螺旋より外れて
雷禅と軀、そして、食脱医師と飛影、永夜と幽助が、雷禅の客間のいかにも魔界風の調度のソファに車座になる。
目の前には茶と菓子が並べられているが、誰もそれに手を付ける余裕はない。
何か、とんでもないことが開陳されようとしている。
幽助はじめ、事情を知らなかった軀も飛影も息を詰める様子で聖果の説明に聞き入る。
「幽助は、コエンマ殿あたりから、『正聖神党』というものについて聞かされたことはあるか?」
母の聖果に、幽助は首をかしげる。
「『正聖神党』……? 政党? いや、知らねえ、そんなの。俺、未成年だぞ?」
「政党ではない。人間界の言葉で言えば、過激派のカルト集団ということになるな。もっとも、今でこそカルト扱いじゃが、その昔には霊界の思想の主流派だったのじゃが」
聖果が苦い表情を見せたことに、幽助は不穏な思いを抱く。
恐らく、そのナントカ神党というのは、相当タチが悪いのだろう。
だが、霊界のカルト集団が、三界を揺るがす危機というのは、いささか大げさではないのか?
「つうことは、結界を張ったのも、そいつらってことか?」
雷禅が質問を挟む。
「それが大きな成果じゃったようじゃな、奴らにとってはな。その後、穏健派にとって代わられるも、今現在でも霊界の中枢にかなりの数の信徒がいると、永夜が調べ上げておる」
聖果がちらと上の息子を見やると、雷禅も鋭い目で彼を見据える。
「本当か、永夜」
「ええ。だって、正聖神党は、今も消滅していないのです。あの苛烈な弾圧が特徴の霊界の中にあって、中枢部にもかなりの信者がいるのは確認しております。霊界の通常では、こんなことはあり得ない。恐らく、現閻魔大王はじめ、意図的に活かしておきたい勢力がいるのです」
永夜が淡々と事実を述べると、軀が更に質問をさしはさむ。
「その正聖神党とやらは、ちらっと聞いたことがある。確か、霊界にとっての選民思想が先鋭化したやつじゃなかったか。自分たちは選ばれた民で、魔界も人間界も好きにしていいと……フザけた話だ。しかし、霊界でさえ主流派を退いた正聖神党が、人間界はまだしも、魔界に手出しできるのか」
聖果はきっぱりうなずく。
「できる。というか、している。正聖神党そのものではなく、その、更に母体というべき存在がな」
「母体……だと?」
飛影が赤い目を底光らせる。
「そうじゃ。正聖神党と呼ばれているものは、その母体の奴らの、霊界での顔の一つに過ぎぬ。奴らは、三界を通じて、様々な仮面をつけて活動している。宗教団体が多いが、通常の政党や結社の類など、様々なものに化けて、三界に潜り込んでおる」
聖果は淡々と、説明を重ねていく。
「それらの言うことは、結局のところ一つ。『他人を犠牲にしてでも我欲を貫け』ということじゃ。むしろ、積極的に『自らの我欲の生贄となる者』を確保するよう促す。この邪悪な教えの根本となるのは、ある神への信仰なのじゃ」
「なんだそれ。そんなカミサマって、いんのかよ?」
そもそも、霊界探偵かつ霊光波動拳継承者なのに、宗教関係には全く明るくない幽助であるが、流石にそんな話は聞いたこともなかった。
大昔ならいざ知らず、そんなものが今の世の中、存続を許されるものなのだろうか。
聖果の目が、ふっと翳る。
「一般人は知ることもない。いや、そもそも、あれを『神』と呼ぶのも適当ではないかも知れぬが、神に匹敵する力を持つことは確かなのじゃ。……あれの名前は、ない。いや、あるのかも知れんが、誰も知らぬ。ただ、『呼ばれざる者』『あれ』とだけ、我らの間に伝わる」
「……永いこと生きてはきたが、初耳だぜ」
雷禅が唸る。
畏れているというより、闘志を掻き立てられている表情。
「『呼ばれざる者』の教団は、様々な形で三界それぞれの社会に潜り込んでいる。その中核となるのは、本尊の『呼ばれざる者』の魂を分け与えられ、いわば『小さな邪神』のようになった者たち。要するに、我や永夜と同じ、『神の分霊を身に受け入れた者』なのじゃ」
幽助がはっと息をのむ。
「待てよ。自分の信仰してるカミサマの魂だかを宿した兄貴が、親父をノしたことがあんだろ!? なら、その『呼ばれざる者』の手下って奴らも、親父より強いのか!?」
反応したのは、三竦みのうち二人。
「俺が昔聞いたことと一致すんな。永夜は密教の修法で、S級妖怪を凌ぐ力を手に入れた。なら、別の宗派の奴が似たようなこともできる訳だ」
雷禅はにやりとして、何か思案する様子。
「どうして対抗したもんかこれ」
「嬉しそうじゃねえか、雷禅。ようやく、全力で打ち合える奴が出てきたと、顔に書いてあるぜ」
軀に揶揄されて、雷禅は更に口角を上げて禍々しいような笑み。
「おうよ。だが、全力出しても倅にも勝てないんじゃ、どうしようもねえ。何か……」
が、食脱医師は静かに諫める。
「まあ、待て、二人とも。ことは、そう単純ではない。神仏の分霊にあずかった人間、というのは、その分身のようなものになる。そして、神仏は次元が違う存在。つまり、そなたらがどれだけ鍛えても、そもそも次元が違う神仏の分身に、打撃は通じないのだ」
爆弾発言。
それを聞いて色めき立ったのは、幽助と飛影である。
「えっ、なんだそれ!! 絶対勝てねえってことか!!」
「貴様、魔族であっても、何かそれを超えるやり方があるはずだ。吐け」
詰め寄られても、聖果は平然としている。
いらだったのは雷禅の方である。
「おい、てめえら、俺の女にエラソーにすんじゃねえ!!」
収拾付きそうにないなと思ったものか、永夜が発言を求める。
「これ以降は戦いのことになりますから、わたくしから説明いたします。順を追って説明いたしますから、『呼ばれざる者』に対抗したい方、よくお聞きください」
目の前には茶と菓子が並べられているが、誰もそれに手を付ける余裕はない。
何か、とんでもないことが開陳されようとしている。
幽助はじめ、事情を知らなかった軀も飛影も息を詰める様子で聖果の説明に聞き入る。
「幽助は、コエンマ殿あたりから、『正聖神党』というものについて聞かされたことはあるか?」
母の聖果に、幽助は首をかしげる。
「『正聖神党』……? 政党? いや、知らねえ、そんなの。俺、未成年だぞ?」
「政党ではない。人間界の言葉で言えば、過激派のカルト集団ということになるな。もっとも、今でこそカルト扱いじゃが、その昔には霊界の思想の主流派だったのじゃが」
聖果が苦い表情を見せたことに、幽助は不穏な思いを抱く。
恐らく、そのナントカ神党というのは、相当タチが悪いのだろう。
だが、霊界のカルト集団が、三界を揺るがす危機というのは、いささか大げさではないのか?
「つうことは、結界を張ったのも、そいつらってことか?」
雷禅が質問を挟む。
「それが大きな成果じゃったようじゃな、奴らにとってはな。その後、穏健派にとって代わられるも、今現在でも霊界の中枢にかなりの数の信徒がいると、永夜が調べ上げておる」
聖果がちらと上の息子を見やると、雷禅も鋭い目で彼を見据える。
「本当か、永夜」
「ええ。だって、正聖神党は、今も消滅していないのです。あの苛烈な弾圧が特徴の霊界の中にあって、中枢部にもかなりの信者がいるのは確認しております。霊界の通常では、こんなことはあり得ない。恐らく、現閻魔大王はじめ、意図的に活かしておきたい勢力がいるのです」
永夜が淡々と事実を述べると、軀が更に質問をさしはさむ。
「その正聖神党とやらは、ちらっと聞いたことがある。確か、霊界にとっての選民思想が先鋭化したやつじゃなかったか。自分たちは選ばれた民で、魔界も人間界も好きにしていいと……フザけた話だ。しかし、霊界でさえ主流派を退いた正聖神党が、人間界はまだしも、魔界に手出しできるのか」
聖果はきっぱりうなずく。
「できる。というか、している。正聖神党そのものではなく、その、更に母体というべき存在がな」
「母体……だと?」
飛影が赤い目を底光らせる。
「そうじゃ。正聖神党と呼ばれているものは、その母体の奴らの、霊界での顔の一つに過ぎぬ。奴らは、三界を通じて、様々な仮面をつけて活動している。宗教団体が多いが、通常の政党や結社の類など、様々なものに化けて、三界に潜り込んでおる」
聖果は淡々と、説明を重ねていく。
「それらの言うことは、結局のところ一つ。『他人を犠牲にしてでも我欲を貫け』ということじゃ。むしろ、積極的に『自らの我欲の生贄となる者』を確保するよう促す。この邪悪な教えの根本となるのは、ある神への信仰なのじゃ」
「なんだそれ。そんなカミサマって、いんのかよ?」
そもそも、霊界探偵かつ霊光波動拳継承者なのに、宗教関係には全く明るくない幽助であるが、流石にそんな話は聞いたこともなかった。
大昔ならいざ知らず、そんなものが今の世の中、存続を許されるものなのだろうか。
聖果の目が、ふっと翳る。
「一般人は知ることもない。いや、そもそも、あれを『神』と呼ぶのも適当ではないかも知れぬが、神に匹敵する力を持つことは確かなのじゃ。……あれの名前は、ない。いや、あるのかも知れんが、誰も知らぬ。ただ、『呼ばれざる者』『あれ』とだけ、我らの間に伝わる」
「……永いこと生きてはきたが、初耳だぜ」
雷禅が唸る。
畏れているというより、闘志を掻き立てられている表情。
「『呼ばれざる者』の教団は、様々な形で三界それぞれの社会に潜り込んでいる。その中核となるのは、本尊の『呼ばれざる者』の魂を分け与えられ、いわば『小さな邪神』のようになった者たち。要するに、我や永夜と同じ、『神の分霊を身に受け入れた者』なのじゃ」
幽助がはっと息をのむ。
「待てよ。自分の信仰してるカミサマの魂だかを宿した兄貴が、親父をノしたことがあんだろ!? なら、その『呼ばれざる者』の手下って奴らも、親父より強いのか!?」
反応したのは、三竦みのうち二人。
「俺が昔聞いたことと一致すんな。永夜は密教の修法で、S級妖怪を凌ぐ力を手に入れた。なら、別の宗派の奴が似たようなこともできる訳だ」
雷禅はにやりとして、何か思案する様子。
「どうして対抗したもんかこれ」
「嬉しそうじゃねえか、雷禅。ようやく、全力で打ち合える奴が出てきたと、顔に書いてあるぜ」
軀に揶揄されて、雷禅は更に口角を上げて禍々しいような笑み。
「おうよ。だが、全力出しても倅にも勝てないんじゃ、どうしようもねえ。何か……」
が、食脱医師は静かに諫める。
「まあ、待て、二人とも。ことは、そう単純ではない。神仏の分霊にあずかった人間、というのは、その分身のようなものになる。そして、神仏は次元が違う存在。つまり、そなたらがどれだけ鍛えても、そもそも次元が違う神仏の分身に、打撃は通じないのだ」
爆弾発言。
それを聞いて色めき立ったのは、幽助と飛影である。
「えっ、なんだそれ!! 絶対勝てねえってことか!!」
「貴様、魔族であっても、何かそれを超えるやり方があるはずだ。吐け」
詰め寄られても、聖果は平然としている。
いらだったのは雷禅の方である。
「おい、てめえら、俺の女にエラソーにすんじゃねえ!!」
収拾付きそうにないなと思ったものか、永夜が発言を求める。
「これ以降は戦いのことになりますから、わたくしから説明いたします。順を追って説明いたしますから、『呼ばれざる者』に対抗したい方、よくお聞きください」