体当たりリポート 魔界の海の幸!!

 だっっっぱーーーーん!!

 赤と紫の毒々しくも巨大な魚影が、目の前で海を割り、海面に跳ね上がる。
 特撮の怪獣もかくやという吼え声。
 もんどりうつように、とんでもない水しぶきを上げつつ、また海に戻っていく。
 幽助のいる岸辺に、波が押し寄せて幽助と蔵馬の長靴を濡らす。

「あれが魔界ハタです。ちょっと凶暴ですが、身は凄く美味しいんですよ」

 蔵馬が全く悪気ないですよと言いたげなニコニコ顔で、幽助に解説する。

「ちょ……っと、待てよーーーー!!」

 幽助はあまりのことに固まり。
 次いで、絶叫を上げたのである。



◆ ◇

 時は一か月ばかり前にさかのぼる。
 週末、雷禅の元に滞在していた幽助の元に、魔界のテレビ局「テレビ嵐」から、とあるディレクターが訪ねて来たのである。

「ご存知のように、人間界と魔界の間の結界が解除され、人間界のあれこれが魔界にも流入するようになりました。実に500年ぶりのことです」

 砂洲という名前の、文字通り砂色の肌と髪を持つそのディレクターは、アシスタントと共に、雷禅国の国王の塔の客間で、そんなことを口にする。
 幽助は、隣で野次馬がてら見物している雷禅を尻目に応対するしかない。
 ぴかぴかした空の稲光が差し込む部屋だが、視界に不自由はなく、幽助は首をかしげる。

「ああ、そうなんだってな。人間界に旅行に行くのも流行ってるらしいし。俺の幼馴染の家、食堂なんだけど、妖怪らしき客がぐっと増えたってさ」

 砂洲ディレクターは身を乗り出す。

「そうでしょう? 異世界に行ったら、まずそちらのグルメ!! 気になりますよねえ。浦飯さんは魔界でどんなものを普段お召し上がりですか?」

 ちょっと幽助は考え込む。

「この腹ペコじじいが自分のこと棚に上げてバランスよく食えとかぬかしやがってよ。まあ、闘神だから肉料理中心だけど……あ、そういや、魔界に来てから魚とか食ってないなあ。ここ内陸だから海があんまり……」

「ほうほう」

 砂洲ディレクターはますます身を乗り出す。

「浦飯さんは、魔界の海の幸グルメはなじみがないと。好都合です」

 幽助は怪訝そうに眉をひそめる。

「どういうこったよそれ? 俺が魔界で魚あんまり食ってなかったら何が好都合なんだよ?」

「実は我が局の企画で。人間界出身で、有名な半妖であらせられる浦飯幽助さんに、魔界の海の幸を体当たりで獲ってもらおうと」

「あーハイハイ」

 幽助は砂洲ディレクターの言葉にピンと来る。
 人間界の人気テレビ番組で某タレント氏がやっていたやつ。
「獲ったどーーー!!」というやつである。

「いいぜ。海に行って魔界の魚獲るんだろ? 無人島とかで暮らすとかあるんか?」

「いえいえ」

 ディレクターはぶんぶん首を横に振る。

「わが社のリサーチによると、浦飯さんはお料理もお得意でいらっしゃるとか? ご自身で獲った食材を、ご自身で料理して、その、お父様方に振舞うというのはいかがでしょう? その様子を番組として放映するのです」

 そういう企画なんですよ!! と、砂洲ディレクターは説明用の企画資料を並べだす。
 横からひったくったのは雷禅である。

「ほお。幽助が獲って料理した海の幸を幽助と三竦みが食うのか。いいじゃねーか。よし、幽助の親の俺が許可する。企画進めてくれ」

「おい!! 勝手に進めてるんじゃねー!!」

 幽助が歯を剥いて怒りを露わにするが、雷禅は涼しい顔だ。

「なんだ? やる気になってたじゃねーか。どーせ、こういうのは俺の許可もいるんだろうから、まとめてGOサイン出しただけだ。ゴチャゴチャ言うなめんどくせえ」

 幽助は苦虫を嚙み潰した顔であるが、確かに雷禅の言う通りではある。

「ええっと、浦飯さんご自身はあまり乗り気では」

 ディレクターが控えめに伺いを立てると、幽助はええい、と荒く息をつく。

「やる!! やってやる!! 魔界の魚食いてえし。このクソオヤジばっかじゃなくて、黄泉や軀にもおごってやれるってことなんだろ? あいつらが普通に飯食うところ見てえし」

 ……かくして、「浦飯幽助の体当たり海の幸!!」企画はスタートしたのである。
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