目覚め
「彼女の話によると、急に失踪した『霊感の高めな人間』は、彼女のサークルの先輩だけではないそうなんです」
蔵馬は、幻海の寺に集まった面々の前で、その事件について報告する。
客間は外の緑の香りが流れて来る気持のいい空気に満たされているが、そこに詰め込まれた誰もが、それを味わう気分ではないだろう。
そこにいるのは蔵馬の他に、若返った幻海、幽助、桑原、飛影、彼らに加えて戸愚呂兄弟。
兄弟は幻海と幽助の兄・永夜が入魔洞窟と冥獄界から救出して以来、幻海の寺に居候しているのだ。
蔵馬は更に続ける。
「失踪した人間の中には、彼女が属しているサークルと交流があった、他校のオカルト同好会に属していた、やはり霊感が高めで、割と霊障を受けやすい体質の男子がいたそうです。彼が消え、喜多嶋の先輩も消え……正直、脅威を感じています」
蔵馬が大きく溜息をつくと、幻海が続ける。
「その二人だけじゃないな、失踪したのは。知人の警察関係者によると、先週と今週で六人消えている。いずれも比較的若年層。それ以外の共通点を強いて上げれば、霊的感受性が高いという特徴がある者ばかりだ。周囲に、霊感少年少女と知られているような」
幻海が茶をすする。
次に口を開いたのは、飛影。
「やはりだ。軀が追っていた件で間違いないだろうな。魔界トーナメント以降、法律で禁止されているはずの、人肉の取引を行う闇業者がいると」
「なんだとオイ!? その誘拐された霊感少年少女って連中は、食い殺されてるってのか!? 魔界は今はもう、人肉食うのは御法度になったはずだろ!?」
桑原が目を白黒させている。
幽助もその後に疑問を追加する。
「それによ、何で霊感が強い奴が狙われるんだ? 単に肉なら、霊感強い弱いとか関係ねえんじゃねえか?」
答えたのは戸愚呂弟。
「そういう訳じゃないね。妖怪の中には、霊力の高い人間の肉を食べると、妖力が増大していくってタイプの奴が結構いるんだ。そういう連中にとっては、例え法律で禁止されてようが何だろうが、霊力の高い人間の肉は貴重な霊薬みたいなもの。いや、むしろ、禁止されているからこそ、無理やり手に入れる価値があるモノになっちまってるのさ」
そういう話が昔から絶えないからこそ、俺たちみたいな闇ブローカーに仕事があった。
今回の悪徳業者も同じだろうねェ。
戸愚呂の言葉に、蔵馬はうなずき、溜息をこぼしつつ説明し始める。
「中学の頃ね。そういう霊力の高い人間の肉を食べることで力が増大するっていう種類の妖怪が、近所に住み着いてしまったことがあってね。今回、情報をくれた元クラスメイトの喜多嶋は、危くそいつに食べられるところだった」
幽助が目を剥く。
「えっ……あ、そんなことあったんか、初めて知った」
「危ねえなあ……俺の闇ブローカーとしての経験から言っても、そのキタジマって子がまた狙われるんじゃねえかぁ!?」
妙にねっとりした声で、戸愚呂兄が笑う。
弟の横で、ごろごろ座卓に転がりながら、ぎらつく陰湿な瞳を蔵馬に向ける。
蔵馬は無表情な目で、元宿敵を見やる。
「その可能性は高い。一応、一人では外出しないことを約束させているが、それだけでは心もとない」
ふと幻海を振り返り、
「幻海師範、できれば、今回の件が終わるまで、喜多嶋をかくまってもらう訳にはいきませんか。霊力が高くなりすぎて、今回の騒動がなくても、放置は危険なように思えるんですが」
幻海は考え込む。
「蔵馬の正体を、妖狐の姿を霊視で見抜いてしまったそうだね。確かに放っておけば、今回を凌いでも、いずれ何者かに悪用されるだろうね……ふむ」
華奢な顎をつまみ、幻海は決断する。
「その子とは、今連絡つくかい?」
「ええ、連絡先は交換して……?」
蔵馬のスマホが軽快な通知音を鳴らしたのはその時。
「喜多嶋……? これは……!!」
蔵馬の顔がみるみる青ざめる。
『たすけてまずそう』
画面には、それだけの言葉。
ただならぬ気配に、蔵馬はすぐさまメッセージアプリの通話機能を起動させる。
しかし。
「……出ない。切られた」
「まずいね。遅かったか」
戸愚呂弟が唸る。
「おいおいおい!! その子今誰かに連れてかれてるってことか!! ヤベェぞ早く追わねえと」
桑原が立ち上がる。
幻海が鋭く息を吐き、警告を発する。
「落ち着きな。恐らくすぐには殺されない。多分、生きたまま魔界に連れていかれるだろう」
幽助がそれを聞いて怪訝そうに師匠を見返す。
「どうしてそんなことがわかるんだよ!?」
「単純なことだ。人肉に含まれる霊力を摂取するには、肉の鮮度が良い方がいい」
飛影が幻海に代わり、こともなげに説明を始める。
「最高なのはまだ生きている状態で貪り食うことだが、殺すなら死んだ直後でないと、高い霊力の意味があまりない」
おぞましい言葉の連続に顔をひきつらせる幽助と桑原を尻目に、飛影は続ける。
「例の人肉業者の『客』が魔界にいる以上、捕まった霊力の髙い人間は、魔界で、それも客のすぐ側で殺されるはずだ。従って、人間界では殺されない」
蔵馬がぞっとするような暗い決意を秘めた表情で立ち上がる。
付き合いの長い仲間たちもはっとする表情。
「行きましょう。喜多嶋が魔界に連れ去られる前に取り戻さないと」
蔵馬は、幻海の寺に集まった面々の前で、その事件について報告する。
客間は外の緑の香りが流れて来る気持のいい空気に満たされているが、そこに詰め込まれた誰もが、それを味わう気分ではないだろう。
そこにいるのは蔵馬の他に、若返った幻海、幽助、桑原、飛影、彼らに加えて戸愚呂兄弟。
兄弟は幻海と幽助の兄・永夜が入魔洞窟と冥獄界から救出して以来、幻海の寺に居候しているのだ。
蔵馬は更に続ける。
「失踪した人間の中には、彼女が属しているサークルと交流があった、他校のオカルト同好会に属していた、やはり霊感が高めで、割と霊障を受けやすい体質の男子がいたそうです。彼が消え、喜多嶋の先輩も消え……正直、脅威を感じています」
蔵馬が大きく溜息をつくと、幻海が続ける。
「その二人だけじゃないな、失踪したのは。知人の警察関係者によると、先週と今週で六人消えている。いずれも比較的若年層。それ以外の共通点を強いて上げれば、霊的感受性が高いという特徴がある者ばかりだ。周囲に、霊感少年少女と知られているような」
幻海が茶をすする。
次に口を開いたのは、飛影。
「やはりだ。軀が追っていた件で間違いないだろうな。魔界トーナメント以降、法律で禁止されているはずの、人肉の取引を行う闇業者がいると」
「なんだとオイ!? その誘拐された霊感少年少女って連中は、食い殺されてるってのか!? 魔界は今はもう、人肉食うのは御法度になったはずだろ!?」
桑原が目を白黒させている。
幽助もその後に疑問を追加する。
「それによ、何で霊感が強い奴が狙われるんだ? 単に肉なら、霊感強い弱いとか関係ねえんじゃねえか?」
答えたのは戸愚呂弟。
「そういう訳じゃないね。妖怪の中には、霊力の高い人間の肉を食べると、妖力が増大していくってタイプの奴が結構いるんだ。そういう連中にとっては、例え法律で禁止されてようが何だろうが、霊力の高い人間の肉は貴重な霊薬みたいなもの。いや、むしろ、禁止されているからこそ、無理やり手に入れる価値があるモノになっちまってるのさ」
そういう話が昔から絶えないからこそ、俺たちみたいな闇ブローカーに仕事があった。
今回の悪徳業者も同じだろうねェ。
戸愚呂の言葉に、蔵馬はうなずき、溜息をこぼしつつ説明し始める。
「中学の頃ね。そういう霊力の高い人間の肉を食べることで力が増大するっていう種類の妖怪が、近所に住み着いてしまったことがあってね。今回、情報をくれた元クラスメイトの喜多嶋は、危くそいつに食べられるところだった」
幽助が目を剥く。
「えっ……あ、そんなことあったんか、初めて知った」
「危ねえなあ……俺の闇ブローカーとしての経験から言っても、そのキタジマって子がまた狙われるんじゃねえかぁ!?」
妙にねっとりした声で、戸愚呂兄が笑う。
弟の横で、ごろごろ座卓に転がりながら、ぎらつく陰湿な瞳を蔵馬に向ける。
蔵馬は無表情な目で、元宿敵を見やる。
「その可能性は高い。一応、一人では外出しないことを約束させているが、それだけでは心もとない」
ふと幻海を振り返り、
「幻海師範、できれば、今回の件が終わるまで、喜多嶋をかくまってもらう訳にはいきませんか。霊力が高くなりすぎて、今回の騒動がなくても、放置は危険なように思えるんですが」
幻海は考え込む。
「蔵馬の正体を、妖狐の姿を霊視で見抜いてしまったそうだね。確かに放っておけば、今回を凌いでも、いずれ何者かに悪用されるだろうね……ふむ」
華奢な顎をつまみ、幻海は決断する。
「その子とは、今連絡つくかい?」
「ええ、連絡先は交換して……?」
蔵馬のスマホが軽快な通知音を鳴らしたのはその時。
「喜多嶋……? これは……!!」
蔵馬の顔がみるみる青ざめる。
『たすけてまずそう』
画面には、それだけの言葉。
ただならぬ気配に、蔵馬はすぐさまメッセージアプリの通話機能を起動させる。
しかし。
「……出ない。切られた」
「まずいね。遅かったか」
戸愚呂弟が唸る。
「おいおいおい!! その子今誰かに連れてかれてるってことか!! ヤベェぞ早く追わねえと」
桑原が立ち上がる。
幻海が鋭く息を吐き、警告を発する。
「落ち着きな。恐らくすぐには殺されない。多分、生きたまま魔界に連れていかれるだろう」
幽助がそれを聞いて怪訝そうに師匠を見返す。
「どうしてそんなことがわかるんだよ!?」
「単純なことだ。人肉に含まれる霊力を摂取するには、肉の鮮度が良い方がいい」
飛影が幻海に代わり、こともなげに説明を始める。
「最高なのはまだ生きている状態で貪り食うことだが、殺すなら死んだ直後でないと、高い霊力の意味があまりない」
おぞましい言葉の連続に顔をひきつらせる幽助と桑原を尻目に、飛影は続ける。
「例の人肉業者の『客』が魔界にいる以上、捕まった霊力の髙い人間は、魔界で、それも客のすぐ側で殺されるはずだ。従って、人間界では殺されない」
蔵馬がぞっとするような暗い決意を秘めた表情で立ち上がる。
付き合いの長い仲間たちもはっとする表情。
「行きましょう。喜多嶋が魔界に連れ去られる前に取り戻さないと」