キバナさんと彼女シリーズ
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ダンデに、「彗星みたいな女がいる」と言われた。そいつは新しく面白いものを見つけた顔でガキのように嬉々として語っていた。
可愛くて珍しいポケモンばかり使っているカントーだかジョウトだかから来た絶世の美女で、話をしているうちにいつの間にか消えていたと。アーマーガーに乗らずに違う地方のギャロップに乗って旅をしているなどとふざけたことも言っていた。
オレさまは正直興味なかった。そんな見てくれを気にする女も興味なければ、他の地方から来た女も別に興味がない。今のオレさまに求めるのはただ強い奴、それだけだった。
あいつの言葉を右から左に聞き流して数日後、その女が目の前に現れた。
真っ赤な炎の鬣を靡かせるギャロップから降りて、その柔らかそうな唇がうっすらと微笑み、オレさまに一言、「バトルしましょう」と。
結果、完敗だった。
ダイマックスを使うまでもなくその女は美しさと強さで観客たちに素晴らしいバトルで魅了した。そして、マリルリとかいう水タイプの悪魔が見た目に似合わずオレさまの相棒たちを蹂躙した。
正直、ダイマックスを使わずに負けるなど屈辱を受けたのは初めてだった。その時沸きあがった感情は怒りだったか恥辱だったかよくわからない。しかし、その圧倒的な強さを目の前にしてオレ様は初めて女に執着した。
何度も何度も再戦を申し込んでは、負けた。諦めないオレさまにダンデがついにオレ様がおかしくなったかと心配していたが至って正常だった。その女に対する執着心以外は。
そして、いつの間にか彼女はこの町から消えていた。バトルフィールドでしか会ったことがなかったから名前も知らなかった。
女などオレさまの前では掃いても沸いて出てくるほど困らない存在だったのに、あれから魂が囚われたようにその女以外興味がなくなった。
なのに、あれからその女に会うことは一度もなかった。あいつの言ったとおりまさに“彗星みたいな女”だ。
あれだけ強ければ、どこかで目立っていてもおかしくはなかった。妙に胸騒ぎがした。
年に一度、チャンピオンカップというリーグチャンピオンの座をかけた大会がある。ダンデはそれに挑戦すると言っていた。今のチャンピオンは滅多に顔を出さずメディアでも取り上げられたことがなかった。
それもあって、SNSではチャンピオンカップのことで密かに盛り上がりを見せていた。男だか女だか、老人だという者もいれば年端もいかないガキだという者もいた。
いつもならオレさまの人気は集中していたはずなのだが、今年は謎の現チャンピオンで話題は席巻していた。
チャンピオンカップの前座としてジムリーダーが挑戦者の相手をする。オレ様もその例外ではない。しかしダンデと戦うのは楽しみだった。
フィールドに集められたオレさまたちは現チャンピオンの到着を待つ。謎に包まれた現チャンピオンのこともあり、会場は満席だった。観客もメディアも今か今かと気を揉んでいる。
早く来ねえかなと思っていると、リーグの通路からコツコツと高い蹄の音が鳴った。
炎の鬣を靡かせて、芝生の上を悠々と歩くギャロップ。
まさか、と思い全身が総毛だった。ギャロップの背中に跨る彼女は、誰もが息を飲むほど美しく気高い女王の風格が漂っていた。
すっと降りて、その女王はオレ様を一瞥する。ずっと乾いた喉が求める一滴の水のごとく、彼女を欲していたことに気が付いた。
「はじめましょうか」
彼女の一言で会場にいた観客の盛り上がる声がわっと沸き上がる。メディアも美しく気高い現チャンピオンの存在にフラッシュが鳴りやまない。
ああ、この女が欲しい。誰もが羨むような高嶺の花を自分だけのものにしてしまいたい。そして、自分だけに見せないような笑顔が見られたら。
「・・・絶対勝てよ、ダンデ」
おそらく長らくの好敵手だったあいつを応援したのは後にも先にもこの一回きりだっただろう。
あいつに負けた彗星のような女王に手を差し伸べるまで、あと、