螺旋より外れて
『は~~~い、みんな聞こえてますかぁ?』
樹里、瑠架、螢子、麻弥の頭の中に、小兎の声が響く。
小兎はすでに実況席にスタンバイしているが、樹里、瑠架、螢子、麻弥は観客席の一角、中二階の出入口側の通路で、「警備員」の腕章をしたまま小兎の思念通話に耳を傾けている。
周囲はすでに満席の魔界トーナメント観客席。
彼女らも経験した暗黒武術会どころではない熱気。
『思兼神の思念通話!! わたくし、小兎の分霊体をハブにして、複数の方々との念話を可能にする、究極の安全安心情報伝達手段!! 思念音声、クリアですかぁ!?』
「は~い、よく聞こえます~!! っていうか、凄いですね、これ! テレパシーよテレパシー!!」
興奮も露わに、麻弥が応じる。
オカルト好きな彼女としては、まさにサイキック用語で言うところのテレパシーを実際に使えるのが嬉しいらしい。
魔界に来ることができ、このような魔界の趨勢に関わることに関与することができるだけでも、彼女の胸ははち切れそうなのに、更にオカルト要素の追い打ちだ。
さしもの麻弥も胸やけせんばかりの極上ディナーである。
ちなみに、彼女自身も、星霊獣の姿を取って、きらめく星を従えているが……流石にこれだけの魔族の中では、カモフラージュできているようだ。
「でもぉ、すでに『呼ばれざる者』の気配はビンビンですぅ。あの、すぐ下の四人……大きな緑色の人の……右側の一人に左側の二人……気配隠そうともしてないですぅ」
樹里は珍しく緊張の面持ちで眼下の観客席に視線を向ける。
彼女に言われるまでもなく、警備組の全員がその四人組を認識している。
一見、ごく普通の魔族。
妖力は確かに高めではあるが、この会場に直接詰めかけるようなもの好きはみんな大体そんなようなものなので、特に目立つほどではない。
しかし。
「神気」を感じ取れる、すなわちリンクした魔族や宿神持ちの人間なら、彼らが濃厚な「呼ばれざる者」の気配を漂わせているのは明白に感知できる。
「只今、情報共有用の端末に位置情報を入力して本部と小兎ちゃんに送りましたわ。とりあえず、観客席にいる『呼ばれざる者』の位置を明らかにしないと」
瑠架が、スマホ程度の大きさの通信端末に、会場内の位置情報を入力して送信していく。
いつも落ち着いている彼女の表情は、流石に今は強張っている。
事前に打ち合わせた会場警備の内容としては、まず第一に場内の『呼ばれざる者』とリンク、もしくは宿神としている者を炙り出すことである。
気配を隠すことは、「呼ばれざる者」の加護を得ているくらいの者なら容易ではあるが、彼らと同等、場合によっては上位のリンクや宿神持ちとなると、その気配を感知できるようになるのだ。
会場のチケットを買った時点では、その者が「呼ばれざる者」の手の者であるかどうかは判断できない。
従って、実際に会場で気配を感知するしかないのだ。
「どうします? あの人たち眠らせておきます? 今こっそりできますけど?」
螢子が声をひそめながら、警備メンバーに相談する。
螢子の取っている姿は、迦陵頻伽(がりょうびんが)。
肢は鳥のそれ、背中にきらめく翼があり、古代インド風というべきか、羽衣を纏い薄着を着こなしている。
ふんわりいい匂い。
彼女は大隔世した上に、宿神も宿したのだが、それはまた別の話。
『とりあえず、しばらくことは起こさずに、会場内の「呼ばれざる者』の手の者を特定することに集中してください!! 万が一襲われた場合は応戦は可能だとのことです!!』
小兎の思念通話がそう告げる。
彼女のリンク先の神、思兼神によって、彼女は超絶的サーチ能力と、魂を分割、すなわち分霊化によって、絶対に敵に察知されない思念通話能力を手に入れている。
そればかりか、彼女の前にでるということは来歴を、魂レベルで丸裸にされるということなのだが、今のところはそこまでのフル稼働は免れている。
この先はわからないのだが。
「じゃあ、まずは反時計回りにこの階層の通路を回りましょう。端まで辿り着いたら、引き返して反対側を半周。ここに戻ってきたら裏から上の階に上がりましょう」
瑠架がてきぱき指示する。
全員がうなずく。
「大丈夫ですよねぇ、会場に十二神将の方々もいらっしゃるし」
樹里はぶるっと震える。
会場を見回し、
「軀様からの情報によると100名くらいは紛れ込んでるって……やーーーん……」
まあ、と口を挟んだのは螢子。
「会場内に幽助のお父さんやお兄さんもいるし……それに、私たちだって宿神やリンクでパワーアップしてるんですから、そうそう遅れは取らないですよ。まずは確実に『呼ばれざる者』の手先の特定と、その上での今後の指示を仰いで……」
その途端。
会場内で、巨大な爆発音が轟き渡る。
「「!?」」
「なに、どこからだべこの爆発音……!!」
「裏よ!! 奥の通路からだわ!!」
螢子と麻弥が目を剥き、樹里と瑠架が素早く状況を把握する。
彼女たちは、素早く身をひるがえし、どよどよしている観客を尻目に奥の通路を目指す。
「あっ!! 大丈夫ですか!!」
「止まりなさーーーい!!」
麻弥が通路に倒れている二つの人影に近づき、螢子が神威の乗った声で、逃げ去ろうとする何者かの足を止める。
三つばかりあったその人影も通路に突っ込むように停止する。
「しっかり!! 大丈夫で……あら!? あなたは」
「鴉さん!? それに武威さん!? 戸愚呂チームの!?」
瑠架と樹里が襲われたと思しき誰かに屈みこむなり、頓狂な声を上げたのも道理。
そこにいた血まみれの男性二人は、確かに元戸愚呂チームとして暗黒武術会で戦った鴉、そして武威だったのだ。
樹里、瑠架、螢子、麻弥の頭の中に、小兎の声が響く。
小兎はすでに実況席にスタンバイしているが、樹里、瑠架、螢子、麻弥は観客席の一角、中二階の出入口側の通路で、「警備員」の腕章をしたまま小兎の思念通話に耳を傾けている。
周囲はすでに満席の魔界トーナメント観客席。
彼女らも経験した暗黒武術会どころではない熱気。
『思兼神の思念通話!! わたくし、小兎の分霊体をハブにして、複数の方々との念話を可能にする、究極の安全安心情報伝達手段!! 思念音声、クリアですかぁ!?』
「は~い、よく聞こえます~!! っていうか、凄いですね、これ! テレパシーよテレパシー!!」
興奮も露わに、麻弥が応じる。
オカルト好きな彼女としては、まさにサイキック用語で言うところのテレパシーを実際に使えるのが嬉しいらしい。
魔界に来ることができ、このような魔界の趨勢に関わることに関与することができるだけでも、彼女の胸ははち切れそうなのに、更にオカルト要素の追い打ちだ。
さしもの麻弥も胸やけせんばかりの極上ディナーである。
ちなみに、彼女自身も、星霊獣の姿を取って、きらめく星を従えているが……流石にこれだけの魔族の中では、カモフラージュできているようだ。
「でもぉ、すでに『呼ばれざる者』の気配はビンビンですぅ。あの、すぐ下の四人……大きな緑色の人の……右側の一人に左側の二人……気配隠そうともしてないですぅ」
樹里は珍しく緊張の面持ちで眼下の観客席に視線を向ける。
彼女に言われるまでもなく、警備組の全員がその四人組を認識している。
一見、ごく普通の魔族。
妖力は確かに高めではあるが、この会場に直接詰めかけるようなもの好きはみんな大体そんなようなものなので、特に目立つほどではない。
しかし。
「神気」を感じ取れる、すなわちリンクした魔族や宿神持ちの人間なら、彼らが濃厚な「呼ばれざる者」の気配を漂わせているのは明白に感知できる。
「只今、情報共有用の端末に位置情報を入力して本部と小兎ちゃんに送りましたわ。とりあえず、観客席にいる『呼ばれざる者』の位置を明らかにしないと」
瑠架が、スマホ程度の大きさの通信端末に、会場内の位置情報を入力して送信していく。
いつも落ち着いている彼女の表情は、流石に今は強張っている。
事前に打ち合わせた会場警備の内容としては、まず第一に場内の『呼ばれざる者』とリンク、もしくは宿神としている者を炙り出すことである。
気配を隠すことは、「呼ばれざる者」の加護を得ているくらいの者なら容易ではあるが、彼らと同等、場合によっては上位のリンクや宿神持ちとなると、その気配を感知できるようになるのだ。
会場のチケットを買った時点では、その者が「呼ばれざる者」の手の者であるかどうかは判断できない。
従って、実際に会場で気配を感知するしかないのだ。
「どうします? あの人たち眠らせておきます? 今こっそりできますけど?」
螢子が声をひそめながら、警備メンバーに相談する。
螢子の取っている姿は、迦陵頻伽(がりょうびんが)。
肢は鳥のそれ、背中にきらめく翼があり、古代インド風というべきか、羽衣を纏い薄着を着こなしている。
ふんわりいい匂い。
彼女は大隔世した上に、宿神も宿したのだが、それはまた別の話。
『とりあえず、しばらくことは起こさずに、会場内の「呼ばれざる者』の手の者を特定することに集中してください!! 万が一襲われた場合は応戦は可能だとのことです!!』
小兎の思念通話がそう告げる。
彼女のリンク先の神、思兼神によって、彼女は超絶的サーチ能力と、魂を分割、すなわち分霊化によって、絶対に敵に察知されない思念通話能力を手に入れている。
そればかりか、彼女の前にでるということは来歴を、魂レベルで丸裸にされるということなのだが、今のところはそこまでのフル稼働は免れている。
この先はわからないのだが。
「じゃあ、まずは反時計回りにこの階層の通路を回りましょう。端まで辿り着いたら、引き返して反対側を半周。ここに戻ってきたら裏から上の階に上がりましょう」
瑠架がてきぱき指示する。
全員がうなずく。
「大丈夫ですよねぇ、会場に十二神将の方々もいらっしゃるし」
樹里はぶるっと震える。
会場を見回し、
「軀様からの情報によると100名くらいは紛れ込んでるって……やーーーん……」
まあ、と口を挟んだのは螢子。
「会場内に幽助のお父さんやお兄さんもいるし……それに、私たちだって宿神やリンクでパワーアップしてるんですから、そうそう遅れは取らないですよ。まずは確実に『呼ばれざる者』の手先の特定と、その上での今後の指示を仰いで……」
その途端。
会場内で、巨大な爆発音が轟き渡る。
「「!?」」
「なに、どこからだべこの爆発音……!!」
「裏よ!! 奥の通路からだわ!!」
螢子と麻弥が目を剥き、樹里と瑠架が素早く状況を把握する。
彼女たちは、素早く身をひるがえし、どよどよしている観客を尻目に奥の通路を目指す。
「あっ!! 大丈夫ですか!!」
「止まりなさーーーい!!」
麻弥が通路に倒れている二つの人影に近づき、螢子が神威の乗った声で、逃げ去ろうとする何者かの足を止める。
三つばかりあったその人影も通路に突っ込むように停止する。
「しっかり!! 大丈夫で……あら!? あなたは」
「鴉さん!? それに武威さん!? 戸愚呂チームの!?」
瑠架と樹里が襲われたと思しき誰かに屈みこむなり、頓狂な声を上げたのも道理。
そこにいた血まみれの男性二人は、確かに元戸愚呂チームとして暗黒武術会で戦った鴉、そして武威だったのだ。