雑多文庫
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今日は絶え間なく雨が降り続く日で、ぶ厚い雲が光を奪い、まだ昼時だというのに夜のように暗かった。
でも咲き乱れた紫陽花が綺麗だったので雨の中を散歩していると、高専の近くにある墓地に行き着いてしまった。
職業病だなと思いながら私は呪いの匂いが漂う花道に誘われていく。
「消えなさい」
墓地に彷徨う呪いにそう囁いて次々とこの世から姿を消していく。
自分が発した言葉に力を持つ者は呪言師と呼ばれ、本来であれば普段話す言葉を制限されてしまう。
簡単に言葉で人を呪えてしまうが、いつかその言霊は自分に返ってくるらしく、呪いに対して使っていた私の言葉の代償はあと寿命半年といったものだった。
何の気なしに死に場所を探していると、道の先には珍しい先客がいて私は目を疑った。
「こんな時間に偶然会うなんて珍しいですね、七海さん」
「今は昼休みですから」
「高専に行ったと五条さんから聞きました」
「ええ。総じて労働はクソだということがよく分かった次第です」
白色のスーツに蝙蝠のような真っ黒な傘。
丸いサングラス越しに私を見る心情は読めない。形式的な物言いにすらりとした佇まいは五条さんとは対照的だが彼と同じく食えない男だ。
「あなたも死に場所を探していたのですか?」
七海さんが私に聞いてきた。あなたも、ということは彼も探していたのだろうか。
見たところぴんぴんしているけれど、呪術師という仕事上いつ自分も死ぬか覚悟をしているといったところなのだろう。
私は赤と白の太いラインが入った和傘をくるくると回しながら、回答をしばらく考えた。
はぐらかすか、本当のことをいうか、まあ彼にとってはどちらでもいいのだろうけれど。
その辺にあった紫陽花を一輪ぽきりと折った。「枯れろ」というと瞬く間にそれは生きる力を失って枯れていく。
私も彼も無情にもじっと其のしおれた紫陽花を見ていた。咎める気も諭す気もないだろう。
「私の寿命はあと半年だそうです。」
そういうと、七海さんはしばらく言葉を失っていた。ぽいと捨てられた紫陽花は雨に打たれて砂利の中に埋まっていった。
かちゃり、とサングラスをかけ直し、大きなため息をつく。
「美人薄命とはよく言ったものですね」
「またまたご冗談を。五条さんに影響されましたか?」
「あの人とは一緒にしないでいただきたい」
ぽたぽたと和傘から雫が垂れてきて、私の袖を濡らした。
これだから着物は嫌なのだと思うのだが、それなりの家柄なのだから仕方がないとあきらめる。
紳士な七海さんがネイビーのハンカチを渡してくれた。お礼を言って受け取ると、七海さんからふわりと柑橘系の匂いがした。
そのあとも、絶え間ない雨のノイズが私たちの沈黙をかき消してくれて不思議と居心地が悪い感じはしなかった。
「リンさん」
「なんでしょう」
七海さんが右の頬を少し掻いた。普段真っ白い病的な顔色をしているというのに、今はほんのりと紅色を帯びている。長い間、雨に打たれて風邪でもひいてしまったのだろうか。
「今度、お茶でも」
私は目をぱちぱちと動かして、ほほ笑んだ。五条さんはともかく、七海さんがお茶に誘ってくるなんて珍しい。
明日はきっと雨ではなく雹が降るだろう。
「ええ。その時にハンカチ、お返しいたしますね」
そういったあと私は自分の発言に後悔した。この言葉もきっと呪いがかかっている。
返さないと私はまた寿命を減らしてしまうのだろう。
と、思ったのだけれど、その約束は一生かなうことはなく、”今度”の日が来るまでに私も七海さんも死んでしまうのだった。
でも咲き乱れた紫陽花が綺麗だったので雨の中を散歩していると、高専の近くにある墓地に行き着いてしまった。
職業病だなと思いながら私は呪いの匂いが漂う花道に誘われていく。
「消えなさい」
墓地に彷徨う呪いにそう囁いて次々とこの世から姿を消していく。
自分が発した言葉に力を持つ者は呪言師と呼ばれ、本来であれば普段話す言葉を制限されてしまう。
簡単に言葉で人を呪えてしまうが、いつかその言霊は自分に返ってくるらしく、呪いに対して使っていた私の言葉の代償はあと寿命半年といったものだった。
何の気なしに死に場所を探していると、道の先には珍しい先客がいて私は目を疑った。
「こんな時間に偶然会うなんて珍しいですね、七海さん」
「今は昼休みですから」
「高専に行ったと五条さんから聞きました」
「ええ。総じて労働はクソだということがよく分かった次第です」
白色のスーツに蝙蝠のような真っ黒な傘。
丸いサングラス越しに私を見る心情は読めない。形式的な物言いにすらりとした佇まいは五条さんとは対照的だが彼と同じく食えない男だ。
「あなたも死に場所を探していたのですか?」
七海さんが私に聞いてきた。あなたも、ということは彼も探していたのだろうか。
見たところぴんぴんしているけれど、呪術師という仕事上いつ自分も死ぬか覚悟をしているといったところなのだろう。
私は赤と白の太いラインが入った和傘をくるくると回しながら、回答をしばらく考えた。
はぐらかすか、本当のことをいうか、まあ彼にとってはどちらでもいいのだろうけれど。
その辺にあった紫陽花を一輪ぽきりと折った。「枯れろ」というと瞬く間にそれは生きる力を失って枯れていく。
私も彼も無情にもじっと其のしおれた紫陽花を見ていた。咎める気も諭す気もないだろう。
「私の寿命はあと半年だそうです。」
そういうと、七海さんはしばらく言葉を失っていた。ぽいと捨てられた紫陽花は雨に打たれて砂利の中に埋まっていった。
かちゃり、とサングラスをかけ直し、大きなため息をつく。
「美人薄命とはよく言ったものですね」
「またまたご冗談を。五条さんに影響されましたか?」
「あの人とは一緒にしないでいただきたい」
ぽたぽたと和傘から雫が垂れてきて、私の袖を濡らした。
これだから着物は嫌なのだと思うのだが、それなりの家柄なのだから仕方がないとあきらめる。
紳士な七海さんがネイビーのハンカチを渡してくれた。お礼を言って受け取ると、七海さんからふわりと柑橘系の匂いがした。
そのあとも、絶え間ない雨のノイズが私たちの沈黙をかき消してくれて不思議と居心地が悪い感じはしなかった。
「リンさん」
「なんでしょう」
七海さんが右の頬を少し掻いた。普段真っ白い病的な顔色をしているというのに、今はほんのりと紅色を帯びている。長い間、雨に打たれて風邪でもひいてしまったのだろうか。
「今度、お茶でも」
私は目をぱちぱちと動かして、ほほ笑んだ。五条さんはともかく、七海さんがお茶に誘ってくるなんて珍しい。
明日はきっと雨ではなく雹が降るだろう。
「ええ。その時にハンカチ、お返しいたしますね」
そういったあと私は自分の発言に後悔した。この言葉もきっと呪いがかかっている。
返さないと私はまた寿命を減らしてしまうのだろう。
と、思ったのだけれど、その約束は一生かなうことはなく、”今度”の日が来るまでに私も七海さんも死んでしまうのだった。
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