螺旋より外れて
撃が降り立ったのは、見渡す限り炎の花園が広がる平原の、一角にある平たい石の上だ。
家ほどの広さがあるその上で、永夜は同行者たちを石の上に降ろす。
飛影らはその花園を眺めやる。
色とりどりの鮮烈な色彩の花に、それぞれ同じ色の炎が纏いつき、祭礼の行列のように燃え盛っているのが一面に。
「なあ、どこにいんのかな、その炎也って奴」
幽助は自分が戦うかのように、その炎の花園を見渡す。
「この花園は、炎也様そのもののようなもの。ここにいれば、向こうからおいで下さるはずだ。案ずることはない」
永夜は穏やかに目を遠くにやる。
「ふん。俺だけでも探しに行くか」
飛影は、平たい石の上から、下の花園に飛び降りる。
「飛影!! 相手が姿を見せるまで、動かない方がいい」
蔵馬が警告する。
「いらん世話だ。お前らは下がっていろ」
飛影が剣を抜き放つ。
遠くを見渡し、ふと空の一角に目を留める。
にやり、とした笑い。
「!! 炎也様だ!!」
永夜の鋭い警告の合間にも、その燃える影はどんどん近付いてくる。
地上の花よりなお鮮やかに、七色に燃え盛る炎の雲が、嵐より速い速度で近付いてくる。
一瞬で。
幽助たちのいる石の周囲一体が、燃え盛る炎の蝶でできた雲で推し包まれる。
灼熱地獄。
石の上にいる永夜たち一行は咄嗟に永夜の張った結界で防御されたが、地上にいる飛影は蝶の雲に呑み込まれる。
「おや? おやおやおや?」
雲が渦巻き、地上を薙ぎ払ってから人の形を取る。
一瞬で空中には、甘やかな顔立ちの美男子が燃える蝶をまとって浮かび上がる。
「へえ、もうリンクをしていただいたんだね? まだ生きてるとはね?」
地上の花の合間。
飛影が身を伏せている。
ぐいと膝立ちで立ち上がり、剣を手に起き上がる。
その身のあちこちに、珍しいことに火傷あと。
「飛影!? 飛影が火傷!?」
幽助がびっくりしたように叫ぶ。
炎の妖怪である飛影が、まさか火傷を負うとは。
「使う炎の質が違うんだ。炎也のは神界の炎。飛影のは、魔界の炎に一部神界の気が混じっているようなものだろう。魔界だけの炎よりは強力だが、100%の神界の炎には劣る訳だ」
蔵馬が素早く状況を分析する。
ふと、炎也がこちらに顔を向ける。
「へえ、鋭いね、狐ちゃん。ま、大体当たり。そういうことだから、万が一君らが助けに入っても無駄だよ。永夜ならわかんないけど、うちの主に手助け禁止されてるはずだろ?」
どうも炎也には、すでに話が行っていたようである。
幽助と蔵馬は流石に焦りの表情を浮かべる。
幽助が兄の表情をうかがうと、彼は気難しい表情で首を横に振る。
手出しはするな、という意味だろう。
幽助にしても、まだ宿神を宿していない自分が助太刀しても無駄なのはわかっているが、それでも気は焦る。
「フン。舐めるなよ、虫野郎」
飛影が傷跡を拭う。
「今ので大体わかった。貴様の戦法は、無数の蝶に分裂して、広範囲を一気に炎で薙ぎ払うものだろう。一対一では不利とはいかないまでも、そう得手ではないんじゃないのか」
飛影の問いかけを受けて、炎也が笑い声を立てる。
「人間の言葉で言えば、大は小を兼ねるってやつだ。一人でも多数広範囲でも変わらない。一人に集中すれば、攻撃力も髙くなる。そういうこと」
飛影は、剣を鞘に収めると、右腕の龍を呼び出す。
「炎殺黒龍波!? 何発目だオイ!?」
幽助が叫ぶ。
「まずい、黒龍波も魔界の炎であることには変わりない。しかも、広範囲に展開する敵に有利な形でもない、まずい戦法だぞ!!」
蔵馬が呻く。
しかし、それが終らぬうちに黒龍波が咆哮を上げて炎也に突進する。
渦巻き、魔界の炎そのものとなって炎也を殲滅せんと……
「鈍いねえ!! 鈍いよ!!」
炎也が哄笑を上げてまた蝶の群れに戻る。
黒龍波は、その七色に燃える神界の蝶の雲に突っ込んであえなく消滅……
いや。
「なっ、なん……!!」
炎也が驚きの声を上げる。
黒龍波が突っ込んで消えた直後に、蝶の壁のすぐ背後に飛影がいたのだ。
「邪王炎殺煉獄掌!!」
怒涛の勢いで、一匹一匹蝶を拳で焼いていく。
背中には翼を展開。
飛影の身に帯びた火之迦具土神の神気は、その眷属でしかない炎也の蝶を滅ぼしていく。
「んっ!? ありゃあ……」
「飛影自身の体に既に帯びている火之迦具土神の神気で、炎也を焼いてるんだ、上手いな!!」
咄嗟に何が起こっているかわかりかねた幽助に、蔵馬が解説を加える。
「マジか、きりがないんじゃ……」
幽助は、そのあまりに非効率な戦法に歯がみするはかり。
「いや……」
蔵馬が更に何か告げようとしたその時。
「捉えた」
飛影が何かを指に挟んで掲げる。
「こいつが、お前の本体だろう?」
飛影の手の中には、燃える緋色の蝶。
ひときわ大きい。
『えっ、嘘だろ!? なんでわかった!?』
その蝶から炎也の声がする。
「ここまで近付けば、神気の濃淡くらいわかる。一番濃いのが、お前の本体」
飛影はどうしてやろうかと言わんばかりに指の中に封じた蝶をぶらぶら。
『ああっ、すんませーーーーん!! やめて潰さないで!!』
焦った悲鳴が轟く仲、幽助と蔵馬はぽかんとしている。
「えっ、飛影勝ったのか!? すげえ!!」
「自分の体に帯びた神気で、蝶を閉じ込めれば勝ちなんだ。こうすれば他の蝶にすり替わることもできないからね。黒龍波は完全に囮だった訳だ。考えたな飛影」
蔵馬が幽助の疑問に応じると、永夜がうなずく。
「そういうことだよ。……炎也様、あなた様の負け、飛影さんの勝ちです。お認めになりますね?」
『なんでもいいから助けてーーーー!!』
悲痛な声が響き、観戦者たちはさきほどまでの緊迫を忘れて苦笑するしかなかったのだった。
家ほどの広さがあるその上で、永夜は同行者たちを石の上に降ろす。
飛影らはその花園を眺めやる。
色とりどりの鮮烈な色彩の花に、それぞれ同じ色の炎が纏いつき、祭礼の行列のように燃え盛っているのが一面に。
「なあ、どこにいんのかな、その炎也って奴」
幽助は自分が戦うかのように、その炎の花園を見渡す。
「この花園は、炎也様そのもののようなもの。ここにいれば、向こうからおいで下さるはずだ。案ずることはない」
永夜は穏やかに目を遠くにやる。
「ふん。俺だけでも探しに行くか」
飛影は、平たい石の上から、下の花園に飛び降りる。
「飛影!! 相手が姿を見せるまで、動かない方がいい」
蔵馬が警告する。
「いらん世話だ。お前らは下がっていろ」
飛影が剣を抜き放つ。
遠くを見渡し、ふと空の一角に目を留める。
にやり、とした笑い。
「!! 炎也様だ!!」
永夜の鋭い警告の合間にも、その燃える影はどんどん近付いてくる。
地上の花よりなお鮮やかに、七色に燃え盛る炎の雲が、嵐より速い速度で近付いてくる。
一瞬で。
幽助たちのいる石の周囲一体が、燃え盛る炎の蝶でできた雲で推し包まれる。
灼熱地獄。
石の上にいる永夜たち一行は咄嗟に永夜の張った結界で防御されたが、地上にいる飛影は蝶の雲に呑み込まれる。
「おや? おやおやおや?」
雲が渦巻き、地上を薙ぎ払ってから人の形を取る。
一瞬で空中には、甘やかな顔立ちの美男子が燃える蝶をまとって浮かび上がる。
「へえ、もうリンクをしていただいたんだね? まだ生きてるとはね?」
地上の花の合間。
飛影が身を伏せている。
ぐいと膝立ちで立ち上がり、剣を手に起き上がる。
その身のあちこちに、珍しいことに火傷あと。
「飛影!? 飛影が火傷!?」
幽助がびっくりしたように叫ぶ。
炎の妖怪である飛影が、まさか火傷を負うとは。
「使う炎の質が違うんだ。炎也のは神界の炎。飛影のは、魔界の炎に一部神界の気が混じっているようなものだろう。魔界だけの炎よりは強力だが、100%の神界の炎には劣る訳だ」
蔵馬が素早く状況を分析する。
ふと、炎也がこちらに顔を向ける。
「へえ、鋭いね、狐ちゃん。ま、大体当たり。そういうことだから、万が一君らが助けに入っても無駄だよ。永夜ならわかんないけど、うちの主に手助け禁止されてるはずだろ?」
どうも炎也には、すでに話が行っていたようである。
幽助と蔵馬は流石に焦りの表情を浮かべる。
幽助が兄の表情をうかがうと、彼は気難しい表情で首を横に振る。
手出しはするな、という意味だろう。
幽助にしても、まだ宿神を宿していない自分が助太刀しても無駄なのはわかっているが、それでも気は焦る。
「フン。舐めるなよ、虫野郎」
飛影が傷跡を拭う。
「今ので大体わかった。貴様の戦法は、無数の蝶に分裂して、広範囲を一気に炎で薙ぎ払うものだろう。一対一では不利とはいかないまでも、そう得手ではないんじゃないのか」
飛影の問いかけを受けて、炎也が笑い声を立てる。
「人間の言葉で言えば、大は小を兼ねるってやつだ。一人でも多数広範囲でも変わらない。一人に集中すれば、攻撃力も髙くなる。そういうこと」
飛影は、剣を鞘に収めると、右腕の龍を呼び出す。
「炎殺黒龍波!? 何発目だオイ!?」
幽助が叫ぶ。
「まずい、黒龍波も魔界の炎であることには変わりない。しかも、広範囲に展開する敵に有利な形でもない、まずい戦法だぞ!!」
蔵馬が呻く。
しかし、それが終らぬうちに黒龍波が咆哮を上げて炎也に突進する。
渦巻き、魔界の炎そのものとなって炎也を殲滅せんと……
「鈍いねえ!! 鈍いよ!!」
炎也が哄笑を上げてまた蝶の群れに戻る。
黒龍波は、その七色に燃える神界の蝶の雲に突っ込んであえなく消滅……
いや。
「なっ、なん……!!」
炎也が驚きの声を上げる。
黒龍波が突っ込んで消えた直後に、蝶の壁のすぐ背後に飛影がいたのだ。
「邪王炎殺煉獄掌!!」
怒涛の勢いで、一匹一匹蝶を拳で焼いていく。
背中には翼を展開。
飛影の身に帯びた火之迦具土神の神気は、その眷属でしかない炎也の蝶を滅ぼしていく。
「んっ!? ありゃあ……」
「飛影自身の体に既に帯びている火之迦具土神の神気で、炎也を焼いてるんだ、上手いな!!」
咄嗟に何が起こっているかわかりかねた幽助に、蔵馬が解説を加える。
「マジか、きりがないんじゃ……」
幽助は、そのあまりに非効率な戦法に歯がみするはかり。
「いや……」
蔵馬が更に何か告げようとしたその時。
「捉えた」
飛影が何かを指に挟んで掲げる。
「こいつが、お前の本体だろう?」
飛影の手の中には、燃える緋色の蝶。
ひときわ大きい。
『えっ、嘘だろ!? なんでわかった!?』
その蝶から炎也の声がする。
「ここまで近付けば、神気の濃淡くらいわかる。一番濃いのが、お前の本体」
飛影はどうしてやろうかと言わんばかりに指の中に封じた蝶をぶらぶら。
『ああっ、すんませーーーーん!! やめて潰さないで!!』
焦った悲鳴が轟く仲、幽助と蔵馬はぽかんとしている。
「えっ、飛影勝ったのか!? すげえ!!」
「自分の体に帯びた神気で、蝶を閉じ込めれば勝ちなんだ。こうすれば他の蝶にすり替わることもできないからね。黒龍波は完全に囮だった訳だ。考えたな飛影」
蔵馬が幽助の疑問に応じると、永夜がうなずく。
「そういうことだよ。……炎也様、あなた様の負け、飛影さんの勝ちです。お認めになりますね?」
『なんでもいいから助けてーーーー!!』
悲痛な声が響き、観戦者たちはさきほどまでの緊迫を忘れて苦笑するしかなかったのだった。