螺旋より外れて
白い河原で 星が降る
よいよい
白い河原で 星が降る
よいよい
おかれた つれてった
おかれた つれてった
あおい布の
あおい布の
呼んだらいこか
呼んだらいこか
◇ ◆ ◇
道端で輪になって歌を歌いながら回っている子供たちを、蔵馬は静かな目で眺めている。
古い時代の短い子供用の着物をまとう、恐らく何の変哲もない人間の子供。
付き合いのそれなりに濃厚な幽助には、彼が聞き耳を立てているのが判別できる。
「蔵馬……?」
「しっ」
幽助が呼び掛けると静粛を求められる。
背後に近付いてきた永夜に、幽助は説明を求める目を向ける。
『あれはわらべ歌を利用した占いだよ』
永夜が思念を飛ばしてくる。
『そういう占いがあるんだ。今みたいなきっちり整えられた童謡ができる前の子供の遊び歌は適当でね。意味不明な言葉の羅列だったりする。それを占いに利用する訳だ』
幽助は当惑したように首を振るしかない。
『蔵馬、そんな占いなんかできんのかな』
『普段忘れているかも知れないが、彼はだいぶ古い妖怪だからね。そのくらいはできるはずだ。それにこの場合は、明確に近辺にヒントがあると告知されているのだから』
見詰める永夜の視線の先で、蔵馬はどこからか取り出したメモ帳に子供たちの歌っている歌を書き留めている。
幽助はそっと覗き込むが、その奇妙な歌詞の意味など理解できるはずもない。
子供たちはおおよそ同じ言葉を繰り返しながら、真ん中に置かれた子供の真後ろに立つ子供の名前を当てさせる、現在なら「かごめかごめ」と同様の遊び方をしているようだ。
もちろん、大事なのは遊び方そのものではなく、一見意味不明な歌詞であることには違いない。
「法師様」
ふと、蔵馬が永夜を振り返る。
「この近辺に、橋がかかっている河原なんかはありませんか。下に降りられるようなやつ」
唐突に問われ、永夜は軽く考え込む。
「ありますよ。人間界の古い時代に、罪人を処刑したような河原に似ているから、罪人河原、なんて呼ばれている河原が」
「あ、多分それです。そこに案内していただけませんか」
蔵馬はどこか嬉しそうに要請する。
幽助は、徹頭徹尾、何が起きているのかわからない様子だ。
「なあ、蔵馬。どういうことだ? 河原って歌ってたけど、河原に行けばいいってことか?」
蔵馬は優雅に微笑む。
「白い河原……って歌っていたのは聞いたかい? 白い砂利なんかが敷かれた河原は、裁判所や、処刑場を暗示する。ここは天界だからそういうのはごく少ないんだろうけど、地名だけは罪人河原という場所があると。間違いなく何かあるはずだ」
へえ、と幽助は首を曲げて考え込み、ふと回想する。
「連れてったとか置いてかれた、とか言ってたような? そこに誰かいるのか?」
「それは行ってみるまでわからない。ただ、その罪人河原で人の動きがあるはずだ。それをまた観察するしかないな」
蔵馬の推理に、幽助はへええ、と唸る。
周囲を天界の住人たちに囲まれ、しかし注視はされず、三人は大路を辿る。
15分ほど歩き、三人はそれなりに大きな川の、白っぽい河原にぶつかる。
大きな橋がかけられて往来がある一方、すぐ脇に下の河原に降りる小路が続いており、三人はすぐさまそこを辿る。
「さて、ここが罪人河原か? 別になんもないけどなあ」
幽助は、水流に削られた丸い石が連なるひとけのない河原を見渡しながら不思議そうに呟く。
確かに、目につくものはない。
さらさら流れる水の音と、しんとした石の香りだけが、その一帯を支配する。
顔を上げれば、橋の上に人の往来はあるものの、特に何事もなく通り過ぎていくだけで、目だった動きをする者はない。
「……あった。これは『も』だな」
ふと。
蔵馬が、河原の石の上に屈み込み、手近の丸石をひっくり返している。
幽助が怪訝そうに覗き込むと、その手の中にある石に、恐らくは筆書きで「も」の草書体が記されている。
「なんだこりゃ。誰か落書きしたんか?」
「これがヒントだ。『星が降る』と歌っていただろう? この場合の星というのは、星のように見える粒状の構造が寄り集まってできた花崗岩。つまり、この河原の石さ。石に何かのヒントがあるはずだと思っていたら、分かりやすすぎるビンゴだな」
幽助は舌を巻く。
無論現役中学生の彼は、岩石の種類など判別できず、ただ白っぽい石だの黒っぽい石だの、表面を覆う色彩の面積によって大まかに分類しているに過ぎない。
河原、星、というキーワードだけで「花崗岩」という学術分類を導き出した蔵馬の博識は凄まじいと感じる。
「手分けして、周囲の石に文字が書き付けられていないか探しましょう」
永夜が、早速川の方に歩いて行って、地面に屈み込む。
人が座れるくらいの大きな岩を中心に、周囲の掌くらいの丸石をひっくり返しだす。
「わかった。蔵馬はここを。俺は、橋の向こう側を探してみる」
幽助は、素早くそう宣言して、橋桁を潜り抜けてその向こうに駆けていく。
蔵馬はうなずき、すぐ足元を再度探し始める。
捜索をはじめて一時間ばかり経過した頃。
「これで全部か? 七つ、か……」
幽助が、大きなテーブル状の岩の上に並べられた白っぽい石を順繰りに眺める。
「も」「は」「め」「り」「く」「い」「の」
とりあえず並べた石に記されたひらがなは、左から読むとそう記してある。
「……かくれんぼですからね。どこか、だ。これも地名でしょうかね」
永夜が、淡々と評する。
「もはめりくいの……もはめりくいの……並べ替えるとどっかの地名なのか? わっかんねえよ!!!」
幽助はがりがり頭を掻く。
蔵馬は指を形の良い顎に当ててかすかに考えていたが、すぐに動き出す。
「地名だとするなら、『もり』が入っていますね。『の』もついて、『どこそこの森』なんじゃないですかね? 『のもり』を除くと『は』『め』『く』『い』」
永夜が、静かに目をすがめて思考を巡らせる。
「は……は、か。『薄明の森』という森なら、この都の近くにありますが。『は』『く』『め』『い』です」
蔵馬と幽助が目を輝かせ、顔を見合せる。
「よっしゃ、そこだな。すぐに行こうぜ!!」
幽助が高揚するのに、蔵馬はうなずき、だが釘を刺す。
「準備してから行こう。あの歌の通りなら、誰か待ち受けてるはずだ」
よいよい
白い河原で 星が降る
よいよい
おかれた つれてった
おかれた つれてった
あおい布の
あおい布の
呼んだらいこか
呼んだらいこか
◇ ◆ ◇
道端で輪になって歌を歌いながら回っている子供たちを、蔵馬は静かな目で眺めている。
古い時代の短い子供用の着物をまとう、恐らく何の変哲もない人間の子供。
付き合いのそれなりに濃厚な幽助には、彼が聞き耳を立てているのが判別できる。
「蔵馬……?」
「しっ」
幽助が呼び掛けると静粛を求められる。
背後に近付いてきた永夜に、幽助は説明を求める目を向ける。
『あれはわらべ歌を利用した占いだよ』
永夜が思念を飛ばしてくる。
『そういう占いがあるんだ。今みたいなきっちり整えられた童謡ができる前の子供の遊び歌は適当でね。意味不明な言葉の羅列だったりする。それを占いに利用する訳だ』
幽助は当惑したように首を振るしかない。
『蔵馬、そんな占いなんかできんのかな』
『普段忘れているかも知れないが、彼はだいぶ古い妖怪だからね。そのくらいはできるはずだ。それにこの場合は、明確に近辺にヒントがあると告知されているのだから』
見詰める永夜の視線の先で、蔵馬はどこからか取り出したメモ帳に子供たちの歌っている歌を書き留めている。
幽助はそっと覗き込むが、その奇妙な歌詞の意味など理解できるはずもない。
子供たちはおおよそ同じ言葉を繰り返しながら、真ん中に置かれた子供の真後ろに立つ子供の名前を当てさせる、現在なら「かごめかごめ」と同様の遊び方をしているようだ。
もちろん、大事なのは遊び方そのものではなく、一見意味不明な歌詞であることには違いない。
「法師様」
ふと、蔵馬が永夜を振り返る。
「この近辺に、橋がかかっている河原なんかはありませんか。下に降りられるようなやつ」
唐突に問われ、永夜は軽く考え込む。
「ありますよ。人間界の古い時代に、罪人を処刑したような河原に似ているから、罪人河原、なんて呼ばれている河原が」
「あ、多分それです。そこに案内していただけませんか」
蔵馬はどこか嬉しそうに要請する。
幽助は、徹頭徹尾、何が起きているのかわからない様子だ。
「なあ、蔵馬。どういうことだ? 河原って歌ってたけど、河原に行けばいいってことか?」
蔵馬は優雅に微笑む。
「白い河原……って歌っていたのは聞いたかい? 白い砂利なんかが敷かれた河原は、裁判所や、処刑場を暗示する。ここは天界だからそういうのはごく少ないんだろうけど、地名だけは罪人河原という場所があると。間違いなく何かあるはずだ」
へえ、と幽助は首を曲げて考え込み、ふと回想する。
「連れてったとか置いてかれた、とか言ってたような? そこに誰かいるのか?」
「それは行ってみるまでわからない。ただ、その罪人河原で人の動きがあるはずだ。それをまた観察するしかないな」
蔵馬の推理に、幽助はへええ、と唸る。
周囲を天界の住人たちに囲まれ、しかし注視はされず、三人は大路を辿る。
15分ほど歩き、三人はそれなりに大きな川の、白っぽい河原にぶつかる。
大きな橋がかけられて往来がある一方、すぐ脇に下の河原に降りる小路が続いており、三人はすぐさまそこを辿る。
「さて、ここが罪人河原か? 別になんもないけどなあ」
幽助は、水流に削られた丸い石が連なるひとけのない河原を見渡しながら不思議そうに呟く。
確かに、目につくものはない。
さらさら流れる水の音と、しんとした石の香りだけが、その一帯を支配する。
顔を上げれば、橋の上に人の往来はあるものの、特に何事もなく通り過ぎていくだけで、目だった動きをする者はない。
「……あった。これは『も』だな」
ふと。
蔵馬が、河原の石の上に屈み込み、手近の丸石をひっくり返している。
幽助が怪訝そうに覗き込むと、その手の中にある石に、恐らくは筆書きで「も」の草書体が記されている。
「なんだこりゃ。誰か落書きしたんか?」
「これがヒントだ。『星が降る』と歌っていただろう? この場合の星というのは、星のように見える粒状の構造が寄り集まってできた花崗岩。つまり、この河原の石さ。石に何かのヒントがあるはずだと思っていたら、分かりやすすぎるビンゴだな」
幽助は舌を巻く。
無論現役中学生の彼は、岩石の種類など判別できず、ただ白っぽい石だの黒っぽい石だの、表面を覆う色彩の面積によって大まかに分類しているに過ぎない。
河原、星、というキーワードだけで「花崗岩」という学術分類を導き出した蔵馬の博識は凄まじいと感じる。
「手分けして、周囲の石に文字が書き付けられていないか探しましょう」
永夜が、早速川の方に歩いて行って、地面に屈み込む。
人が座れるくらいの大きな岩を中心に、周囲の掌くらいの丸石をひっくり返しだす。
「わかった。蔵馬はここを。俺は、橋の向こう側を探してみる」
幽助は、素早くそう宣言して、橋桁を潜り抜けてその向こうに駆けていく。
蔵馬はうなずき、すぐ足元を再度探し始める。
捜索をはじめて一時間ばかり経過した頃。
「これで全部か? 七つ、か……」
幽助が、大きなテーブル状の岩の上に並べられた白っぽい石を順繰りに眺める。
「も」「は」「め」「り」「く」「い」「の」
とりあえず並べた石に記されたひらがなは、左から読むとそう記してある。
「……かくれんぼですからね。どこか、だ。これも地名でしょうかね」
永夜が、淡々と評する。
「もはめりくいの……もはめりくいの……並べ替えるとどっかの地名なのか? わっかんねえよ!!!」
幽助はがりがり頭を掻く。
蔵馬は指を形の良い顎に当ててかすかに考えていたが、すぐに動き出す。
「地名だとするなら、『もり』が入っていますね。『の』もついて、『どこそこの森』なんじゃないですかね? 『のもり』を除くと『は』『め』『く』『い』」
永夜が、静かに目をすがめて思考を巡らせる。
「は……は、か。『薄明の森』という森なら、この都の近くにありますが。『は』『く』『め』『い』です」
蔵馬と幽助が目を輝かせ、顔を見合せる。
「よっしゃ、そこだな。すぐに行こうぜ!!」
幽助が高揚するのに、蔵馬はうなずき、だが釘を刺す。
「準備してから行こう。あの歌の通りなら、誰か待ち受けてるはずだ」