螺旋より外れて

『さあ、始まりました、予選抽選会!! 参加選手全員が、幾つかの組に分かれて、それぞれクジを引いていきます!!』

 小兎の実況も冴える、魔界トーナメント会場である。
 参加者は割り振られた番号のよっていくつかのまとまりに分けられ、そのひとまとまりごとに、予選ブロックを決定するクジを引いていく。

『注目の選手の予選ブロックは……まず、この大会を提案した張本人です!! 闘神・雷禅の次男、浦飯幽助選手!! 19ブロックです!!』

 小兎が声を張り上げると、正面の巨大モニターに選手と数字が表示され、どよどよとざわめきが湧き起こる。

『浦飯選手の提案に賛同し、この魔界トーナメントの主催の一人となった、元三竦み、優勝候補の一人である黄泉選手!! 賢帝とまで呼ばれる知恵と力を兼ね備えた彼は、いったいどのような戦闘スタイルを見せてくれるのか!? 127ブロックです!!』

『そして、その黄泉選手の息子、生後わずか数か月という最年少選手である修羅選手!! 実力は未知数ながら、すでに高い妖気が計測されています!! 87ブロックです!!』

『同じく、元三竦み!! この大会開催の最後の一押しを与えた立役者の一人!! 軀選手!! 33ブロック!! この人物と出会った者で、生きている者は少ないとまで言われた苛烈な妖怪、そのため戦闘スタイルを知る者は多くありません!! 黄泉選手と同じく優勝候補の一人です!!』

『黄泉選手のかつての右腕!! 過去には極悪盗賊妖狐蔵馬と恐れられた蔵馬選手!! 植物を支配する多彩な戦いを持ち味とする彼は、今回はどんな戦いを見せてくれるのでしょうか!! 94ブロックです!!』

『そしてこちらは、わずか一年あまりで軀直属戦士の筆頭戦士となった飛影選手!! 炎の妖気、そして魔界の獄炎の化身である黒龍を召喚する炎殺黒龍波で、かつて人間界においては最も過酷と言われた暗黒武術会では負けなしでした!! 55ブロックです!!』

『そして、全てはこの男に起因すると言っても過言ではないでしょう!! 闘神・雷禅選手!! 手元の情報によりますと、ある誓いを立てたため人間を断ち、一度は餓死。しかし、妻の食脱医師・聖果、及び長男の影沖永夜の尽力により再び蘇りました!! 魔界最強の呼び名も高い彼は、優勝候補の筆頭です!! 101ブロックです!!』

『さて。その雷禅選手の長男です!! 最強の密教術師の呼び名も高い、影沖永夜!! かつては妖怪の天敵、無明聖と恐れられた彼ですが、近年では魔族と人間の融和的な方向へと舵を切っています!! この大会に際して何を思うか? 128ブロックです!!』

『さて、生粋の人間でありながら、思うところあってこの大会に参加したと言います!! 桑原和真選手!! かつて人間界で開催された暗黒武術会では、浦飯チームの一員として大健闘、決勝では戸愚呂兄選手を破りました!! 1ブロックです!!』

『さて、その桑原選手との死闘も、わたくしとしては記憶に新しい、戸愚呂兄選手!! 小柄だからと侮ることはできません!! 文字通りの不死身の肉体、変幻自在の武態で、情け容赦なく敵を仕留めます!! 21ブロックです!!』

『兄と組んでの戸愚呂兄弟のユニット名で知られます、戸愚呂弟選手!! 暗黒武術会での、浦飯幽助選手との死闘はあまりに有名です!! その戦いで命を落としましたが、かつての盟友・幻海師範によって現世に呼び戻され、今は彼女に護法として仕えているといいます!! 113ブロックです!!』

『その戸愚呂兄弟をまとめて護法として使役するほど、格の高い尼僧でもあります、幻海師範!! かつては通常の人間と同じく年老いていましたが、ある呪法によって不老不死となったという情報が入っております!! 霊光波動拳先代継承者!! どんな戦いを見せてくれるでしょうか!! 77ブロックです!!』

 注目の選手があらかた紹介され、魔界トーナメント初日午前の部はとりあえず終了ということになる。
 午後からの予選開始を待つ、はずであったが。



◆ ◇

「はーい、すみませんすみません、ちょっとゴメンナサーイ」

「失礼いたします、通してくださいませ」

 樹里、瑠架が人波を縫う。
 螢子と麻弥が続く。
 観客たちも、いったん会場外で昼休憩を行ってから入り直そうという時間。
 一時よりはだいぶ人もはけてきた時刻。

「ねえ、軀様から、葬破が会場外で何かしようとしている、様子を見てくれっていわれたけどさあ」

 麻弥が首をかしげる。

「『午後には会いましょう。確実に』って言って来たっていうけど、軀様は33ブロックで、葬破って人は45ブロックでしょう? 予選でかち合う訳がないけど」

「そうよ、なのにそう言って来たって言うのと、葬破と恐らく元国民だろう、『呼ばれざる者』の配下がまとまってどこかへ移動しているっていうのが気になるって」

 螢子は、ようやくたどり着いた会場入り口で、大きく息を吸う。

『皆さーーーん!! 急いでください、様子がおかしいです!! 葬破たちは西側一番手前の億年樹の陰で何かしています!! 細工しているのかも……!!』

 小兎の緊迫した声が脳内に響く。
 樹里も瑠架も、螢子も麻弥も顔を見合わせる。
 一斉に走り出す。
 麻弥と螢子はそれぞれの飛行手段で宙を滑る。

 入口から、一番近い西側の億年樹。
 妖怪の足ではさほどかからなかった、そこに。

「え、ええええええーーー!! どういうことー!?」

「これは……助かりませんわね……」

「そんな……なんで!? 仲間と一緒だったんじゃないの!?」

「ど、どうしよう……!! とりあえず小兎ちゃんに連絡を……!!」

 樹里、瑠架、麻弥、螢子が呆気にとられ青ざめたのも道理。

 そこには。
 何か巨大で黒々とした、刃物らしきもので、棘ぶすまに貫かれて、すでに絶命している葬破の死骸が転がっていたのだ。
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