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翌日――――
自分の部屋に戻ったら疲れからか瞬殺で寝入ってしまった私は、鳥のさえずりと窓から差す朝日にあてられて目を覚ました。
二度寝しようと思ったが寝つきが悪く、渋々と起き上がって、ウィリアムさんに貰ったハート王国の櫛を髪に通した。
寝癖でぼさぼさの髪の毛がそれを通すと、艶を持ってきらきらと美しく朝日に照らされ輝くのでこの櫛には何か魔法が宿ってるのではないかと思ってしまう。
ウィリアムさん・・・昨夜の挙動不審な態度で彼を困らせてしまっただろうか・・・とにかく何事もなかったかのように振るわないと、私の心が持たない。
化粧と着換えを済ませて、部屋を出る準備をしていると、コンコンと扉のノック音が聞こえた。ウィリアムさんだろう。
「おはようございます――――あれ、魔法騎士団の姿に戻っちゃったんですか?」
金色の仮面を被ったウィリアムさんが微笑んで私を見据えていた。
「あの姿はあまり落ち着かなくてね」とウィリアムさんは苦笑する。もう荷物をまとめたらしく、あとは私が出てチェックアウトを済ませるだけなようだ。
もっとあの平界の姿を見て居たかったのになあと残念そうに言うと、ウィリアムさんは頬を掻いて「二人でいるときは、あの姿になるよ。色々と人の目をかいくぐれそうだし」と言ってくれた。
宿屋を出て再び“小瓶の部屋”へと向かう。一人は魔法騎士団のローブを着た男、一人は平民の姿をした女――――二人で歩くとそれは異様で目立つそうで、道行く人たちにぶつぶつと噂をされているようだった。
道中、私は小瓶の話をする。昨日はまともにウィリアムさんに喋ることはおろか見ることもできなかったが今日は大丈夫そうだ―――
「あの液体・・・口に入れた瞬間、色々なマナが混じった感じがしました。それに鼻についたのは鉄の匂い―――」
「・・・なるほど・・・」
金色の仮面を被った彼は、顎に手を当てて考える。ヤミさんのように勘が鋭く、ユリウス様のように頭がさえている彼はおのずと答えを出してしまうだろう。彼の答えを待っていると、考えていた彼の口が動いた。
「この液体に自分の幻影魔法を混ぜて、人を虜にして、その人を生贄とし、さらに悲劇を生み出す・・・」
そう・・・“神の雫”とやらで願いを叶えたシスターに狂信者がつき、願いが叶うという噂が町中に広がって、新たな狂信者を増やし・・・さらなる願いを叶えるための儀式的なものを行う。
しかしその儀式は“神の雫”を作るための生贄・・・その生贄になった村人は液体の血を抜かれて次第に消えていったといったところが妥当だろう。
CLOSEと書かれた看板をさげた“小瓶の部屋”にたどり着く。ウィリアムさんが気に留めることなく扉を世界樹魔法で無理やりこじ開けた。
しんと静まり返ったその店に入ると、むせかえるような血の匂いが鼻について顔をゆがめる。
においの先は左の儀式の行われていた部屋だ。思ったよりもその部屋は奥行きがあり、天井につきそうな巨大な鍋が部屋を陣取っていて、どうやらそこから血の匂いが蔓延しているようだった。おそらく“消えた”人々の贄があの中に入っているのだろう。
「これで私は一攫千金・・・ふふふ、魔法騎士団の殿方とも契約はできたし将来は安泰ってものよね――――」
私達の存在に気付いていないらしく、純白の修道服を着たシスターは自分の周りに散らばる金に目がくらみぶつぶつとつぶやいて札束を数えていた。
「一人分のマナの血は微弱なれど100人分のドラッグに変わる・・・!ふふふ、この町が一つ潰れてくれたらもう働かなくても食べていけるドラッグが作れるわ・・・!」
札束を見つめながら壊れたように嗤う彼女を見ながら、ウィリアムさんに「どうします?」と呆れ半分で聞いた。こほんとウィリアムさんは咳払いをする。
「話は聞かせてもらったよ」
やっと気付いたらしいシスターは、ぎらぎらと私達を見つめて、「あら?」と首を傾げた。瞳孔が開いていて首を傾げられても怖いだけで何も可愛らしくないぞ。
「・・・あなたは、魔法騎士団・・・?と、先日の可憐なお嬢さんじゃない、夜はぐっすり眠れたかしら?」
ひらひらと手を振るシスター。ええ、おかげさまで夢見心地になりました。彼女は狼狽える私をみてくすくすと笑う。魔法騎士団が目の前にいても焦る様子もない姿は、何か奥の手を隠しているらしい。
「幻影魔法に一度かかったものは抜け出せない―――――あなたに、大切なお嬢さんは守れるかしら?」
彼女の魔導書が開かれて、魔法を唱えられた瞬間、私の視界が急に真っ暗になった。隣にいたはずのウィリアムさんはいなくなっていて、そこにいたのは私を攻撃しようとしてくる王貴族だった。
「っ――――――」
「リン、これは幻影魔法だ・・・!!まさか・・・」
「町中の市民があなたを敵だと思っているわよ。ふふふ」
Side William...
リンが私を見て恐怖に満ちた顔で私から逃げる。幸いだったのは彼女に攻撃魔法を持っていなかったところか。町中の多量のマナがこちらに向かってきているのを感じた。おそらく、彼女のように幻影魔法をかけられた市民が私のことを何かしらの敵だと思い、攻撃してくるのだろう。
だから魔法騎士団を見ても動じなかったのか・・・おそらく私でないと、この魔法の餌食になってしまっていたことだろう。
「全く・・・ユリウス様の采配には感服するよ・・・」
世界樹魔法 ミスティルテインの大樹を発動し、町中にかけられた幻影魔法を吸い取る。絶対に負けることなど予想していなかっただろう、純白の修道服を身に纏ったシスターの顔が歪んだ。
幻影魔法が解かれて、ふらっと体が倒れるリンを抱きとめる。
「・・・ウィリアムさん」
「大丈夫かい?リン」
「私、また幻影魔法にかかっていたなんて・・・」
「体に残る限り影響はあるからね・・・もう吸い取ったから安心していい」
リンが体勢を整えたところで、次はこちらの攻撃の番だ。相手は睨みつけるだけでこちらを攻撃してこない。あの幻影魔法は何か媒体がない限り、幻影魔法を使えないといったところだろう。
世界樹魔法 ドラセナの方陣を発動し、ミスティルテインの大樹から伸びる気の枝がシスターの体を捕縛した。逃さないようにぎりぎりと締め付けるが、シスターの余裕を思わせる微笑みは途切れることがなく違和感を覚える。
「私が物を媒介しなければ魔法が使えない・・・?笑わせてくれるな!!幻影魔法・・・」
何かを発動する前に、どの魔法よりも早い光魔法が私とリンを覆った。彼女の絶対防御の魔法は幻影魔法ですら効果を無効化するらしい。
「いま、なんか言いました?」
そう言って不敵に微笑むリンに、唖然とするシスター。彼女は相手にする敵を間違えたようだ・・・紛い物ではなく本物の聖女の魔力は神々しく、気高い。
「お姉さん、私達をなめすぎですよ。逮捕します」
レリーフも描かれていない純白の魔導書と、リンに纏う光の精霊を見て、シスターは目を大きく開いた。
『伝説の聖女』の逸話を知らないものはこのクローバー王国にはいないだろう。
「その姿・・・その魔導書・・・その精霊・・・!!!おまえは・・・『伝説の聖女』・・・」
「お勤めご苦労様でした。こんなに神の使いって胡散臭いことがよくわかりました。勉強になったなあ」
そう言って、何やら王都に向かって光の精霊を放った彼女は、おそらくユリウス様に任務完了の報告をしているのだろう。程なくして帰って来た光の精霊と何か心を通わせて、私に「空間魔導士がこちらに来るから、空間魔法でシスターを投げ入れろ、とのことです」と告げた。
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空間魔法で捕縛した偽物のシスターを引き渡し、連行されていった姿を見つめる。王都に戻った私とウィリアムさんに、ユリウス様が迎えに来て、私の平民の姿を見ては「可愛い可愛い」と抱き着いてこようとしたので鳩尾に一撃加えた。
「・・・任務ご苦労様、ヴァンジャンス君、リン君・・・何か変わったことはなかったかい・・・」
変わったこと、と言われると先ほどの言っていたシスターの言葉が気になる。
「・・・“魔法騎士団と契約した”なんて呟いてませんでした?」
「・・・そうだね」
その言葉にぴくりと眉を動かして、団長の顔になったユリウス様が「・・・魔法騎士団の誰かが裏でシスターと繋がっていたのか」と考えをめぐらせる。とりあえず今日はゆっくりと休むといいと言われて、その場は解散になったが、黒幕が明るみになることなくなんとも歯切れの悪い任務で終わってしまった。
誰もいない廊下で私の前をウィリアムさんが歩く。昨日の幻影魔法がやはり気になってしまって、ウィリアムさんを呼び止めた。
振り返って、微笑みながら私を見るウィリアムさんに胸がきゅっと苦しくなる。「好き」その二文字なのに私は勇気を持って言うことはできなかった。
「・・・お疲れさまでした」
ごまかすように、苦し紛れにでたその言葉に、ウィリアムさんは頷いて再び歩き始める。
マントを靡かせて、だんだんと小さくなっていく背中が見えなくなるまで、私はその姿を見送った。自分の頬に流れていた涙に気付くのは、彼が見えなくなってからだった。