螺旋より外れて
「おおい、こりゃあ、どうなってやがる!?」
真っ先に大聖堂に踏み込んだ雷禅が呟く。
だだっ広い。
「大聖堂」というだけはある……というのとも違うようだ。
かつてそこは、軀によって徹底的に破壊された、邪教の本拠地。
がれきの山になっているはずの場所だ。
こんなに広大な空間を、内部に確保しているはずがない。
「……ここは大聖堂の位置には間違いねえようだが」
軀が、雷禅を内部に押し込み、自分もその後からそこに踏み込む。
「だが、内部の様子は違うな。前と似てるっちゃ似てるが、明らかに別物だ。こういうドーム型の天井じゃなかったな。そもそも、全部壊したんだ、がれきの山になってるはずだ」
ふむ、と鼻を鳴らしながら、黄泉が最後に空間の門から抜け出す。
「空気の匂いが違う。気付かないか、お前たち。ここは魔界じゃないぞ」
黄泉はその鋭敏な鼻で、大気の組成の違いを嗅ぎ付けていたようだ。
妙に淀んだ大気の満ちるそこは、軀の言うように、確かに巨大なドーム型の空間である。
灰色に大小の輪の文様が浮き出た風変わりな石材で作られているように見える。
その文様に沿うように、見たことのない妙な生き物なのか紋様なのか……の彫刻が施されている。
床もドームも同じ素材であるが、床からは、一定間隔を置いて何か妙な光るもやのようなものが噴き上がる噴出口が存在し、大気を照らすと同時に濁らせている。
黄泉でなくとも、注意すれば、大気が魔界のそれではないと気づくかも知れない。
魔界特有の瘴気ではなく――もっと奇態なものが、そこの大気には満ちているのだ。
「魔界じゃないとすると……」
雷禅が言いかけ。
「一つしかねえだろう。おめえがさっきやったのと同じようなもんだ。魔界の一部を、『呼ばれざる者』の領域の一部に繋げたんだ」
軀が何気ないように言葉を放るが、その意味は深刻なものだ。
「……だとすると、これはまずいことになったぞ。『呼ばれざる者』は、信者を介さず、魔界に直接攻め込めるということだ」
黄泉が呻く。
静かに周囲を観察する様子。
「……ここは『呼ばれざる者』の神界。俺たちは、誘い込まれたということか」
「さっきのうねうね野郎に始末できればよし、始末できなかった場合はここで始末ってことだろうな。と、いうことで何かいるぞ」
軀が前へ形の良い顎をしゃくる。
周囲のガスの噴出口からのぼんやりした光に照らされて、奥から何かがやって来るのが見える。
「てめえ……葬破!?」
軀が叫ぶ。
確かに、一番近くの噴出口兼光源の光の環の中に現れた姿には、三竦み全員、殊に軀には見覚えがある。
一見端正な若い魔族、もしくは半妖の若い男性に見える。
薄青い肌。
髪の生え際辺りから生えた反り返った二本の角。
肉体の周囲を警戒するように旋回する、尾を引く炎の塊。
そこにいるのは、確かに魔界トーナメント予選の合間に、何者かによって殺害されていたはずの、あの葬破である。
「お久しぶりです、軀様。またお会いしましたね」
葬破は、流石に驚愕の気配を洩らす軀を面白そうに見やる。
「三竦みの他のお二人、雷禅様も黄泉様も、わざわざ私の国へようこそ。どうです、なかなか面白そうなところでしょう?」
黄泉がふむ、と鼻を鳴らす。
「ここは君の国ではないだろう? 正確には君の国だった場所と強引に繋げた『呼ばれざる者』の領域だ。我らを誘い込むのが君の目的だった訳だな」
葬破はくつくつ笑う。
「まあ、そうですね。三竦みが揃いも揃って、引っ掛かってくれるとは思いませんでしたけど。あなた方の場合は、愚かなのではない。自信があるからですね」
軀がすっと左目を細める。
「案の定、あのトーナメント会場外で殺されていたのは、お前の本体ではないという訳だ。本体、あるいはそれに相当する何かは、別に温存してあったという訳だな。多分ここにいるお前も、本体ではないということだろうな?」
葬破は遂に声を上げて笑い出す。
「本体? 本体って、どの俺のことです?」
黄泉が顎に手を添える。
「先ほどの『呼ばれざる者』の司祭だという人物と、全くではないものの、同じようなことができるということだな。幾人にも分裂できる、そしてそのどれもが本体といえるくらいに完璧なコピーであり、そのうち一体や二体が損壊されても取り立てて問題はないという訳だ」
葬破がより笑みを深くする。
「そんな単純なことだと思います? そもそも、俺って、どういう半妖だと思われてるんですかね? 今のこの姿が、俺の本体の姿だとでも?」
三竦みが、素早く視線を交わす。
と。
「こいつ、“薄い”な」
雷禅が急にそんなことを言い出す。
「軀よお。そもそも、こいつの今のこの姿って、おめえにわかりやすく見せるだめのもので、別に本体の姿って訳でもねえのかも知れねえな。そもそも、おめえが昔やり合ったこいつってのも、それらしい“殻”なだけで、別にこいつの真の姿じゃねえんじゃねえか?」
葬破がまるで念入りに作った引っかけ問題に悪戦苦闘する者を見るように、意地悪い顔の歪め方をする。
「流石大日如来とリンクしておられるだけのことはありますね、雷禅様。じゃあ」
葬破が、一歩二歩、後ろに下がる。
「こいつは何だと思います!?」
その瞬間、葬破だと言われていたものが消え失せる。
同時に、その背後、ドーム中央近くの、ひときわ大きな噴出口から、奇怪な声が響き渡る。
金属を打ち合わせる音と液体が狭い穴から噴出するような音が同時に聞こえるような。
「こいつが葬破であろうと、他の何であろうと。始末しなきゃなんねえな」
軀がめんどくさそうに。
「さて、こいつはどういう……むっ」
黄泉がそれを感知した時、異変を感じたようだ。
「影……そういえば下の倅がドジ踏んだ時によぉ」
「おらよけろ!! そういう場合じゃねえぞ」
雷禅の暢気すぎるセリフを軀が吹っ飛ばす。
それは、奇妙な「影」そのものに見える。
ぐるぐると雲のように渦巻く本体から、妙に人間に似ているが、サイズ的には段違い、かつ、黒とも灰色ともつかない虚空を仰ぎ見るような色彩に塗りつぶされた腕が無数に生えている。
それが伸び上がると、それの影なのか体の一部なのか、判然としないものが、その下部から八方に伸びる。
それが触れた途端、その床材から、何かが伸び上がる。
「影」と同じような生き物だ。
サイズ的に小さいが、「影」と相似形のもう一つの影。
「……こいつは、影に触れると、こいつと同じようなものに変身させられるらしいな」
黄泉は幻で影の行く手を阻む。
そこだけ別空間になったように、影が薄れて消えていく。
「……こいつは面倒だな。多分、『呼ばれざる者』の分身みたいなもんだろうぜ」
雷禅が皮肉に笑う。
「こいつに攻撃するとだな……」
雷禅が光球を作り出し、ぶつける。
と。
「おい!!」
軀が怒鳴るのも道理。
ぶつけられた光の弾がそのまま小さな「影」としてぼろぼろ零れ落ちたのだ。
黄泉に軀に押し寄せてくる。
「へえ」
軀の機械の右足の一部に、そいつらの一匹が触れる。
その機械が影に侵蝕され、軀は一瞬で増幅されたそいつらに呑まれて見えなくなる。
「軀!?」
まさかあの軀がこんなにあっさり。
黄泉は信じられない思いで、その名を呼ぶ。
煌めく空間の帯が影を弾き飛ばす。
右脚のない軀が、その中から立ち現れる。
一瞬で、右脚は機械のまま再生され、空間を破砕する帯が彼女の周りを旋回し、「影」を退けていく。
しかし、その外側ではまるで削りかすのように、「影」もまた再生されていく。
「しかし、まずいな」
黄泉が呻く。
「これでは手の出しようがない。攻撃があいつのコピーを無数に生み出してしまうのでは」
「なに、手はあるぜ」
軀がニンマリと笑う、
「今のでわかった。黄泉、こいつらを幻で覆え」
軀の鋭い一声に、黄泉は咄嗟にそれが正しいと判断、押し寄せる「影」を幻で覆い、幻覚空間に封じ込める。
「雷禅!! 例の大日如来の太陽を呼び出して、幻ごとこいつらを焼け!!」
「おい、それでいいのか!? 俺らも危ないぜ」
雷禅はそれでも軀を信じてそれを呼び出し。
「!!」
軀が時空間を組み替える。
大日如来の太陽光と、幻に封じられた影を残し、軀は二人を連れて大聖堂が繋がれたその空間から脱出する。
一瞬。
「呼ばれざる者の影」は、大日如来の太陽に焼かれて、その空間ごとこの世から消滅したのだ。
◇
◆ ◇
「こうなる訳か、なるほどな」
雷禅が、かつては葬破の国があった巨大なクレーターの縁に立って、半球状にえぐれたその場を見下ろす。
「三人で来て良かったな」
黄泉が今までのことが嘘のようなかすかな風に吹かれて顎を捻る。
「一人でも欠けていたら、最後のアレは難しそうだった」
軀が、天を仰ぐ。
慣れた懐かしい、魔界の稲光の空。
「安心できねえぜ。魔界の一部を強引に『呼ばれざる者』の領域に繋げちまえるっていうことは立証されたんだ。ここでできるなら、他でも同じだろ」
三人は顔を見合わせる。
「……帰ってから会議だな」
「胸糞悪いぜ」
「なんか疲れたって感じるのは何百年ぶりだろうな」
黄泉、軀、雷禅が口々にこぼし、結局、連れだって帰ることになったのだった。
真っ先に大聖堂に踏み込んだ雷禅が呟く。
だだっ広い。
「大聖堂」というだけはある……というのとも違うようだ。
かつてそこは、軀によって徹底的に破壊された、邪教の本拠地。
がれきの山になっているはずの場所だ。
こんなに広大な空間を、内部に確保しているはずがない。
「……ここは大聖堂の位置には間違いねえようだが」
軀が、雷禅を内部に押し込み、自分もその後からそこに踏み込む。
「だが、内部の様子は違うな。前と似てるっちゃ似てるが、明らかに別物だ。こういうドーム型の天井じゃなかったな。そもそも、全部壊したんだ、がれきの山になってるはずだ」
ふむ、と鼻を鳴らしながら、黄泉が最後に空間の門から抜け出す。
「空気の匂いが違う。気付かないか、お前たち。ここは魔界じゃないぞ」
黄泉はその鋭敏な鼻で、大気の組成の違いを嗅ぎ付けていたようだ。
妙に淀んだ大気の満ちるそこは、軀の言うように、確かに巨大なドーム型の空間である。
灰色に大小の輪の文様が浮き出た風変わりな石材で作られているように見える。
その文様に沿うように、見たことのない妙な生き物なのか紋様なのか……の彫刻が施されている。
床もドームも同じ素材であるが、床からは、一定間隔を置いて何か妙な光るもやのようなものが噴き上がる噴出口が存在し、大気を照らすと同時に濁らせている。
黄泉でなくとも、注意すれば、大気が魔界のそれではないと気づくかも知れない。
魔界特有の瘴気ではなく――もっと奇態なものが、そこの大気には満ちているのだ。
「魔界じゃないとすると……」
雷禅が言いかけ。
「一つしかねえだろう。おめえがさっきやったのと同じようなもんだ。魔界の一部を、『呼ばれざる者』の領域の一部に繋げたんだ」
軀が何気ないように言葉を放るが、その意味は深刻なものだ。
「……だとすると、これはまずいことになったぞ。『呼ばれざる者』は、信者を介さず、魔界に直接攻め込めるということだ」
黄泉が呻く。
静かに周囲を観察する様子。
「……ここは『呼ばれざる者』の神界。俺たちは、誘い込まれたということか」
「さっきのうねうね野郎に始末できればよし、始末できなかった場合はここで始末ってことだろうな。と、いうことで何かいるぞ」
軀が前へ形の良い顎をしゃくる。
周囲のガスの噴出口からのぼんやりした光に照らされて、奥から何かがやって来るのが見える。
「てめえ……葬破!?」
軀が叫ぶ。
確かに、一番近くの噴出口兼光源の光の環の中に現れた姿には、三竦み全員、殊に軀には見覚えがある。
一見端正な若い魔族、もしくは半妖の若い男性に見える。
薄青い肌。
髪の生え際辺りから生えた反り返った二本の角。
肉体の周囲を警戒するように旋回する、尾を引く炎の塊。
そこにいるのは、確かに魔界トーナメント予選の合間に、何者かによって殺害されていたはずの、あの葬破である。
「お久しぶりです、軀様。またお会いしましたね」
葬破は、流石に驚愕の気配を洩らす軀を面白そうに見やる。
「三竦みの他のお二人、雷禅様も黄泉様も、わざわざ私の国へようこそ。どうです、なかなか面白そうなところでしょう?」
黄泉がふむ、と鼻を鳴らす。
「ここは君の国ではないだろう? 正確には君の国だった場所と強引に繋げた『呼ばれざる者』の領域だ。我らを誘い込むのが君の目的だった訳だな」
葬破はくつくつ笑う。
「まあ、そうですね。三竦みが揃いも揃って、引っ掛かってくれるとは思いませんでしたけど。あなた方の場合は、愚かなのではない。自信があるからですね」
軀がすっと左目を細める。
「案の定、あのトーナメント会場外で殺されていたのは、お前の本体ではないという訳だ。本体、あるいはそれに相当する何かは、別に温存してあったという訳だな。多分ここにいるお前も、本体ではないということだろうな?」
葬破は遂に声を上げて笑い出す。
「本体? 本体って、どの俺のことです?」
黄泉が顎に手を添える。
「先ほどの『呼ばれざる者』の司祭だという人物と、全くではないものの、同じようなことができるということだな。幾人にも分裂できる、そしてそのどれもが本体といえるくらいに完璧なコピーであり、そのうち一体や二体が損壊されても取り立てて問題はないという訳だ」
葬破がより笑みを深くする。
「そんな単純なことだと思います? そもそも、俺って、どういう半妖だと思われてるんですかね? 今のこの姿が、俺の本体の姿だとでも?」
三竦みが、素早く視線を交わす。
と。
「こいつ、“薄い”な」
雷禅が急にそんなことを言い出す。
「軀よお。そもそも、こいつの今のこの姿って、おめえにわかりやすく見せるだめのもので、別に本体の姿って訳でもねえのかも知れねえな。そもそも、おめえが昔やり合ったこいつってのも、それらしい“殻”なだけで、別にこいつの真の姿じゃねえんじゃねえか?」
葬破がまるで念入りに作った引っかけ問題に悪戦苦闘する者を見るように、意地悪い顔の歪め方をする。
「流石大日如来とリンクしておられるだけのことはありますね、雷禅様。じゃあ」
葬破が、一歩二歩、後ろに下がる。
「こいつは何だと思います!?」
その瞬間、葬破だと言われていたものが消え失せる。
同時に、その背後、ドーム中央近くの、ひときわ大きな噴出口から、奇怪な声が響き渡る。
金属を打ち合わせる音と液体が狭い穴から噴出するような音が同時に聞こえるような。
「こいつが葬破であろうと、他の何であろうと。始末しなきゃなんねえな」
軀がめんどくさそうに。
「さて、こいつはどういう……むっ」
黄泉がそれを感知した時、異変を感じたようだ。
「影……そういえば下の倅がドジ踏んだ時によぉ」
「おらよけろ!! そういう場合じゃねえぞ」
雷禅の暢気すぎるセリフを軀が吹っ飛ばす。
それは、奇妙な「影」そのものに見える。
ぐるぐると雲のように渦巻く本体から、妙に人間に似ているが、サイズ的には段違い、かつ、黒とも灰色ともつかない虚空を仰ぎ見るような色彩に塗りつぶされた腕が無数に生えている。
それが伸び上がると、それの影なのか体の一部なのか、判然としないものが、その下部から八方に伸びる。
それが触れた途端、その床材から、何かが伸び上がる。
「影」と同じような生き物だ。
サイズ的に小さいが、「影」と相似形のもう一つの影。
「……こいつは、影に触れると、こいつと同じようなものに変身させられるらしいな」
黄泉は幻で影の行く手を阻む。
そこだけ別空間になったように、影が薄れて消えていく。
「……こいつは面倒だな。多分、『呼ばれざる者』の分身みたいなもんだろうぜ」
雷禅が皮肉に笑う。
「こいつに攻撃するとだな……」
雷禅が光球を作り出し、ぶつける。
と。
「おい!!」
軀が怒鳴るのも道理。
ぶつけられた光の弾がそのまま小さな「影」としてぼろぼろ零れ落ちたのだ。
黄泉に軀に押し寄せてくる。
「へえ」
軀の機械の右足の一部に、そいつらの一匹が触れる。
その機械が影に侵蝕され、軀は一瞬で増幅されたそいつらに呑まれて見えなくなる。
「軀!?」
まさかあの軀がこんなにあっさり。
黄泉は信じられない思いで、その名を呼ぶ。
煌めく空間の帯が影を弾き飛ばす。
右脚のない軀が、その中から立ち現れる。
一瞬で、右脚は機械のまま再生され、空間を破砕する帯が彼女の周りを旋回し、「影」を退けていく。
しかし、その外側ではまるで削りかすのように、「影」もまた再生されていく。
「しかし、まずいな」
黄泉が呻く。
「これでは手の出しようがない。攻撃があいつのコピーを無数に生み出してしまうのでは」
「なに、手はあるぜ」
軀がニンマリと笑う、
「今のでわかった。黄泉、こいつらを幻で覆え」
軀の鋭い一声に、黄泉は咄嗟にそれが正しいと判断、押し寄せる「影」を幻で覆い、幻覚空間に封じ込める。
「雷禅!! 例の大日如来の太陽を呼び出して、幻ごとこいつらを焼け!!」
「おい、それでいいのか!? 俺らも危ないぜ」
雷禅はそれでも軀を信じてそれを呼び出し。
「!!」
軀が時空間を組み替える。
大日如来の太陽光と、幻に封じられた影を残し、軀は二人を連れて大聖堂が繋がれたその空間から脱出する。
一瞬。
「呼ばれざる者の影」は、大日如来の太陽に焼かれて、その空間ごとこの世から消滅したのだ。
◇
◆ ◇
「こうなる訳か、なるほどな」
雷禅が、かつては葬破の国があった巨大なクレーターの縁に立って、半球状にえぐれたその場を見下ろす。
「三人で来て良かったな」
黄泉が今までのことが嘘のようなかすかな風に吹かれて顎を捻る。
「一人でも欠けていたら、最後のアレは難しそうだった」
軀が、天を仰ぐ。
慣れた懐かしい、魔界の稲光の空。
「安心できねえぜ。魔界の一部を強引に『呼ばれざる者』の領域に繋げちまえるっていうことは立証されたんだ。ここでできるなら、他でも同じだろ」
三人は顔を見合わせる。
「……帰ってから会議だな」
「胸糞悪いぜ」
「なんか疲れたって感じるのは何百年ぶりだろうな」
黄泉、軀、雷禅が口々にこぼし、結局、連れだって帰ることになったのだった。