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体当たりリポート 魔界の海の幸!!

「蔵馬よー、オメー、魔界ハタっていうのがあんなにデカイって、なんで教えてくれねえんだよー!!」

 魔界製の、低空をすいすい移動する船の上。
 雷禅国の道着姿の幽助は蔵馬に文句を垂れる。
 蔵馬はいつもの中華風の道着のまま、船の甲板に腰を下ろして、長髪を潮風になびかせている。
 周囲にはカメラはじめテレビ局の撮影スタッフと、操船技術者。

「ああ、すみません。雷禅の国は内陸にあるから、魔界の海の魚は不慣れだったんですね。魔界魚に食べられかけたことがあるって話を聞いていたので、てっきり何となく知っているものかと」

 幽助は、昔を思い出して渋い顔を見せる。

「あー、ばあさんの弟子になる時に、候補者の中に妖怪が混じっててな。そいつに呼び出された魔界魚に食われかけた。そいつらは手で掴めるくらいっていうか、デカめの鯉くらいの大きさだったからなあ」

 幽助が桑原の発破に救われたその事件を思い出すと、蔵馬はなるほどとうなずく。

「その魔界魚は、淡水性でしょうね。ハタみたいな海水性の魔界魚は、大きさも凶暴さも格段に上です。あのハタどころではない大きさのものもいますよ」

 幽助はうげげ、と喉を鳴らす。

「あれよりデカイのもいんのかよ!! スゲエな魔界の海。その辺の魔族が魚食うのも一苦労なんじゃねーか? もしかして」

「そうですね。大体海辺で漁業に従事しているような魔族はA級以上が多いと言われていますね」

 強者の職業なんですよ。
 下手に妖怪同士戦うよりも困難だったりしますしね。
 蔵馬はそんな風に付け加える。
 幽助は今更納得する。

「それで俺にこういう企画持ってきたのか。S級だし何とかなるだろうってか」

「まあ……そんなところでしょうねえ」

 空中船が停止する。
 波打つ青黒い海面に、更に暗く影が落ちる。
 岸辺からさほど離れていないが、十分深くなりはじめたあたり。
 魔界ハタは、一般にこの辺に生息する。
 エサを求めて、浅瀬にも深みにも。
 この場合の「エサ」は。

「あ、来ましたね……」

 蔵馬が船体の下を覗き込む。
 ひときわ水面が暗くなる。
 巨大な魚影だ。
 次第に大きく……

「行くぞうらぁぁぁぁぁああぁーーーーー!!」

 幽助が咆哮と共に船を蹴って飛び降りる。
 と、水面が割れて巨大な魚の顎が飛び出してきたのは同時である。

 幽助の蹴りが、魔界ハタの巨大な鼻先に……

 途端。

 凄まじい勢いで、水の塊が噴出する。
 幽助は巻き込まれ、水と一緒にはるか上空へ。

「幽助……!! まずい、この船も下がって!!」

 蔵馬が素早く叫ぶと、操船技術者が船を退避させる。
 今まで船があったあたりに、ハタが水に戻った飛沫が盛大に噴き上がる。

「あれ……浦飯さんはどこに」

 撮影クルーの一人が、きょろきょろ周囲を見回している。
 上空に目をやっても、ビカビカする稲光ばかりで、幽助の姿は見えない。

「もう始めてますよ」

 蔵馬は軽く笑う。
 言われたクルーが海面に目をやると、いつの間にか上空から戻ったのか、幽助が海面に突っ込んででかい水柱を上げているところである。
 その周囲をゆうゆうと泳ぎ回るハタの魚影。

「オラオラ、来てみろ魚野郎―――!!」

 幽助が叫びつつ、水面を叩く。
 立ち泳ぎしている状態の彼の下から、また魚影。
 巨大な顎が一瞬で幽助を掬い上げ、丸のみに……

「うわああああ、うっ、浦飯さ……!!」

「大丈夫、よく見ていてください」

 凄まじい大音声。
 幽助のアッパーカットが、魚の顎に綺麗に決まり、魚は水面を割って吹っ飛ばされてまた水に沈む。

 しばし後。

「やったぞ!! こういう時、『獲ったどーーー!!』って言うのか?」

 相変わらず海面に浮かぶ幽助が、すぐそばに浮いて来た巨大な魔界ハタに取り付く。
 完全にノビているようだ。

「す、凄い、浦飯さん。一撃で……!!」

 クルーがざわざわしていると、蔵馬が穏やかに微笑む。

「魚類にだけ効く毒草を、幽助に持たせてたんですよ。あのかじりつかれそうになった時に、口の中に放り込んだみたいですね。あとでVTR確認いただければ映ってると思いますよ」

 じゃ、早いとこ陸に曳航した方がいいですね。

 蔵馬がクルーを促すと、彼らの船は慌てたように、水面の幽助の元に降下して行ったのだった。
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