螺旋より外れて
「うわっ、うわあああ、わあっ!!!!」
桑原が裏返った絶叫を張り上げる。
彼の目の前で、愛する人と家族が変わり果てた姿に……
いや。
そうなる途中である。
麗しい健康的な皮膚を引き裂いて現れたのは、青黒い表皮を持つ、奇怪極まる怪物である。
いや、単純に怪物と言うべきか。
その姿の上部には、元々の姿、つまり雪菜と静流の姿がある。
しかし、下半身に当たる部分は異様だ。
雪菜は蛸のような触手の肢が生え、静流は百足のような昆虫の肢が並んでいる。
それとは別に触覚のような肢も蠢いており、半ば人の部分があるだけに、それはとにかく生理的嫌悪を誘う不気味さを放つ。
「静流さん!? 雪菜ちゃん!? これは……!!」
蔵馬も流石に唖然としている。
幽助はショットガンの構えを見せ、飛影は眠気も吹っ飛んだ様子で刀を構えている。
「なんでだ、俺たちが人間界を出発する時、二人とも桑原ん家にいたじゃねーか!!」
幽助は混乱を隠せない。
目くらましかと思ったが、変わり果てた彼女らからは、確かにそれぞれの霊気と妖気が感じられるのだ。
いつの間に彼女らはこんな姿にされたのか。
「どいつでもいい。元の姿に戻せる奴を探すまでだ。まずは無力化しろ!!」
飛影が叫ぶ。
彼自身はそうした技は不得手だ。
仲間の能力に期待するしかない。
「仕方ない、これで……!!」
蔵馬は手の中に淡い金色の花を呼び出す。
その花粉がふわり漂い、渦を巻いて雪菜と静流に纏いつくが、しかし、二人ともいともたやすくそれを振り払う。
くいと上げた雪菜の触手から、ごうごうと音を立てて渦巻く吹雪が押し寄せる。
咄嗟に避けた四人組+1だが、参道の地面はスケートリンクに転用できそうなほどにぴしりと凍り付いている。
「ああ、これは……」
永夜が霊力の帳を解除しながら呟く。
「くっ!! 静流さん、しっかりしてくれよ!!」
幽助は、静流に攻撃されながら叫ぶ。
虫の肢の先端からは、高密度の熱線が飛来し、幽助を追い詰めている。
S級妖怪となった彼でも、油断ならない熱線の波状攻撃である。
「おい、蔵馬!! さっさと二人を大人しくさせろ!!」
飛影が冷凍光線を避けながら叫ぶ。
雪菜はもっぱら飛影と桑原を相手取ることに決めたらしく、触手を蠢かせながら彼らに吹雪と冷凍光線を放つ。
飛影には致命傷であるし、彼女を攻撃できない桑原には対処し難い攻撃である。
「ちっ……くしょおおおおおぉぉ!!」
霊剣を傘のように広げて冷凍光線を避けながら、桑原は苛立ちのままに叫ぶしかない。
「くっ……!! 駄目か!!!」
幽助が放った霊丸は、あっさり雪菜に弾かれる。
まるで霊気や妖気に反発する何かが肉体に仕込まれているように、無力化を狙った幽助の霊丸やショットガンは軽く弾かれて空気に溶けてしまうばかり。
「兄貴、何とか……!!」
振り返った幽助が、さっきから何も仕様としない永夜を捉える。
『え?』
幽助はきょとんとするしかない。
永夜は、まるで「駄目だ、そのまま」と言うように、幽助に向かって首を横に振ったのだ。
どういうことだ!?
幽助が一瞬更に混乱した時、いきなり桑原が絶叫と共に突進し始める。
「うりゃあああああああああぁぁ!!!!」
幽助も、蔵馬、飛影もぎょっとする以外に何もできぬ間に。
霊剣で吹雪をさばいた桑原が、半ば雪菜の姿の怪物を、脳天から真っ二つに唐竹割にする。
誰も何も言う暇もないその間。
振り向いた桑原が、今度はその姉の姿となっている怪物を、巨大な霊気棒で叩き潰したのだ。
一瞬。
そこには、何も残さず。
ほんの一瞬で、雪菜と静流は消えている。
「桑原!! 貴様ァ!!」
飛影が彼の胸倉を掴もうとするや、桑原は妙に落ち着き払って、その手を抑える。
「落ち着け、飛影。はっきりわかった。あれは、雪菜さんと姉貴じゃねえ。多分、ここの神さんの誤魔化しだ」
「なに……」
飛影は大きな目を瞬かせるばかり。
「だってよ、明かに邪悪な気配を放ってるんだぜ、あの化け物ども、よく考えて見な。雪菜さんと、キツイけど一般人の俺の姉貴が、そんな風になると思うか?」
そう言われた飛影は思わず固まり、首をわずかに振って逡巡する様子。
言われてみれば、おかしなことばかりと今までのことを思い返す。
雪菜がどういじくられようと、邪悪な気配を放つなどありようはずもない。
つまり。
あの怪物どもは、完全に雪菜と静流の姿を借りただけの別物。
「そうです。よくお気づきになりましたね、桑原さん」
永夜が、穏やかに桑原に歩み寄る。
「え、法師様。わかっておいでだったんですか?」
蔵馬が珍しく非難するような響きで問いかける。
永夜はかすかに申し訳なさそうに。
「騙したような結果になったのは申し訳ありません。でも、ここの主宰神である経津主神から思念で連絡が入りましてね。自分を宿神とする者に試練を課すから、お前は手出しをするなと」
「なんだよ!! 早く言ってくれよ!!」
幽助は疲れた様子で膝に手を衝く。
「くそっ、舐めやがって!! さっさとその経津主とやらのところへ連れていけ、永夜!!」
飛影が叫んだ、その時。
「うえっ!? おおい、なんだなんだ!?」
桑原が頓狂な声を上げたのも道理。
いきなり目の前の参道が消え、何か豪壮な石造建造物の内部へ、全員が転移させられている。
木造だったら、神社建築に近いものがあると、何となく誰もが感じたであろう様式。
周囲の壁に、様々な剣の文様が華麗に描き出されている。
天井は髙く、やはり彩色で飾られているのが見える。
「よくやった、カズマ。そなたは、我が剣を受け取るに相応しい男だ」
広間の奥の、やはり石造りの玉座。
そこに、大柄で、顔に無数の傷が走る目の光の強い若者が、足を組んで鎮座していたのだ。
桑原が裏返った絶叫を張り上げる。
彼の目の前で、愛する人と家族が変わり果てた姿に……
いや。
そうなる途中である。
麗しい健康的な皮膚を引き裂いて現れたのは、青黒い表皮を持つ、奇怪極まる怪物である。
いや、単純に怪物と言うべきか。
その姿の上部には、元々の姿、つまり雪菜と静流の姿がある。
しかし、下半身に当たる部分は異様だ。
雪菜は蛸のような触手の肢が生え、静流は百足のような昆虫の肢が並んでいる。
それとは別に触覚のような肢も蠢いており、半ば人の部分があるだけに、それはとにかく生理的嫌悪を誘う不気味さを放つ。
「静流さん!? 雪菜ちゃん!? これは……!!」
蔵馬も流石に唖然としている。
幽助はショットガンの構えを見せ、飛影は眠気も吹っ飛んだ様子で刀を構えている。
「なんでだ、俺たちが人間界を出発する時、二人とも桑原ん家にいたじゃねーか!!」
幽助は混乱を隠せない。
目くらましかと思ったが、変わり果てた彼女らからは、確かにそれぞれの霊気と妖気が感じられるのだ。
いつの間に彼女らはこんな姿にされたのか。
「どいつでもいい。元の姿に戻せる奴を探すまでだ。まずは無力化しろ!!」
飛影が叫ぶ。
彼自身はそうした技は不得手だ。
仲間の能力に期待するしかない。
「仕方ない、これで……!!」
蔵馬は手の中に淡い金色の花を呼び出す。
その花粉がふわり漂い、渦を巻いて雪菜と静流に纏いつくが、しかし、二人ともいともたやすくそれを振り払う。
くいと上げた雪菜の触手から、ごうごうと音を立てて渦巻く吹雪が押し寄せる。
咄嗟に避けた四人組+1だが、参道の地面はスケートリンクに転用できそうなほどにぴしりと凍り付いている。
「ああ、これは……」
永夜が霊力の帳を解除しながら呟く。
「くっ!! 静流さん、しっかりしてくれよ!!」
幽助は、静流に攻撃されながら叫ぶ。
虫の肢の先端からは、高密度の熱線が飛来し、幽助を追い詰めている。
S級妖怪となった彼でも、油断ならない熱線の波状攻撃である。
「おい、蔵馬!! さっさと二人を大人しくさせろ!!」
飛影が冷凍光線を避けながら叫ぶ。
雪菜はもっぱら飛影と桑原を相手取ることに決めたらしく、触手を蠢かせながら彼らに吹雪と冷凍光線を放つ。
飛影には致命傷であるし、彼女を攻撃できない桑原には対処し難い攻撃である。
「ちっ……くしょおおおおおぉぉ!!」
霊剣を傘のように広げて冷凍光線を避けながら、桑原は苛立ちのままに叫ぶしかない。
「くっ……!! 駄目か!!!」
幽助が放った霊丸は、あっさり雪菜に弾かれる。
まるで霊気や妖気に反発する何かが肉体に仕込まれているように、無力化を狙った幽助の霊丸やショットガンは軽く弾かれて空気に溶けてしまうばかり。
「兄貴、何とか……!!」
振り返った幽助が、さっきから何も仕様としない永夜を捉える。
『え?』
幽助はきょとんとするしかない。
永夜は、まるで「駄目だ、そのまま」と言うように、幽助に向かって首を横に振ったのだ。
どういうことだ!?
幽助が一瞬更に混乱した時、いきなり桑原が絶叫と共に突進し始める。
「うりゃあああああああああぁぁ!!!!」
幽助も、蔵馬、飛影もぎょっとする以外に何もできぬ間に。
霊剣で吹雪をさばいた桑原が、半ば雪菜の姿の怪物を、脳天から真っ二つに唐竹割にする。
誰も何も言う暇もないその間。
振り向いた桑原が、今度はその姉の姿となっている怪物を、巨大な霊気棒で叩き潰したのだ。
一瞬。
そこには、何も残さず。
ほんの一瞬で、雪菜と静流は消えている。
「桑原!! 貴様ァ!!」
飛影が彼の胸倉を掴もうとするや、桑原は妙に落ち着き払って、その手を抑える。
「落ち着け、飛影。はっきりわかった。あれは、雪菜さんと姉貴じゃねえ。多分、ここの神さんの誤魔化しだ」
「なに……」
飛影は大きな目を瞬かせるばかり。
「だってよ、明かに邪悪な気配を放ってるんだぜ、あの化け物ども、よく考えて見な。雪菜さんと、キツイけど一般人の俺の姉貴が、そんな風になると思うか?」
そう言われた飛影は思わず固まり、首をわずかに振って逡巡する様子。
言われてみれば、おかしなことばかりと今までのことを思い返す。
雪菜がどういじくられようと、邪悪な気配を放つなどありようはずもない。
つまり。
あの怪物どもは、完全に雪菜と静流の姿を借りただけの別物。
「そうです。よくお気づきになりましたね、桑原さん」
永夜が、穏やかに桑原に歩み寄る。
「え、法師様。わかっておいでだったんですか?」
蔵馬が珍しく非難するような響きで問いかける。
永夜はかすかに申し訳なさそうに。
「騙したような結果になったのは申し訳ありません。でも、ここの主宰神である経津主神から思念で連絡が入りましてね。自分を宿神とする者に試練を課すから、お前は手出しをするなと」
「なんだよ!! 早く言ってくれよ!!」
幽助は疲れた様子で膝に手を衝く。
「くそっ、舐めやがって!! さっさとその経津主とやらのところへ連れていけ、永夜!!」
飛影が叫んだ、その時。
「うえっ!? おおい、なんだなんだ!?」
桑原が頓狂な声を上げたのも道理。
いきなり目の前の参道が消え、何か豪壮な石造建造物の内部へ、全員が転移させられている。
木造だったら、神社建築に近いものがあると、何となく誰もが感じたであろう様式。
周囲の壁に、様々な剣の文様が華麗に描き出されている。
天井は髙く、やはり彩色で飾られているのが見える。
「よくやった、カズマ。そなたは、我が剣を受け取るに相応しい男だ」
広間の奥の、やはり石造りの玉座。
そこに、大柄で、顔に無数の傷が走る目の光の強い若者が、足を組んで鎮座していたのだ。