螺旋より外れて
『えー、魔界トーナメント開催委員会より、選手並びに会場で観戦されている観客の皆様、及び中継でご視聴の皆様に、通達時効があります!!』
小兎が、実況席で、手元の端末を操り、魔界トーナメント主催からの決定事項を伝える。
本戦抽選に合わせて集まっていた選手たち、並びに観客たちがざわざわし始める。
「おー、ようやく伝達かあ。しゃーねーな」
昼食を摂って戻って来ていた幽助が、実況席を振り仰ぐ。
「ん? 幽助、何の話なんだべか?」
昼食を一緒に摂っていた陣が幽助の顔を覗き込む。
周囲にいた六人衆も同じようなものだが、蔵馬は既に知っているような表情。
『この後、本戦に向けての抽選会を行い、明日に本戦開始の予定でしたが、変更になります。本戦抽選会は六日後、本戦開始は一週間後になります!! 急なことで大変申し訳ございませんが、相次ぐ「呼ばれざる者」関係者によるテロへの対抗措置を講じる必要性によって……』
小兎が滑らかに告げる言葉に、会場のざわめきは大きくなる。
六人衆も、思わずはっとした表情だ。
「ん~? すると、本戦まで五日間の猶予が!?」
と鈴駒。
「五日!! 五日ありゃあ十分だなオイ!!」
酎が血走った目できょろきょろしだす。
「……永夜さんは?」
凍矢がその人物の名前を口にする。
「あ!! いた!! 永夜あんちゃんだべ!!」
陣が目ざとくその直垂姿を見つける。
「いいか!! 皆、逃がすなよ!!」
今にも斬り倒しそうに、死々若丸は腰の刀に手を掛ける。
やり過ぎである。
「なーがーやー、さーーーん!! お話が、あるのだがーーー!!」
叫びつつ突進する鈴木。
控室の方から歩いて来た永夜が、押し寄せる六人衆に目を向けた時。
ふわりと、その前に黒い影が舞い降りる。
「えっ!? か、鴉ゥ!?」
「武威もいる!?」
鈴駒と凍矢が相次いで息を呑み、他の四人も降り立った二人をまじまじと見つめる。
本当に黒い鳥のように降り立った鴉。
そして、その後に続いて、永夜の後ろに素早く回った武威である。
「永夜。今すぐ、俺たちを天界へ連れていけ。嫌とは言わさん」
鴉は手の中に爆弾を作り出す。
「断ろうものなら……」
「すまんな、永夜。乱暴はしたくないんだが、俺たちも切実なんだ」
武威が、永夜の細身ながらびしりと張った肩に、大きな手を置いてぐいと握る。
「おい!! お前ら、割り込むんじゃなーーーい!! 天界には、私たちも行きたいのだ!!」
鈴木が警告の叫びを上げる。
鴉と武威はじろりと一瞥しただけだ。
永夜は、胸倉を捕まえられているにも関わらず、にこやかに何か言いかけ。
「お前ら。乱暴するんじゃないよ。人にものを頼む時には、それなりの態度ってモンがあるんじゃないかねェ」
気配を察して近づいて来ていた戸愚呂弟が、穏やかに警告する。
肩には相変わらず戸愚呂兄を乗せているが。
「けけけ、知らねえぞ? 永夜って、密教の高僧だから、呪いもかけられるらしいぜ?」
戸愚呂兄がからかう。
鴉はひるむこともなく、ますます永夜の胸倉を強く締め上げる。
「私は遠慮している暇などないのだ、私は……」
「おうい、永夜」
と、いきなり雷禅が、雷禅国四天王と旧友たちを引き連れて近づいてくる。
「何遊んでんだオメー? こいつら天界に連れていく件がよぉ……」
鴉と武威、六人衆も、思わず彼らを見やる。
「あ、大丈夫ですよ、母上様に話を通してあります」
永夜は何事もないように父親に答える。
元戸愚呂チーム及び六人衆は怪訝な顔だ。
「皆さん。急なお話になりますが、時間があまりありません。魔都ホテルに泊まっておられますよね? あのホテルの前庭の、噴水の脇に、一時間後に集合してください。私と母とで手分けして、皆さんを天界へとお連れします」
永夜に詰め寄っていた者たちも雷禅に連れられていた者たちも、盛大に歓声を上げる。
「うっひゃあー!! 荷物取って来るだよー!!」
「一時間!! 意外と短いぜ、急ぐぞオラァ!!」
陣と酎、それに他の四人も何事か叫びながら、会場の出口に向かう。
鴉は永夜を放り出し、武威は「ありがとな」と軽く伝えて、こちらも素早く会場外へと戻っていく。
「よし、おめえらも支度して来い!! 一時間後だぞ!!」
雷禅に言われるまでもなく、四天王に旧友たちは、会場の外へと走り出て行く。
「あー、みんな張り切ってんなあ。まー、バトル野郎どもが、あんなの見せられたらなー」
幽助がけろけろ笑う。
「鴉に胸倉掴みあげられている法師様を見た時は流石に同情したけど、まあ、奴が『呼ばれざる者』の陣営に堕ちる可能性がなくなっただけでも、収穫というべきだな」
蔵馬はどことなくげっそりしていそうだ。
「……話は進んだみたいだな? なら、こっちは俺たちに任せてもらおうか。奴らも何か考えてるぞ」
不意に、飛影と共に軀が近づいて来る。
彼女は、会場外にあごをしゃくる。
「何せ、五日間の猶予というのは、『呼ばれざる者』信徒にとっても同じだ。何か仕掛けてくるはずだ。雷禅一家が魔界を空ける間、俺たちと、少し気が進まねえが、黄泉と組んで奴らに対抗してやる」
飛影がふん、と鼻を鳴らす。
「状況的にはこちらが不利ではあるな。何せ、あいつらの方が人数的には多いはずだ。それに、必ずしもトーナメント自体に出場しなくても、会場に入るか近辺に潜伏していればテロはできる」
「それでも、やらないといけないさ」
黄泉が、修羅を連れてゆったりした足取りで近づいて来る。
「今、連絡が入った。軀がその昔滅ぼした、葬破の国の跡地で、何か動きがあったようだ。さて……」
緊張が、全員の間に走り抜けた。
小兎が、実況席で、手元の端末を操り、魔界トーナメント主催からの決定事項を伝える。
本戦抽選に合わせて集まっていた選手たち、並びに観客たちがざわざわし始める。
「おー、ようやく伝達かあ。しゃーねーな」
昼食を摂って戻って来ていた幽助が、実況席を振り仰ぐ。
「ん? 幽助、何の話なんだべか?」
昼食を一緒に摂っていた陣が幽助の顔を覗き込む。
周囲にいた六人衆も同じようなものだが、蔵馬は既に知っているような表情。
『この後、本戦に向けての抽選会を行い、明日に本戦開始の予定でしたが、変更になります。本戦抽選会は六日後、本戦開始は一週間後になります!! 急なことで大変申し訳ございませんが、相次ぐ「呼ばれざる者」関係者によるテロへの対抗措置を講じる必要性によって……』
小兎が滑らかに告げる言葉に、会場のざわめきは大きくなる。
六人衆も、思わずはっとした表情だ。
「ん~? すると、本戦まで五日間の猶予が!?」
と鈴駒。
「五日!! 五日ありゃあ十分だなオイ!!」
酎が血走った目できょろきょろしだす。
「……永夜さんは?」
凍矢がその人物の名前を口にする。
「あ!! いた!! 永夜あんちゃんだべ!!」
陣が目ざとくその直垂姿を見つける。
「いいか!! 皆、逃がすなよ!!」
今にも斬り倒しそうに、死々若丸は腰の刀に手を掛ける。
やり過ぎである。
「なーがーやー、さーーーん!! お話が、あるのだがーーー!!」
叫びつつ突進する鈴木。
控室の方から歩いて来た永夜が、押し寄せる六人衆に目を向けた時。
ふわりと、その前に黒い影が舞い降りる。
「えっ!? か、鴉ゥ!?」
「武威もいる!?」
鈴駒と凍矢が相次いで息を呑み、他の四人も降り立った二人をまじまじと見つめる。
本当に黒い鳥のように降り立った鴉。
そして、その後に続いて、永夜の後ろに素早く回った武威である。
「永夜。今すぐ、俺たちを天界へ連れていけ。嫌とは言わさん」
鴉は手の中に爆弾を作り出す。
「断ろうものなら……」
「すまんな、永夜。乱暴はしたくないんだが、俺たちも切実なんだ」
武威が、永夜の細身ながらびしりと張った肩に、大きな手を置いてぐいと握る。
「おい!! お前ら、割り込むんじゃなーーーい!! 天界には、私たちも行きたいのだ!!」
鈴木が警告の叫びを上げる。
鴉と武威はじろりと一瞥しただけだ。
永夜は、胸倉を捕まえられているにも関わらず、にこやかに何か言いかけ。
「お前ら。乱暴するんじゃないよ。人にものを頼む時には、それなりの態度ってモンがあるんじゃないかねェ」
気配を察して近づいて来ていた戸愚呂弟が、穏やかに警告する。
肩には相変わらず戸愚呂兄を乗せているが。
「けけけ、知らねえぞ? 永夜って、密教の高僧だから、呪いもかけられるらしいぜ?」
戸愚呂兄がからかう。
鴉はひるむこともなく、ますます永夜の胸倉を強く締め上げる。
「私は遠慮している暇などないのだ、私は……」
「おうい、永夜」
と、いきなり雷禅が、雷禅国四天王と旧友たちを引き連れて近づいてくる。
「何遊んでんだオメー? こいつら天界に連れていく件がよぉ……」
鴉と武威、六人衆も、思わず彼らを見やる。
「あ、大丈夫ですよ、母上様に話を通してあります」
永夜は何事もないように父親に答える。
元戸愚呂チーム及び六人衆は怪訝な顔だ。
「皆さん。急なお話になりますが、時間があまりありません。魔都ホテルに泊まっておられますよね? あのホテルの前庭の、噴水の脇に、一時間後に集合してください。私と母とで手分けして、皆さんを天界へとお連れします」
永夜に詰め寄っていた者たちも雷禅に連れられていた者たちも、盛大に歓声を上げる。
「うっひゃあー!! 荷物取って来るだよー!!」
「一時間!! 意外と短いぜ、急ぐぞオラァ!!」
陣と酎、それに他の四人も何事か叫びながら、会場の出口に向かう。
鴉は永夜を放り出し、武威は「ありがとな」と軽く伝えて、こちらも素早く会場外へと戻っていく。
「よし、おめえらも支度して来い!! 一時間後だぞ!!」
雷禅に言われるまでもなく、四天王に旧友たちは、会場の外へと走り出て行く。
「あー、みんな張り切ってんなあ。まー、バトル野郎どもが、あんなの見せられたらなー」
幽助がけろけろ笑う。
「鴉に胸倉掴みあげられている法師様を見た時は流石に同情したけど、まあ、奴が『呼ばれざる者』の陣営に堕ちる可能性がなくなっただけでも、収穫というべきだな」
蔵馬はどことなくげっそりしていそうだ。
「……話は進んだみたいだな? なら、こっちは俺たちに任せてもらおうか。奴らも何か考えてるぞ」
不意に、飛影と共に軀が近づいて来る。
彼女は、会場外にあごをしゃくる。
「何せ、五日間の猶予というのは、『呼ばれざる者』信徒にとっても同じだ。何か仕掛けてくるはずだ。雷禅一家が魔界を空ける間、俺たちと、少し気が進まねえが、黄泉と組んで奴らに対抗してやる」
飛影がふん、と鼻を鳴らす。
「状況的にはこちらが不利ではあるな。何せ、あいつらの方が人数的には多いはずだ。それに、必ずしもトーナメント自体に出場しなくても、会場に入るか近辺に潜伏していればテロはできる」
「それでも、やらないといけないさ」
黄泉が、修羅を連れてゆったりした足取りで近づいて来る。
「今、連絡が入った。軀がその昔滅ぼした、葬破の国の跡地で、何か動きがあったようだ。さて……」
緊張が、全員の間に走り抜けた。