軀様ファンクラブ会員番号001
飛影は思った。
軀は、やたらめったら、女にモテる。
◇ ◆ ◇
いや、間違いではない。
男にモテない訳でもない。
魔界トーナメントで正体を明かにして以来、「軀」という妖怪を、単純に恐怖するではなく、憧れ、熱狂的ファンというべき存在になる一般妖怪は、決して少なくない。
しかも、男女ともにいる。
飛影には、男の気持ちはわからないでもない。
軀は、その酷い傷跡も含めて、妙に「そそる」女だ。
単純な意味で色気がある……というのとも違う気になる、妙に「気を引かれざるを得ない妙な引力」がある、と思う。
カリスマ性というのか、こういうことをあまり考えたこともない飛影にはピンと来ないのだが、とにかくやけに心かき乱される何かがある。
本人は、特に変わったあれこれをしていなくても、単に歩いているだけの姿でも、だ。
だが、女たちは、何故かそれ以上の支持を軀に捧げているように見える。
そう、例えばこんなこと。
飛影は、軀に連れられて、大統領府の目抜き通りの一本下の道を行く。
この辺は地元民御用達の食料品関係の店が並び、大体甘い匂いや香ばしい匂いが漂う。
頭上でごろごろいう雷も忘れて、飛影は人間界でよく見かけた光景を重ねそうになる。
何故軀自らこんなところに、という疑問は浮かびそうなものだが、答えは単純なものだ。
単に、大統領府の周縁部に停泊した百足から、大統領官邸に向かうのに、目抜き通りよりもこちらの道を通った方が近いのである。
「いい匂いがするよな、この辺」
軀は上機嫌で、隣を歩く飛影にそう話しかける。
今通り過ぎたのは、様々な種類のサンドイッチを売っている専門店だ。
人気があるらしく、内部は昼の時間も過ぎたのに混み合っている。
ふと、内部にいる女性客――この店の客の傾向として、女性が多い――が手にしていたエビとアボガドのホットサンドを放り出して立ち上がり、軀様だーーーーー!!! と叫び出す。
店内にいる客が一斉にウインドウの外を見る。
「軀様だ、本当に軀様だ!!」
「すっごいオーラ!! 素敵!!」
顔中どころか声にまでハートマークが溢れ出している女性客たちに、軀は軽く手を振ってやる。
黄色い声がいっそ悲鳴じみる。
あの件が片付いてから、軀は穏やかになり、こんな「ファンサービス」を行うことも珍しくはなくなった。
ほんの微笑み一つ、かすかな何てことない仕草でも、人間界で言うなら神の奇蹟でも目の当たりにしたような効果を、「ファン」の女性たちにはもたらす。
確かに、躯の笑顔はいい――それは認める、大いに認める、と飛影は思う。
だが、「ファン」が喜ぶのはそういう直接的なことではないのだと最近気付いた飛影である。
言うなれば、彼女らは軀という妖怪が存在していることに対して、世界に感謝を捧げているのである。
それは、あの店以外でも確認できる。
道行く通行人が、軒並み軀に熱い視線を送っているのは、ずっと前から気付いている。
「かっこいい~~~……嗚呼、軀様~~~~……」
「存在感つうかね~~~……格がこう、違うよね……元三竦みの残り二人と比べてもやっぱ違うよねオーラ」
つつきあって囁き合う若い娘に微笑みかけ、黄色い悲鳴を上げさせてから、軀は面白そうに前に進む。
時間はまだあるが、会議のために向かう、大統領官邸への道がやけに遠く感じるというもの。
「あ、あのっ、軀様……ッ!!」
不意に横の店から声をかけられ、軀は立ち止まる。
これまた女の声だ。
見ると、縞模様のエプロンをまとった、ケーキ屋の店員の若奥様といった感じの女が、速足で近付いてくる。
手には、店のものであろう、白に金のエンボス加工の箱を下げている。
「おう。この前のあのケーキ、美味かったぜ。帰りにまた買いに来るな」
「あっ、ありがとうございます……!! あのこれ」
ケーキ屋の若奥様は、白い箱を差し出す。
「うちの昨日から出している新作ケーキです。お連れ様といっしょにどうぞ、お得意様へのサービスで」
しどろもどろになりながらも一生懸命に説明する若奥様に、軀はにっこり暖かい笑みを浮かべて応じる。
「マジか? ありがとう。会議の休み時間にでもいただくよ」
「ありがとうございます!!」
にこやかに受け取り、軀は飛影に向かい
「これで退屈な会議も楽しみになるだろ?」
と同意を求める。
ああ、そうだな、とうなずきながら、飛影は内心でこぼす。
この超天然レディキラー女め。
お前の体からは、女に効くフェロモン的なナニカでも発散されているのか?
軀は、やたらめったら、女にモテる。
◇ ◆ ◇
いや、間違いではない。
男にモテない訳でもない。
魔界トーナメントで正体を明かにして以来、「軀」という妖怪を、単純に恐怖するではなく、憧れ、熱狂的ファンというべき存在になる一般妖怪は、決して少なくない。
しかも、男女ともにいる。
飛影には、男の気持ちはわからないでもない。
軀は、その酷い傷跡も含めて、妙に「そそる」女だ。
単純な意味で色気がある……というのとも違う気になる、妙に「気を引かれざるを得ない妙な引力」がある、と思う。
カリスマ性というのか、こういうことをあまり考えたこともない飛影にはピンと来ないのだが、とにかくやけに心かき乱される何かがある。
本人は、特に変わったあれこれをしていなくても、単に歩いているだけの姿でも、だ。
だが、女たちは、何故かそれ以上の支持を軀に捧げているように見える。
そう、例えばこんなこと。
飛影は、軀に連れられて、大統領府の目抜き通りの一本下の道を行く。
この辺は地元民御用達の食料品関係の店が並び、大体甘い匂いや香ばしい匂いが漂う。
頭上でごろごろいう雷も忘れて、飛影は人間界でよく見かけた光景を重ねそうになる。
何故軀自らこんなところに、という疑問は浮かびそうなものだが、答えは単純なものだ。
単に、大統領府の周縁部に停泊した百足から、大統領官邸に向かうのに、目抜き通りよりもこちらの道を通った方が近いのである。
「いい匂いがするよな、この辺」
軀は上機嫌で、隣を歩く飛影にそう話しかける。
今通り過ぎたのは、様々な種類のサンドイッチを売っている専門店だ。
人気があるらしく、内部は昼の時間も過ぎたのに混み合っている。
ふと、内部にいる女性客――この店の客の傾向として、女性が多い――が手にしていたエビとアボガドのホットサンドを放り出して立ち上がり、軀様だーーーーー!!! と叫び出す。
店内にいる客が一斉にウインドウの外を見る。
「軀様だ、本当に軀様だ!!」
「すっごいオーラ!! 素敵!!」
顔中どころか声にまでハートマークが溢れ出している女性客たちに、軀は軽く手を振ってやる。
黄色い声がいっそ悲鳴じみる。
あの件が片付いてから、軀は穏やかになり、こんな「ファンサービス」を行うことも珍しくはなくなった。
ほんの微笑み一つ、かすかな何てことない仕草でも、人間界で言うなら神の奇蹟でも目の当たりにしたような効果を、「ファン」の女性たちにはもたらす。
確かに、躯の笑顔はいい――それは認める、大いに認める、と飛影は思う。
だが、「ファン」が喜ぶのはそういう直接的なことではないのだと最近気付いた飛影である。
言うなれば、彼女らは軀という妖怪が存在していることに対して、世界に感謝を捧げているのである。
それは、あの店以外でも確認できる。
道行く通行人が、軒並み軀に熱い視線を送っているのは、ずっと前から気付いている。
「かっこいい~~~……嗚呼、軀様~~~~……」
「存在感つうかね~~~……格がこう、違うよね……元三竦みの残り二人と比べてもやっぱ違うよねオーラ」
つつきあって囁き合う若い娘に微笑みかけ、黄色い悲鳴を上げさせてから、軀は面白そうに前に進む。
時間はまだあるが、会議のために向かう、大統領官邸への道がやけに遠く感じるというもの。
「あ、あのっ、軀様……ッ!!」
不意に横の店から声をかけられ、軀は立ち止まる。
これまた女の声だ。
見ると、縞模様のエプロンをまとった、ケーキ屋の店員の若奥様といった感じの女が、速足で近付いてくる。
手には、店のものであろう、白に金のエンボス加工の箱を下げている。
「おう。この前のあのケーキ、美味かったぜ。帰りにまた買いに来るな」
「あっ、ありがとうございます……!! あのこれ」
ケーキ屋の若奥様は、白い箱を差し出す。
「うちの昨日から出している新作ケーキです。お連れ様といっしょにどうぞ、お得意様へのサービスで」
しどろもどろになりながらも一生懸命に説明する若奥様に、軀はにっこり暖かい笑みを浮かべて応じる。
「マジか? ありがとう。会議の休み時間にでもいただくよ」
「ありがとうございます!!」
にこやかに受け取り、軀は飛影に向かい
「これで退屈な会議も楽しみになるだろ?」
と同意を求める。
ああ、そうだな、とうなずきながら、飛影は内心でこぼす。
この超天然レディキラー女め。
お前の体からは、女に効くフェロモン的なナニカでも発散されているのか?
1/1ページ