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ユリウス様に新しい団の団長に任命された私とヤミ。
逸早くこのことをしばらく会えていないリンに報告をしようと思っていると、ユリウス様が「強力な助っ人を用意した」と朗らかな微笑みを携えて言った。
ユリウス様の「入りなさい」という言葉とともに側近のマルクスが執務室の重厚な扉を開ける。扉から上質なベルベットの深紅のマントが先に目に入った。
部屋に入ってくるその姿が露になり思わず息をのむ。深紅のマントに黒いショートドレスを纏う細くしなやかな肢体。プラチナブロンドの美しく絹のような髪はシニヨンに纏め、光の精霊が彼女の周りを揺らめいた。
美しい深海の宝石のような瞳が私とヤミを見据える。
あの陽だまりの中にいるような純粋で包み込むような温かさを持つ彼女の面影は消え、まるで氷の女王のように、息をのむような美しさと気高さ、そして幾分か疲労が見える表情は激動の波に飲まれた結果であることを物語っていた。
少し現を抜かしていたが、彼女の名前を呼ぶと、恭しく彼女は胸に手を当て頭を下げ、ユリウス様の口が開いた。
「そう、君たちと死線を潜り抜けた、『伝説の聖女』リンだ。
彼女は僕直属の回復魔法魔導士のトップリーダーだったが、魔法騎士団への再入団を依頼した。
とはいえ、彼女の力はどの団にも喉から手が出るほど必要だ。なので、1年交代で彼女の加護を受ける団をこれから決めていこうと思う」
「で、幸運にもトップバッターはオレらどちらかの団ってワケね――――――どうやって決めるんだ?じゃんけんか?」
「うーん、リンはどうやって決めたい?」
「それぞれの団の方針を聞いてから、神の導きに従いますわ」
彼女の声はひどく落ち着いていた。いつもなら人目を憚らず私かヤミに飛びついて歓喜の声を上げていたようなものだが・・・
リンの言葉にユリウス様は頷いて、ヤミにこれから新しく束ねる団のの方針を訪ねる。
「ヤミ、君はどんな団を作る?」
「どんな団?そうだなあ―――立場や、出自・・・身分など関係なく、はぐれ者や暴れん坊を集めて、居場所を作ってやりたい。
旦那がオレにしてくれたようにな。名前は・・・そうだな、色んな奴が混ざって、それぞれの色で濁って、全員の色が一つになって―――“黒”
黒色の暴れん坊・・・いや暴れ牛だな!『黒の暴牛』団だ!」
「『黒の暴牛』団・・・うん、君にぴったりだ!―――君は?ウィリアム」
今度は私の方をユリウス様が見据えた。リンと目が合い、彼女の深海の瞳が揺れる。
「私は『金色の夜明け』団を作ります。」
「金色の・・・?」
「はい、最強の団を作るのが、ユリウス様への恩返しとなる。文字通り、この世界に金色に輝く夜明けをもたらす、そのための団にします。
暗黒のような夜といえども、陽の光が差し、いつか必ず明けると証明して見せます」
「そりゃちょっと臭すぎねえか?」とつぶやくヤミ。ユリウス様は朗らかに笑い、リンの表情は変わらず笑顔を失っていて、虚空を見ていた。
「それも素敵だねえ。期待しているよ。今日から君は、『金色の夜明け』団の団長だ。おめでとう、ウィリアム」
「はい」
「今日から君は、『黒の暴牛』団の団長だ。おめでとう、ヤミ」
ユリウス様が私とヤミそれぞれに握手をしてくださり、そのあとリンの所属する団の決定を伺った。リンは何も書かれていないトランプカードに二つの団の名前を書き、光の精霊にカードを託す。精霊はくるくると私達の周りを旋回したのち、空の中へと消えていった。
「なに、今からあの精霊は神様のとこ行って聞いてくるって感じ?」
「それが神の代弁者としての役割ですから」
「正直言ってうちの団やめといたほうがいいって。一番神様から見放されそうな団になる予感するし。」
「私が決めることではありません、ヤミさん」
「ったく・・・てめえは変わっちまったなあリン」
「確かに少し・・・雰囲気が変わったね」
「何も変わってないですよ」
そう言ってリンは私を見据えた。濁った瞳から透明な光が浮かぶ。頬を伝うその涙に私は言葉が出なくなった。
この場に誰もいなかったら、彼女の涙を掬ってその細い肢体を抱きしめていただろう。そして、彼女をここまで追い詰めた者を聞きだしてその存在を抹消していたかもしれない。
だがそれも叶わず、一枚のカードを持って戻って来た光の精霊を見つめた。ユリウス様もヤミも彼女を見つめる。
彼女は『黒の暴牛』と書かれたカードをめくった。
「『黒の暴牛』団――――――神の導きにより、私はこの団に所属いたします」
自分の目と耳はそれを疑った。ユリウス様も、ヤミも、リンでさえ目を丸くしている。きっとここにいる誰もが、『金色の夜明け』を選ぶであろうことを予想していたから。
彼女には何度も助けられていたというのに、私は彼女にとって無力な存在だった。
王貴族が暗殺者を用意してリンの命を四六時中狙っていると聞き急いでリンのもとへ行ったが、彼女は長期の間不在にしていた。
不思議に思い回復魔導士に事情を聴くと、ユリウス様の拝命で王族のメレオレオナ・ヴァーミリオンとともに魔宮に長期任務に出かけていたそうだ。
ユリウス様によって彼女の命は救われ、長期任務から帰ってきた彼女は、すでに魔法騎士の助けなどいらないほど強くなっていた。
新団長就任の儀も終わり、魔法騎士団本部の廊下を歩くリンの姿を見つけた私は彼女を呼んだ。ベルベットのマントを揺らし振り返る彼女は、薄い唇が弧を描きどこか艶を感じさせる笑みを私に向ける。
「ウィリアムさん・・・いえ、ヴァンジャンス団長。新団長就任、おめでとうございます。」
恭しく首を垂れる彼女。『灰色の幻鹿』の副団長になったときは、私の首に抱き着いて自分のことのように喜んでくれていた。
しかし団長になった今では形式的で、無機質で、氷のように冷たい。
彼女に向かって刺された無数の言葉の刃に、彼女の心労は限界を迎えて、心が死んでしまったのかもしれない。
喜びの涙も、満面の笑みも、今では枯れてしまったのかただ儚く微笑むようになってしまった。
「ありがとう。ヤミの相手は大変だろうけど・・・頑張るんだよ」
そう言うと、彼女は何も言わず頷く。深海の瞳は涙で揺れて、私を見据えた。
どくりと胸が大きく鳴った。ああ、本当はずっと辛いんだろう。今にでも、『金色の夜明け』に連れ去ってしまいたい。
そして、昔のような陽だまりのような無邪気な笑顔が戻り、薔薇園の中にいたときのように幸せな世界を見せてあげられたら。
「おいおい、そこにいたのかよ『伝説の聖女』サマ。さっさと行くぞ」
ヤミがこちらをちらりと見てリンに話しかける。彼はどこか勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。私が思わず彼女を抱きしめようと手を挙げた右手が虚空を描き、元の位置に戻る。リンが振り返ってヤミのもとへと足早に駆けていく。それを待つヤミは、いつもより男らしく自信が溢れているように見えた。
窓から魔法騎士団本部から出た二人を見下ろす。その歩く二人の道の脇には、回復魔導士や魔法騎士達が彼らを一目見ようと人だかりができていた。
無理もない、新団長に就任したての大魔法騎士と、回復魔導士の頂点の女が並んで歩いていたら嫌でも目立つだろう。人々のその歓声と尊敬の眼差しはまるで英雄の凱旋のようだ。
もし神の采配が『金色の夜明け』になっていたら彼女の隣で歩いていたのは自分だったかもしれないと思うと、嫉妬で我を忘れてしまいそうだった。
ヤミの隣で歩く彼女の浮かない顔を見ていると、見上げたリンと目があったような気がして、少し視線を逸らす。
しかし彼女の視線の先が気になってもう一度見ると、やはり視線は絡まったまま。彼女に心の全てを見透かされていそうで、金色の仮面を深く被り直した。
こちらをひらひらと手を振る彼女を呼ぼうと口を開いたが、ヤミのもとへ走っていってしまう姿を見て、その口を閉じる。
どんどん小さくなっていく二人の背中を見つめて、長年くすぶっている彼女への思いをつぶやいた。
「好きだよ」
誰にも聞かれないように、そっと。
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