彼女のコレクション
「曲者だ!! これ以上侵入させるな!!」
「まずい、軀様の居住区に近付いて……!!」
その日、移動要塞百足は大パニックとなっていたのだ。
少し前に滅ぼした人身売買組織の生き残りが、停泊中の百足に侵入。
防護をすり抜け、百足でもごく一部の者しか立ち入ることができない、軀のための領域にまで肉迫したのだ。
それを知った飛影の感想は……
「馬鹿め」
というもの。
どうも叫んでいた内容からして、軀に雑貨に変貌させられた誰かの兄弟らしいのだが、かたき討ちなど無謀もいいところ。
百足内部が上へ下への大騒ぎの間、飛影は慌てるでもなくゆっくりと軀の居室へ向かう。
◇ ◆ ◇
その男が、国王の居室だという大きな部屋に入り込んだ時、その当の「国王」は、玉座であろう巨大なベッドみたいなソファに、無造作に寝そべっていたのだ。
豪奢な部屋だ。
天井は薄闇に消えているがきらきらした天井画で飾られているのがうっすら見えている。
ランプが幾つも灯され、視界に不自由はない。
豪壮な造りだが、端々を見れば意外と少女趣味だ。
華麗で繊細なガラス細工のランプ。
妖精が支えるように見えている鏡。
きらきらした魚の鱗の間に熱帯魚を泳がせる水槽。
そして、あちこちに置かれたきらびやかなビスクドール。
部屋の主は、まるで彼女自身が人形であるかのように、その華奢な身を玉座にひっかけて寝そべっている。
首がやや曲がり、無造作に両足を投げ出し、関心なさそうに侵入者たる男を眺める。
びっくりするような傷が右半身にあるものの、その左側はこの上なく美しい女である。
薄明かりの輪の中できらめく金髪、彼女自身が超一流の人形師によって形作られたような繊細な目鼻立ち。
細身で均整の取れた肢体は、脱力して投げ出されているせいで、ますます人形じみる。
「なんだ、お前。なんか用か」
口調は男っぽいが、声は滑らかで耳に心地よい。
一瞬見惚れそうになった男だが、しかし、視界の端に兄に似た人形が目に入るとやわな気分も吹っ飛ぶ。
男は、一足飛びに玉座に駆け上がり、寝そべっている軀の首筋に短刀を突き付ける。
「兄を返せ」
「ああん?」
「兄だ。お前があの国を襲った時に、人形に変えた銀髪の男だ!!」
「ああ」
軀は身じろぎをする。
「じゃ、お前も人形になればいいんじゃねえか?」
軀が笑いを含めてそう告げた時。
その時にはもう、侵入者の男は、その元の通り、やや昏めな銀髪の人形となって、玉座に転がっていたのだ。
短刀を放り出し、軀は上機嫌で「それ」を、テーブルの上に座らされた銀髪の人形の隣に並べたのだった。
◇ ◆ ◇
飛影は、今日も軀の部屋に戻る。
ふと、大きなその扉の前に、ゴミ袋が出されていることに気付く。
メイドが掃除を終えたばかりなのだろうと判断し、ちらっとそれに目をやった飛影の視界に。
薄い銀髪と濃い銀髪の、兄弟のようにそっくりな男の子のビスクドールが、あっさり廃棄されていたのが入ったのだった。
「まずい、軀様の居住区に近付いて……!!」
その日、移動要塞百足は大パニックとなっていたのだ。
少し前に滅ぼした人身売買組織の生き残りが、停泊中の百足に侵入。
防護をすり抜け、百足でもごく一部の者しか立ち入ることができない、軀のための領域にまで肉迫したのだ。
それを知った飛影の感想は……
「馬鹿め」
というもの。
どうも叫んでいた内容からして、軀に雑貨に変貌させられた誰かの兄弟らしいのだが、かたき討ちなど無謀もいいところ。
百足内部が上へ下への大騒ぎの間、飛影は慌てるでもなくゆっくりと軀の居室へ向かう。
◇ ◆ ◇
その男が、国王の居室だという大きな部屋に入り込んだ時、その当の「国王」は、玉座であろう巨大なベッドみたいなソファに、無造作に寝そべっていたのだ。
豪奢な部屋だ。
天井は薄闇に消えているがきらきらした天井画で飾られているのがうっすら見えている。
ランプが幾つも灯され、視界に不自由はない。
豪壮な造りだが、端々を見れば意外と少女趣味だ。
華麗で繊細なガラス細工のランプ。
妖精が支えるように見えている鏡。
きらきらした魚の鱗の間に熱帯魚を泳がせる水槽。
そして、あちこちに置かれたきらびやかなビスクドール。
部屋の主は、まるで彼女自身が人形であるかのように、その華奢な身を玉座にひっかけて寝そべっている。
首がやや曲がり、無造作に両足を投げ出し、関心なさそうに侵入者たる男を眺める。
びっくりするような傷が右半身にあるものの、その左側はこの上なく美しい女である。
薄明かりの輪の中できらめく金髪、彼女自身が超一流の人形師によって形作られたような繊細な目鼻立ち。
細身で均整の取れた肢体は、脱力して投げ出されているせいで、ますます人形じみる。
「なんだ、お前。なんか用か」
口調は男っぽいが、声は滑らかで耳に心地よい。
一瞬見惚れそうになった男だが、しかし、視界の端に兄に似た人形が目に入るとやわな気分も吹っ飛ぶ。
男は、一足飛びに玉座に駆け上がり、寝そべっている軀の首筋に短刀を突き付ける。
「兄を返せ」
「ああん?」
「兄だ。お前があの国を襲った時に、人形に変えた銀髪の男だ!!」
「ああ」
軀は身じろぎをする。
「じゃ、お前も人形になればいいんじゃねえか?」
軀が笑いを含めてそう告げた時。
その時にはもう、侵入者の男は、その元の通り、やや昏めな銀髪の人形となって、玉座に転がっていたのだ。
短刀を放り出し、軀は上機嫌で「それ」を、テーブルの上に座らされた銀髪の人形の隣に並べたのだった。
◇ ◆ ◇
飛影は、今日も軀の部屋に戻る。
ふと、大きなその扉の前に、ゴミ袋が出されていることに気付く。
メイドが掃除を終えたばかりなのだろうと判断し、ちらっとそれに目をやった飛影の視界に。
薄い銀髪と濃い銀髪の、兄弟のようにそっくりな男の子のビスクドールが、あっさり廃棄されていたのが入ったのだった。