で、黒いマントをいつも羽織っていて、その姿はまさに育ちすぎた蝙蝠。
対するナマエは性格は明るく温厚、生徒の失敗も「誰でも失敗はするよ」と慰めてくれる。外見は肌は白くきめ細やか、櫛通りも滑らかそうな髪の毛で、目鼻立ちも悪くない。いつも温室で植物の世話をしているせいか、園芸のようなエプロン姿しか見た事はないが、それでも一生懸命な姿は見ていて応援したくなる。
そんな真逆に位置する二人が、噂になるなんて!そんなのユニコーンが自ら姿を現すくらいあり得ない!
「ねぇ、何かの間違いじゃないの?」
ハリーはスプラウト先生に熱心に質問をするハーマイオニーを見ながらロンに投げかけた。
ロンは「本当に間違いだったら良いのにな」と当てにならない返事を返した。
ハリーは一向に終わらないハーマイオニーの質問に痺れを切らすと、温室から出ようと扉に足を進めた。
扉に手をかけた時だった。温室の外で話し声が聞こえた。
「あら、スネイプ教授!こんにちは」
「どうも」
ハリーは一瞬目を見開くと、体をくるりと反転させてロンの元へ急いで戻った。
「ロン!ロン!聞いて!今外で、ナマエ先生とスネイプが!」
「え?なんだって?」
「だから!ナマエ先生とスネイプが、温室の外で話してるんだよ!きっとスネイプはデートの予約をとりに来たんだ!」
ハリーの言葉にロンは目を見開くと、二人で声のする方へと向かった。
温室の扉をそっと開いて外を覗き見る。向かいの温室の入口ではナマエとスネイプが立ち話をしていた。
会話の内容は聞こえないが、ナマエは時折笑顔を浮かべながら相槌を返していて、スネイプも心なしか口角が上がっていた。その顔は減点を愉しみにしているときのようないやらしい笑みではなく、柔らかいもののように見えた。
「ヒュー……あいつ、あんな顔するんだね。僕、あんな笑顔を見せられたら怖くて震えちゃうよ……」
「あら!いつもスネイプ先生には震えてる癖によく言うわよ!」
ロンが軽口を叩いた時だった。質問を終えたハーマイオニーが、教本を両手でしっかりと抱えながらハリー達の後ろに立っていた。
「うわ!びっくりさせるなよハーマイオニー!」
「あなたが勝手にびっくりしたのでしょう?それに、盗み聞きは良くないわ!」
「でも、ハーマイオニー。もし本当にスネイプがナマエ先生の事を狙っているとしたら、どうしよう。僕はあんまり……優しいナマエ先生と『あの』スネイプがくっつくのは良い気がしないな」
『あの』を強調したハリーの表情はとても歪んでいた。
おやつに食べた百味ビーンズが【ミミズ味】だった時以上だ。
「僕も嫌だけど……そうだ、ナマエ先生にその気が無ければ、スネイプだって諦めるしかないよな!」
ロンの一言にハリーが名案だ!と声を上げた。
それを聞いてハーマイオニーはむっと頬を膨らませた。
「何よ。それじゃあナマエ先生に直接聞くしかないじゃない。スネイプ先生の事、好きなんですか?って」
「馬鹿言え。ハーマイオニー、君は変なところで頭が回らないな。正直に聞いたところで、はぐらかされるだけだ」
「それじゃあ僕たちでナマエ先生の様子を探るしかないね」
ハーマイオニー、ロン、ハリーの順で意見交換と名ばかりの言い争いを始める。
彼らの中で【スネイプがナマエの事を狙っている】というのは確定事項になっていた。
ゆらりと影が落ちた事に気づいたのは、ハリーが「それじゃあ今から観察だ」と口にした時だった。
「これはこれは――大英雄のハリー・ポッターとそのご友人ではないですかな。次の授業は我輩の魔法薬学の筈だが……こんなところで油を売るとは、余程授業に自信を持っていると窺える」
三人の肩がぎくりと跳ねた。
ゆっくり後ろを振り向くと、そこには先ほどとは別の――僕たちがいつも見る――憂さ晴らしの対象を見つけた時の笑みを浮かべたセブルス・スネイプが立っていた。
何か言わないと。ハリーは咄嗟に口を開いた。
「あー……その……僕たち、魔法薬学の課題で出てくる薬草がわからなくて。だからナマエ先生に……」
「ほう?薬学がわからないのに、薬学教師の我輩ではなく薬草学の助教授に教えを乞おうというわけか?それとも、あの助教授に面白おかしく今までの武勇伝でも話せば振り向いて貰えるなどと思っておるのかね?ん?」
ハリーの言葉を遮る様に繰り出されたスネイプの怒涛の攻めに、ハリー達はその場で顔を見合わせた。
動き出せたのは「グリフィンドール、マイナス一点。各自一点だ」という理不尽な減点を受けた後だった。
***
――そして、冒頭に戻る。
昼食時、ナマエの隣は毎回、確実にスネイプが座っていた。
毎回隣に座るので、いつの間にか二人は食事中もおしゃべりを楽しむ間柄になったようだ。
パンをちぎりながらナマエの話に耳を傾けるスネイプの表情は、それはそれは穏やかだった。
その様子に生徒達は目を丸くして驚いていたし、今でも信じられなさそうに視線を投げる者も居るが、教師陣は気にするそぶりを見せるどころか、むしろその様子を楽しそうに眺めていた。
「……ねぇ、ロン。ナマエ先生とスネイプ、何話してるんだろう」
「知るもんか!それよりもハリー、君は昼食を食べたほうがいいよ。何も進んでないじゃないか」
ハリーの言葉にロンはチキンを頬張りながらぶっきらぼうに答える。
ハリーの横に座るハーマイオニーはコーンポタージュを一口飲むと、ちらりと教員席を見た。
教員席の端ではいつもの様にスネイプがナマエの耳元で何かを囁いた後、スネイプは席を立ってどこかへ行ってしまった。その後、顔をほんのり赤くしたナマエも席を立ち大広間から出て行こうとしていた。
これはチャンスだ。
ハーマイオニーは席を立つと駆け足で大広間の扉を開けて、前を歩くナマエに駆け寄った。
「ナマエ先生、少し良いですか」
「あら、あなたはグリフィンドールの……」
「ハーマイオニー・グレンジャーです」
「ああ!ハーマイオニー!どうしたのかしら?さっきの授業でわからないところでもあった?」
「ええ、ナマエ先生に聞きたいことがあるんです。あまり人のいないところで質問したいのですが……」
ハーマイオニーの言葉にナマエは視線を少し左右させると、申し訳なさそうに眉を下げた。
「ああ……ごめんなさい。この後すぐには時間を取れなくて……十五時頃なら平気なのだけれど……」
しどろもどろに話すナマエに、ハーマイオニーはすかさず探りを入れる。
こんなの怪しすぎるじゃない。はぐらかされても、徹底的に聞き出してやるんだから!
「時間が取れないというと……この後、どこか行かれるのですか?」
「えっと……うーん……みんなにはナイショよ?」
ナマエは観念した様にハーマイオニーの耳元に顔を近づけた。
ふわりと温室でよく嗅ぐ花の匂いがハーマイオニーの鼻をくすぐった。
「スネイプ教授に、アフタヌーンティー誘われているの」
「えっ」
「みんなにはナイショにしててね!絶対よ!」
そう言うと呆然としているハーマイオニーを置いて、ナマエは地下牢教室へと足早に向かって行った。
「……大変だわ。ハリー達に知らせないと」
ハーマイオニーはすぐさま踵を返して、まだ昼食を頬張っている親友達の元へと駆けて行った。
***
地下牢教室へとつながる階段を降りるナマエの足取りは軽かった。
恋焦がれている者の元へ向かうのだ、軽やかにならないはずがない。それと同時に、階段を一段降りるたびに緊張が増す。
セブルス・スネイプは気難しい人である、と他の先生方に聞いていた。あまり他人を寄せ付けない人、とも。
薬学終わりの生徒達から愚痴を聞く時もあったし、ひょっこり覗きに行った授業ではスネイプお得意の減点の嵐を目の当たりにして、ナマエは「なるほど、これが生徒達の言う理不尽というやつか」と納得した時もあった。
だから、初めてスネイプにお茶を誘われた時、自分の耳を疑った。
初めてのお茶会はそれはそれは互いに緊張して、部屋中の空気が重かった。今となっては懐かしい思い出だ。
何度かやりとりをして、今では挨拶もできるようになったし、色々な話ができる間柄にはなれたはずだ。そして、そこに至るまでに恋焦がれてしまった。
だからこそ、疑問だった。「何故、私とお茶会を?」
その疑問は今も解決はしていないし、聞くつもりもない。――いや、聞く勇気が出ない。
ナマエは地下牢教室の扉の前で一呼吸おくと、扉のトントンとノックした。
「入りたまえ」
扉の向こうから聞こえてきた低い声に扉を開き、中へと入る。
レポートの採点をしていたのか、教壇で羽ペンを忙しなく動かすスネイプの姿がそこにはあった。
スネイプはこちらをちらりと見ると、羽ペンの動きを止め、こちらへ一歩近づく。
「……さて、かけたまえ。今日は我輩が決めてよろしいかね?」
「ええ!スネイプ教授の紅茶はどれも美味しいですから」
「それはそれは。光栄ですな」
スネイプの表情は相変わらずいつもと変わらない。が、先ほどよりも声色は少し明るかった。
着ていた漆黒のローブを翻して、紅茶の準備を始める。
ナマエは教室内をキョロキョロと見回すと、おどろおどろしい教室には似つかわしくない一つの花を見つけた。
「あ……マトリカリアだ……」
「さすがは薬草学助教授、よく知っているな」
「スネイプ教授はマトリカリアがお好きで?」
「いいや。花を飾るなどということは到底好かん」
スネイプはティーカップをナマエの前に置くと、自身も対面する様にソファーに腰掛けた。
ナマエはいただきます。と出された紅茶を一口飲んだ。
甘く、そして余韻を残さず消えていく香りに、ナマエはスネイプを見た。
「……知らない味だわ」
「……ほう、初めて口にするかね」
「ええ、とっても甘くて……バニラですか?あとはフルーツの香りもする……なんという紅茶なのですか?」
スネイプはティーカップをテーブルに置くと、ナマエをじっと見つめた。射抜かれそうな目にナマエは目を逸らせなかった。
「パルフェタムールだ。聞いたことはないかね?」
その言葉にナマエの心臓がどくんと音を立てた。
顔に熱が集まって、とても恥ずかしい。
そんなナマエの様子を見て、スネイプはニヤリと口角を上げた。
「そのマトリカリアも、贈り物用だ」
「それは……どなたに、ですか……」
顔を赤くしながらこちらを見上げるナマエに、スネイプの口角はますます上がる。
「わかっておるのではないかね?」
「……わかりません……ちゃんと、聞きたいです」
「……」
スネイプは立ち上がりナマエの横に腰をかけると、自身の手の甲でナマエの白く柔らかい頬を撫でたあと、その手のひらでナマエの頬を抱いた。
至近距離で合う視線に、ナマエは目が離せなかった。
「我輩の口から聞きたいと申したのはナマエ、貴様だからな」
スネイプの低く甘い声が全身を駆け巡る。まるでこの紅茶の様だ。
「我輩は、貴様を、愛している」
スネイプはゆっくり、溶かすように耳元で囁くと、ナマエの艶のある赤い唇に顔を近づけた。
そんな秘密のお茶会を扉の外で小さな獅子達が盗み聞きしていた事実を知ったスネイプは、後日ありとあらゆる理由をつけて減点の嵐を振りまいたとか。
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