螺旋より外れて
「ふぅ……どうしたもんかなあ……あれ?」
桑原が選手控室に戻ると、そこにはもはや見慣れたと言える小柄な人影。
「あれ……軀、さん? 早いッスね」
だだっ広い控室にぽつんといる軀のそばに、何気なく桑原は近づく。
「ああ。桑原だったな。なに、オレと当たった奴らは、根性なしばかりだったということだ」
軀はくつくつ笑う。
「え?」
「えー、なお」
会場に、小兎の実況が響く。
「33ブロックですが、軀選手以外の全選手が棄権したため、軀選手が不戦勝、自動的に本戦出場となりまーす!!」
桑原は思わず嘆息する。
「なっ……なるほど、そりゃそうか……」
この軀って人は、魔界でどんなことしてたんだろう?
どれだけ恐れられているのか?
桑原は思わず内心でひとりごちるが。
「桑原、お前、今、この軀とかいうやつ、どれだけヤバイのかって思っただろう?」
軀が忌呪帯の下で笑いながら、そんな風に投げかける。
「あっ、いえ、そんな……!!」
桑原は咄嗟に否定するも、顔色が一気に青ざめたのは隠せない。
軀は更に笑う。
「隠さなくてもいいぜ。棄権した奴らだってそんな感じだろうよ。ついでにお人間たるお前さんは、もしオレが優勝したら、人間界がどうなるかって思っているかも知れないが、俺は別に人間界で人間を狩り尽くそうとか思ってねえぜ?」
こないだ、聖果に治療を受けて、普通にメシ食えるようにしたんだ。
大会前は腹いっぱい食いたかったしな。
永夜のメシ美味かった。
そんな風に付け加えられ、桑原は一気にほっとする。
人間界という大皿を前にしたヤマネコではないようだ。
「まあ……永夜は赤ん坊の頃から知っている。あいつを寺に預けたのはこのオレだ。それに、死ぬ間際の聖果もな。今も忘れられねえよ。自分が死にそうなのに、オレの怪我を治そうとしたあの姿はな……」
軀の告白を前に、桑原は目を見開く。
そんなことが。
「人間界にはなるべく触らねえようにしておくつもりだったが、最近は『呼ばれざる者』の暗躍もあって、そうも言ってられなくなったしな。奴らは魔界ばかりではなく、人間界にも霊界にも移動しつつ活動してやがる。魔界だけは別、とはならねえ訳だ」
あれ……聞いていた「軀」とは違う?
桑原は軀の言葉を聞き、そんな感慨を抱く。
やはり今までの魔界のままではいられない状況ということを、軀は認識して方針を変えてきているようだ。
蔵馬が言っていた、「軀は極めて優秀な政治家だ。今のこの事態にも柔軟に対処するはず」という言葉が実感できる。
「あの、軀さんは」
桑原は思い切って口を開く。
「もし、優勝されたらまずどうするとか、もう決めておられるんですよね?」
「ああ」
軀はうなずく。
「まずは、永夜を直属の臣下として、政府組織に組み込む。あいつを通じて、人間界の宗教界に働きかけるためだ。なるべく優秀な人間の術師を見繕い、制度の一環として妖怪のなかで相性がいい者と組ませ、『呼ばれざる者』との戦いに当たらせる。お前さんも手伝ってもらうぞ、桑原」
いきなり言われて、桑原は目を白黒させるしかない。
その時。
「おーーーーっと、浦飯選手、一撃――――!!!!!!」
小兎の実況が響き渡る。
顔を上げて巨大モニターに目を向けた桑原と軀の前で、何か光の塊に弾き飛ばされたと思しき魔族たちが、はるかかなたに飛んでいくのが見える。
「あれは……ショットガン!? 浦飯の野郎、またパワーアップしやがった!?」
桑原が言う先から、モニターがスローモーション再生となる。
幽助の前側だけでなく、後ろ側にも拳の衝撃が広がり、同心円状に、周囲の対戦相手が弾き飛ばされたのが確認できる。
『どうだ、霊光弾バージョン2だぜ!!』
幽助が高らかに宣言するや、審判が幽助が19ブロックからの本戦出場選手だと告げる。
会場は大盛り上がりだ。
「ああ、飛影も上手くやったみたいだな。便利だなあいつら」
軀が、直後にモニターが切り替わった先に注意を向ける。
そこは飛影の55ブロックであるが、飛影は何もしていない。
いつもの様子でつくねんと立っているだけである。
実際に戦っているのは。
『いえーーーい、一撃ィ!!』
巨大な蝶の群れから、一瞬で人間形態に戻った炎也が空中で踊っている。
彼の眼下には、彼の炎に巻かれてぐったりしている飛影と同ブロックの者が転がっているのが見える。
ところどころ黒焦げな死体が混じっているのは、恐らく「呼ばれざる者」の手の者だと、桑原は推測する。
「おや、これは!? すでに勝負はついたようです、94ブロック、立っているのは蔵馬選手だけです!!」
蔵馬を中心に、やけに幻惑的で美しい花が咲き乱れる樹木が林立しているのが、モニターに大映しになる。
妙に幹が膨れて優雅な器みたいに見えるその樹木に、桑原は怪訝な思いを抱き。
そして、次の瞬間理解する。
あのねじくれた優雅な幹の中に封じ込められているのは、対戦相手たちだ。
あの林は全部……。
『審判、この青紫の花が咲いているのは、「呼ばれざる者」の手の者を封じた樹木。根っこごと掘り返して、警察署内にでも保管してください。俺が命じない限り、この樹木は壊れないので安全です』
蔵馬が言うなり、優雅な足取りで引き返していくのが見える。
審判はすぐさま、94ブロックの代表は蔵馬だと告げる。
「おっと、これは!? 128ブロック、影沖永夜選手以外の全選手が!?」
巨大な暗黒が、そこには渦を巻いている。
いくつものブラックホールが固まってでもいるように、永夜を中心に暗黒の花が咲く。
暗黒の花の数は、永夜以外の選手の数と同じ。
『審判さん。他の方々は、わたくしが解除するまで、暗黒空間に封じられます。勝利宣言をいただきたいのですが、そうしたら、『呼ばれざる者』の手先以外は暗黒を解除します』
永夜は上空の審判に向けてそう呼びかける。
「えー、これは……影沖選手以外は戦闘不能とみなし、影沖選手の勝利です!!」
あっさり審判が永夜の勝利を告げると、即座に暗黒の空間は、他の選手を吐き出す。
花に潜り込んだミツバチが這い出て来たかのような。
「あっちも凄いな」
軀が興味深そうに拡大したワイプを見やる。
桑原にとってはよく見知った顔だ。
戸愚呂兄。
片腕だけ、黒い鎌に変えている。
彼は……何もしていない。
本当に何もせず、鎌を地面に突き立ててたたずんでいるだけ。
しかし、その周りには、石像のように固まった21ブロックの選手たち。
「時を止めた。俺が術を解除するまで、こいつらは動けねえぜ?」
戸愚呂兄があごをしゃくると、審判はすかさず、彼の勝利を宣言する。
「さあ、続いては戸愚呂弟選手の方ですが……わっ!!」
衝撃。
土煙の中から現れたのは、戸愚呂弟、恐らく45%程度に筋肉操作しているか。
ゆらめく鬼火のようなものがまといつく拳で、砕かれた相手が、今粒子に還元されて消えていくところ。
『今砕いた奴は、「呼ばれざる者」の手の者だ。こちら以外に恨みはないから、それ以外の方々には棄権してもらえるとありがたいねェ』
穏やかな口調であるが、棄権しなければ殺害するとの暗黙の脅し。
一人、また一人と棄権を審判に宣言する。
二分としないうちに、戸愚呂弟の本戦出場が確定。
「おおっと!?」
小兎が怪訝な声を上げる。
「127ブロックですが……黄泉選手以外の選手がいつの間にか倒れております!? これは!?」
『俺の新しい術だ。対戦相手の方々には眠ってもらった。単純だが効率性を取った』
黄泉があっさり宣言すると、審判が降下して来て眼下の様子を確認する。
「えー、黄泉選手以外の全選手が昏睡状態ですので、127ブロックからの本戦出場は黄泉選手に決定です!!」
と。
短い気合の声が聞こえたような気がする。
「あっと、こちらは77ブロック!?」
小兎が息を呑む。
彼女の目の前で、花火のように霊気が散開する。
滝のように、霊光が降り注ぎ。
その下で、全員が打ち倒される。
立っているのは。
「ああっと、幻海選手です!! 幻海選手以外の全選手が、霊丸に似た広範囲に広がる技で倒れました!! これは!?」
『ええと、はい、幻海選手以外は戦闘不能!! よって、77ブロックからの本戦出場選手は、幻海選手です!!』
穏やかに可憐な姿は、まるで何もなかったようにたたずみ。
そして、何か聞き耳を立てるように遠くを見たのだ。
天空に巨大な光の柱がそそり立つ。
核爆発のように。
魔界特有の分厚い雷雲に、大きな穴が開く。
魔界にもあるとは思えぬような青空が覗く。
「こ、これは!? 101ブロックで大爆発が!?」
小兎が叫ぶ。
光の奔流が収まった後には、長髪をなびかせた大柄な影。
『ん、まあ、こんなモンだな』
雷禅は光で拡張されたかのような「右手」を大きく握ったり開いたり。
暴れ龍のように今荒れ狂っていた彼の右腕は、凶悪な幻のように禍々しく輝いている。
「こ、これは雷禅選手の右手彼以外の全選手を薙ぎ払い、最後の一人を爆発で吹っ飛ばしました!! なんという強さでしょうか、かなり手加減しているのが伺えますが……!!」
「雷禅選手以外戦闘不能!! 101ブロック、雷禅選手が本戦出場です!!」
ごうごうと会場が歓声で揺れる。
そんな時。
「さて、黄泉選手の息子、最年少の修羅選手の参加する87ブロックですが……こ、これはーーー!!」
モニターを見つめる小兎、そして87ブロックの審判の前で、「そいつ」は巨大な体躯をますます震えさせたのだった。
桑原が選手控室に戻ると、そこにはもはや見慣れたと言える小柄な人影。
「あれ……軀、さん? 早いッスね」
だだっ広い控室にぽつんといる軀のそばに、何気なく桑原は近づく。
「ああ。桑原だったな。なに、オレと当たった奴らは、根性なしばかりだったということだ」
軀はくつくつ笑う。
「え?」
「えー、なお」
会場に、小兎の実況が響く。
「33ブロックですが、軀選手以外の全選手が棄権したため、軀選手が不戦勝、自動的に本戦出場となりまーす!!」
桑原は思わず嘆息する。
「なっ……なるほど、そりゃそうか……」
この軀って人は、魔界でどんなことしてたんだろう?
どれだけ恐れられているのか?
桑原は思わず内心でひとりごちるが。
「桑原、お前、今、この軀とかいうやつ、どれだけヤバイのかって思っただろう?」
軀が忌呪帯の下で笑いながら、そんな風に投げかける。
「あっ、いえ、そんな……!!」
桑原は咄嗟に否定するも、顔色が一気に青ざめたのは隠せない。
軀は更に笑う。
「隠さなくてもいいぜ。棄権した奴らだってそんな感じだろうよ。ついでにお人間たるお前さんは、もしオレが優勝したら、人間界がどうなるかって思っているかも知れないが、俺は別に人間界で人間を狩り尽くそうとか思ってねえぜ?」
こないだ、聖果に治療を受けて、普通にメシ食えるようにしたんだ。
大会前は腹いっぱい食いたかったしな。
永夜のメシ美味かった。
そんな風に付け加えられ、桑原は一気にほっとする。
人間界という大皿を前にしたヤマネコではないようだ。
「まあ……永夜は赤ん坊の頃から知っている。あいつを寺に預けたのはこのオレだ。それに、死ぬ間際の聖果もな。今も忘れられねえよ。自分が死にそうなのに、オレの怪我を治そうとしたあの姿はな……」
軀の告白を前に、桑原は目を見開く。
そんなことが。
「人間界にはなるべく触らねえようにしておくつもりだったが、最近は『呼ばれざる者』の暗躍もあって、そうも言ってられなくなったしな。奴らは魔界ばかりではなく、人間界にも霊界にも移動しつつ活動してやがる。魔界だけは別、とはならねえ訳だ」
あれ……聞いていた「軀」とは違う?
桑原は軀の言葉を聞き、そんな感慨を抱く。
やはり今までの魔界のままではいられない状況ということを、軀は認識して方針を変えてきているようだ。
蔵馬が言っていた、「軀は極めて優秀な政治家だ。今のこの事態にも柔軟に対処するはず」という言葉が実感できる。
「あの、軀さんは」
桑原は思い切って口を開く。
「もし、優勝されたらまずどうするとか、もう決めておられるんですよね?」
「ああ」
軀はうなずく。
「まずは、永夜を直属の臣下として、政府組織に組み込む。あいつを通じて、人間界の宗教界に働きかけるためだ。なるべく優秀な人間の術師を見繕い、制度の一環として妖怪のなかで相性がいい者と組ませ、『呼ばれざる者』との戦いに当たらせる。お前さんも手伝ってもらうぞ、桑原」
いきなり言われて、桑原は目を白黒させるしかない。
その時。
「おーーーーっと、浦飯選手、一撃――――!!!!!!」
小兎の実況が響き渡る。
顔を上げて巨大モニターに目を向けた桑原と軀の前で、何か光の塊に弾き飛ばされたと思しき魔族たちが、はるかかなたに飛んでいくのが見える。
「あれは……ショットガン!? 浦飯の野郎、またパワーアップしやがった!?」
桑原が言う先から、モニターがスローモーション再生となる。
幽助の前側だけでなく、後ろ側にも拳の衝撃が広がり、同心円状に、周囲の対戦相手が弾き飛ばされたのが確認できる。
『どうだ、霊光弾バージョン2だぜ!!』
幽助が高らかに宣言するや、審判が幽助が19ブロックからの本戦出場選手だと告げる。
会場は大盛り上がりだ。
「ああ、飛影も上手くやったみたいだな。便利だなあいつら」
軀が、直後にモニターが切り替わった先に注意を向ける。
そこは飛影の55ブロックであるが、飛影は何もしていない。
いつもの様子でつくねんと立っているだけである。
実際に戦っているのは。
『いえーーーい、一撃ィ!!』
巨大な蝶の群れから、一瞬で人間形態に戻った炎也が空中で踊っている。
彼の眼下には、彼の炎に巻かれてぐったりしている飛影と同ブロックの者が転がっているのが見える。
ところどころ黒焦げな死体が混じっているのは、恐らく「呼ばれざる者」の手の者だと、桑原は推測する。
「おや、これは!? すでに勝負はついたようです、94ブロック、立っているのは蔵馬選手だけです!!」
蔵馬を中心に、やけに幻惑的で美しい花が咲き乱れる樹木が林立しているのが、モニターに大映しになる。
妙に幹が膨れて優雅な器みたいに見えるその樹木に、桑原は怪訝な思いを抱き。
そして、次の瞬間理解する。
あのねじくれた優雅な幹の中に封じ込められているのは、対戦相手たちだ。
あの林は全部……。
『審判、この青紫の花が咲いているのは、「呼ばれざる者」の手の者を封じた樹木。根っこごと掘り返して、警察署内にでも保管してください。俺が命じない限り、この樹木は壊れないので安全です』
蔵馬が言うなり、優雅な足取りで引き返していくのが見える。
審判はすぐさま、94ブロックの代表は蔵馬だと告げる。
「おっと、これは!? 128ブロック、影沖永夜選手以外の全選手が!?」
巨大な暗黒が、そこには渦を巻いている。
いくつものブラックホールが固まってでもいるように、永夜を中心に暗黒の花が咲く。
暗黒の花の数は、永夜以外の選手の数と同じ。
『審判さん。他の方々は、わたくしが解除するまで、暗黒空間に封じられます。勝利宣言をいただきたいのですが、そうしたら、『呼ばれざる者』の手先以外は暗黒を解除します』
永夜は上空の審判に向けてそう呼びかける。
「えー、これは……影沖選手以外は戦闘不能とみなし、影沖選手の勝利です!!」
あっさり審判が永夜の勝利を告げると、即座に暗黒の空間は、他の選手を吐き出す。
花に潜り込んだミツバチが這い出て来たかのような。
「あっちも凄いな」
軀が興味深そうに拡大したワイプを見やる。
桑原にとってはよく見知った顔だ。
戸愚呂兄。
片腕だけ、黒い鎌に変えている。
彼は……何もしていない。
本当に何もせず、鎌を地面に突き立ててたたずんでいるだけ。
しかし、その周りには、石像のように固まった21ブロックの選手たち。
「時を止めた。俺が術を解除するまで、こいつらは動けねえぜ?」
戸愚呂兄があごをしゃくると、審判はすかさず、彼の勝利を宣言する。
「さあ、続いては戸愚呂弟選手の方ですが……わっ!!」
衝撃。
土煙の中から現れたのは、戸愚呂弟、恐らく45%程度に筋肉操作しているか。
ゆらめく鬼火のようなものがまといつく拳で、砕かれた相手が、今粒子に還元されて消えていくところ。
『今砕いた奴は、「呼ばれざる者」の手の者だ。こちら以外に恨みはないから、それ以外の方々には棄権してもらえるとありがたいねェ』
穏やかな口調であるが、棄権しなければ殺害するとの暗黙の脅し。
一人、また一人と棄権を審判に宣言する。
二分としないうちに、戸愚呂弟の本戦出場が確定。
「おおっと!?」
小兎が怪訝な声を上げる。
「127ブロックですが……黄泉選手以外の選手がいつの間にか倒れております!? これは!?」
『俺の新しい術だ。対戦相手の方々には眠ってもらった。単純だが効率性を取った』
黄泉があっさり宣言すると、審判が降下して来て眼下の様子を確認する。
「えー、黄泉選手以外の全選手が昏睡状態ですので、127ブロックからの本戦出場は黄泉選手に決定です!!」
と。
短い気合の声が聞こえたような気がする。
「あっと、こちらは77ブロック!?」
小兎が息を呑む。
彼女の目の前で、花火のように霊気が散開する。
滝のように、霊光が降り注ぎ。
その下で、全員が打ち倒される。
立っているのは。
「ああっと、幻海選手です!! 幻海選手以外の全選手が、霊丸に似た広範囲に広がる技で倒れました!! これは!?」
『ええと、はい、幻海選手以外は戦闘不能!! よって、77ブロックからの本戦出場選手は、幻海選手です!!』
穏やかに可憐な姿は、まるで何もなかったようにたたずみ。
そして、何か聞き耳を立てるように遠くを見たのだ。
天空に巨大な光の柱がそそり立つ。
核爆発のように。
魔界特有の分厚い雷雲に、大きな穴が開く。
魔界にもあるとは思えぬような青空が覗く。
「こ、これは!? 101ブロックで大爆発が!?」
小兎が叫ぶ。
光の奔流が収まった後には、長髪をなびかせた大柄な影。
『ん、まあ、こんなモンだな』
雷禅は光で拡張されたかのような「右手」を大きく握ったり開いたり。
暴れ龍のように今荒れ狂っていた彼の右腕は、凶悪な幻のように禍々しく輝いている。
「こ、これは雷禅選手の右手彼以外の全選手を薙ぎ払い、最後の一人を爆発で吹っ飛ばしました!! なんという強さでしょうか、かなり手加減しているのが伺えますが……!!」
「雷禅選手以外戦闘不能!! 101ブロック、雷禅選手が本戦出場です!!」
ごうごうと会場が歓声で揺れる。
そんな時。
「さて、黄泉選手の息子、最年少の修羅選手の参加する87ブロックですが……こ、これはーーー!!」
モニターを見つめる小兎、そして87ブロックの審判の前で、「そいつ」は巨大な体躯をますます震えさせたのだった。