螺旋より外れて
飛影は、火之迦具土神の前に進み出る。
その神は、大きな手を飛影にかざし、静かに呟く。
「そなたの目の中に、そなたの愛する者が見える。二人とも大したものだ。大きな心を持っているな。特に軀は、今極めつけの試練の只中だ。心配であろう」
飛影は、フンと鼻を鳴らし、ぞんざいに言い返す。
「そんなことはどうでもいい。さっさとリンクとやらをしろ」
火之迦具土神は穏やかに微笑む。
「そう焦るな。今のところ、軀は無事だ。最初からわかっていたように試練をこなす。困難な人生であったろうが、あの者はそれも使いこなしている。そなたがいたからだ、飛影。あの者も変わった」
その言葉に、飛影は何か思い付いたように一瞬だけ考え込み、再び顔を上げる。
背後では幽助が蔵馬とわざとらしくつつきあってニヤニヤしている。
永夜は静かに飛影の背中を見守る体勢だ。
「……あいつの手伝いはしなきゃならん。今死なれたら、大会で打ち破るという俺の決意が無駄になる。さっさとリンクとやらをしろ」
飛影はいら立ちを装うように声に力を込める。
火之迦具土はふっと微笑む。
「ああ、かの者もそれを待っているだろう。さ、リンクはできた。力を使ってみるが良い」
火之迦具土に言われ、飛影は目をパチクリさせる。
しげしげと自分の体を見下ろし、何かに気付いたように。
「さ、下がっていなさい」
永夜が、弟とその友人を後ろに下がらせるや否や。
飛影の全身に、漆黒の炎が湧き上がり巻き付く。
見る間にその炎は、飛影の背中に引き込まれて、一瞬の後、巨大な漆黒の炎の翼となって燃え広がる。
炎の翼は、飛影の小柄な体を宙に引き上げる。
更にその両腕にも炎。
飛影が、その腕に巻き付いた無限の射程を持つ剣の如き炎で、火之迦具土神に瞬時に突きかかる。
火之迦具土は、一瞬で手の中に出現させた炎の剣でそれを防御。
飛影は自らも太刀を抜き放ち、それに沿わせて炎を無限に展開させることによって火之迦具土神を追い詰める。
炎が巨大な天使の翼のように広がり、無数の頭を持つ龍のように自在にうねる。
炎の神は自らも呼び出した金色の炎で黒い炎を防御し、玉座の前を離れて飛影と手合わせを始める。
周囲は灼熱地獄だ。
永夜が結界を張り、自分と弟、昔なじみの妖狐の身を護る。
キン、と双方の剣が鳴る。
火之迦具土神が、ふう、と息を吐く。
「思った通りにすぐに我が力を使いこなしているな。だが、まだまだだ」
「フン。貴様の力だろうが」
飛影が嘲る。
「それはそうだ。だがな、飛影、力にも段階がある」
自分の剣を凌ぎながら不意にそんなことを言い出す火之迦具土に、飛影は怪訝そうな顔。
「どういう意味だ」
「リンクには、深度に基づく段階がある。そなたは現在、深度1の私とのリンク状態。これはわかったか?」
「ほう」
飛影は狂暴に笑う。
「深度がもっと深いリンクもあると?」
「そういうことだ。今の状態から、もっと深いリンクを提供するのには、条件がある。そなたにとっても良い条件が」
あくまで穏やかな火之迦具土神の物言いに、飛影は静かになっていく。
すっと、剣を引く。
「それはどういう条件なんだ。さっさと言え」
火之迦具土は笑う。
「私には、炎の眷属が多い」
ふと、幽助が思い出したように。
「あ、さっきのフザけたちょうちょ野郎とかか!!」
「左様。炎也も我が眷属。その炎也はじめ、三柱の眷属を打ち破り、支配下において欲しい。その眷属はそなたに譲るし、一柱ごとにリンクを一段階深めよう」
火之迦具土神の言葉に、飛影はわずかに考え込んだだけだ。
「下等妖怪を支配下に置くよりは面倒そうだが、まあいい。やってやろう。軀への土産にくらいはなるだろう」
火之迦具土はうなずき、永夜に顔を向ける。
「永夜。そなたに案内を頼みたい。ただし、眷属の者たちと飛影との戦いに、直接手出しすることは禁ずる。戦いの合間に傷を治すなどの行為は許可する。どうだ?」
永夜は、丁寧に一礼する。
「承りました。御意に」
幽助は息せききって火之迦具土に尋ねる。
「なあ、俺もちょっと手伝っていいのか?」
「それは許可するが」
やや苦笑気味に、火之迦具土は言葉を紡ぐ。
「多分、戦力にはならない。大人しく見ていた方が良かろうな」
蔵馬は不満げな幽助の肩に手を置く。
「飛影の新たな出発だ。俺たちは見守れるだけでいいんじゃないかな。多分、自分の宿神を宿す時の参考になる」
「そんなもんかねえ」
「そんなもんさ」
やがて、四人はその場を辞する。
十分しないうちに、その姿は空の上、撃の背中にある。
◇ ◆ ◇
「なあ、兄貴」
幽助は撃の背中で、兄に呼び掛ける。
「あの炎也って奴、どこに住んでんだ?」
「蝶だからね。花園にお住まいだ。普通の花園とは違う炎の花園だが」
永夜が口にするや、眼下に不思議な光景が広がる。
「あれは……?」
蔵馬は不思議そうに、眼下に逆向きの星空のように広がる小さな炎の集合を見下ろす。
「あれが『星火(せいか)の原』。炎の花園であり、炎也様の領地ですよ」
永夜は、撃に合図し、そのまま下りていく。
無数の燃える花が咲き乱れる場所へ。
その神は、大きな手を飛影にかざし、静かに呟く。
「そなたの目の中に、そなたの愛する者が見える。二人とも大したものだ。大きな心を持っているな。特に軀は、今極めつけの試練の只中だ。心配であろう」
飛影は、フンと鼻を鳴らし、ぞんざいに言い返す。
「そんなことはどうでもいい。さっさとリンクとやらをしろ」
火之迦具土神は穏やかに微笑む。
「そう焦るな。今のところ、軀は無事だ。最初からわかっていたように試練をこなす。困難な人生であったろうが、あの者はそれも使いこなしている。そなたがいたからだ、飛影。あの者も変わった」
その言葉に、飛影は何か思い付いたように一瞬だけ考え込み、再び顔を上げる。
背後では幽助が蔵馬とわざとらしくつつきあってニヤニヤしている。
永夜は静かに飛影の背中を見守る体勢だ。
「……あいつの手伝いはしなきゃならん。今死なれたら、大会で打ち破るという俺の決意が無駄になる。さっさとリンクとやらをしろ」
飛影はいら立ちを装うように声に力を込める。
火之迦具土はふっと微笑む。
「ああ、かの者もそれを待っているだろう。さ、リンクはできた。力を使ってみるが良い」
火之迦具土に言われ、飛影は目をパチクリさせる。
しげしげと自分の体を見下ろし、何かに気付いたように。
「さ、下がっていなさい」
永夜が、弟とその友人を後ろに下がらせるや否や。
飛影の全身に、漆黒の炎が湧き上がり巻き付く。
見る間にその炎は、飛影の背中に引き込まれて、一瞬の後、巨大な漆黒の炎の翼となって燃え広がる。
炎の翼は、飛影の小柄な体を宙に引き上げる。
更にその両腕にも炎。
飛影が、その腕に巻き付いた無限の射程を持つ剣の如き炎で、火之迦具土神に瞬時に突きかかる。
火之迦具土は、一瞬で手の中に出現させた炎の剣でそれを防御。
飛影は自らも太刀を抜き放ち、それに沿わせて炎を無限に展開させることによって火之迦具土神を追い詰める。
炎が巨大な天使の翼のように広がり、無数の頭を持つ龍のように自在にうねる。
炎の神は自らも呼び出した金色の炎で黒い炎を防御し、玉座の前を離れて飛影と手合わせを始める。
周囲は灼熱地獄だ。
永夜が結界を張り、自分と弟、昔なじみの妖狐の身を護る。
キン、と双方の剣が鳴る。
火之迦具土神が、ふう、と息を吐く。
「思った通りにすぐに我が力を使いこなしているな。だが、まだまだだ」
「フン。貴様の力だろうが」
飛影が嘲る。
「それはそうだ。だがな、飛影、力にも段階がある」
自分の剣を凌ぎながら不意にそんなことを言い出す火之迦具土に、飛影は怪訝そうな顔。
「どういう意味だ」
「リンクには、深度に基づく段階がある。そなたは現在、深度1の私とのリンク状態。これはわかったか?」
「ほう」
飛影は狂暴に笑う。
「深度がもっと深いリンクもあると?」
「そういうことだ。今の状態から、もっと深いリンクを提供するのには、条件がある。そなたにとっても良い条件が」
あくまで穏やかな火之迦具土神の物言いに、飛影は静かになっていく。
すっと、剣を引く。
「それはどういう条件なんだ。さっさと言え」
火之迦具土は笑う。
「私には、炎の眷属が多い」
ふと、幽助が思い出したように。
「あ、さっきのフザけたちょうちょ野郎とかか!!」
「左様。炎也も我が眷属。その炎也はじめ、三柱の眷属を打ち破り、支配下において欲しい。その眷属はそなたに譲るし、一柱ごとにリンクを一段階深めよう」
火之迦具土神の言葉に、飛影はわずかに考え込んだだけだ。
「下等妖怪を支配下に置くよりは面倒そうだが、まあいい。やってやろう。軀への土産にくらいはなるだろう」
火之迦具土はうなずき、永夜に顔を向ける。
「永夜。そなたに案内を頼みたい。ただし、眷属の者たちと飛影との戦いに、直接手出しすることは禁ずる。戦いの合間に傷を治すなどの行為は許可する。どうだ?」
永夜は、丁寧に一礼する。
「承りました。御意に」
幽助は息せききって火之迦具土に尋ねる。
「なあ、俺もちょっと手伝っていいのか?」
「それは許可するが」
やや苦笑気味に、火之迦具土は言葉を紡ぐ。
「多分、戦力にはならない。大人しく見ていた方が良かろうな」
蔵馬は不満げな幽助の肩に手を置く。
「飛影の新たな出発だ。俺たちは見守れるだけでいいんじゃないかな。多分、自分の宿神を宿す時の参考になる」
「そんなもんかねえ」
「そんなもんさ」
やがて、四人はその場を辞する。
十分しないうちに、その姿は空の上、撃の背中にある。
◇ ◆ ◇
「なあ、兄貴」
幽助は撃の背中で、兄に呼び掛ける。
「あの炎也って奴、どこに住んでんだ?」
「蝶だからね。花園にお住まいだ。普通の花園とは違う炎の花園だが」
永夜が口にするや、眼下に不思議な光景が広がる。
「あれは……?」
蔵馬は不思議そうに、眼下に逆向きの星空のように広がる小さな炎の集合を見下ろす。
「あれが『星火(せいか)の原』。炎の花園であり、炎也様の領地ですよ」
永夜は、撃に合図し、そのまま下りていく。
無数の燃える花が咲き乱れる場所へ。