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魔法騎士団入団試験。それは、年に一度、齢15となった少年少女が魔導書を与えられてから入団資格を得る選抜試験。
『灰色の幻鹿』に入ってから私はユリウス様の右腕として、毎年見学に行かせてもらっていたのだが、今日は王都拠点のアジトに黒髪のいけ好かないあいつがいた。
新しい闇魔法の習得のため修業をしているらしく、アジトの壁に向かって闇魔法を何度も放っている。壁に穴が開いたら困るからやめてもらいたいのだが・・・なんて思っていると、仕事に区切りがついたユリウス様が待ち合わせの場所のアジトの正門にやってきた。
「お待たせー!二人とも!今日はどんな面白い魔法の応襲が見れるか楽しみだね。」
「あの・・・ユリウス様。お言葉ですが、何故彼もいるんですか」
「社会見学だよ、王都の方はあまり来ないようだからね、彼」
彼の闇魔法が落ち着くまで待っていようと、手鏡を出してウィリアムさんにもらったハート王国の可愛らしい櫛を髪に通していると、私の手から突然何かが消えた。
はらはらと髪の毛数本が次元から“消えた”ように切れてしまっている。持ち手の部分以外、貰った櫛がそこから無くなっていた。
何がなんだか状況がわからなくて目を丸くしていると、「あ・・・わりぃ、闇魔法そっちいった」とヤミさんが闇魔法の暴発で櫛を“消した”ことを理解した。
「え~~~~~!!ヤミ!!すごい、すごいよ~~~~!!新しい闇魔法覚えたのかい!?もっとよく見たいなあ!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・殺す」
目をきらきら輝かせるユリウス様をスルーして、殺気を纏った私は、ヤミさんのところへとずんずんと向かっていく。
その肩をぽんと叩かれた。マナからわかる。ウィリアムさんだ。しかし私は目の前にいるこいつが許せない。
「落ち着きなさい、リン。こういう時こそ慈悲を与えるべきだろう」
そう耳打ちするウィリアムさん。世界樹魔法で私の足首と腕に蔓が絡みつき、ヤミさんに光魔法を放つ手を止めていた。
「ウィリアムさんから貰った大切にしていた櫛なのに・・・大切にしてたのに・・・・!!!!」
「私はその気持ちだけで嬉しいよ」
悔しくて何もできない今のふがいない私に、次第に涙の膜が私の視界を覆い、鼻水が垂れてくる。ぐすぐすと泣き出す私を慰めるウィリアムさんは、私を覆って背中をさすってくれる。全然反省していないような顔でべっと舌を出してるヤミさんが憎たらしい。
一言文句を言いたかったのだが、しゃっくりが出てきて鳴りやまなかったのと、ユリウス様がしつこくヤミさんに付きまとっていたせいで私は何も言えなくなっていた。
その状況を理解してくれていたのはウィリアムさんだけで、少し困った顔で頭を撫でてくれる。本当に同い年かこの人は。
「ユリウス様、そろそろ魔法騎士団入団試験が始まる時間です。」
「おや、そうだねヴァンジャンス君。じゃあ私がここにいない間は頼んだよ・・・・ところで、リン君は泣いた顔してどうしたんだい?」
「・・・・もう何でもないです」
ウィリアムさんから離れて、首を傾げるユリウス様のもとへと向かう私。
泣き腫らした顔を見られたがもうそんなことはどうでもいい。相変わらずの仏頂面のヤミさんを睨みつけてしばらく口を聞いてやらないと固く誓った。
ウィリアムさんに見送られて魔法騎士団入団試験の会場についた。
屋台が多く立ち並び、騎士団を志す少年少女が続々と会場に足を運び、それを人々は応援していた。ヤミさんとしばらく口を利きたくない私は彼らから離れて屋台をぶらぶらと歩いていると、『碧の野薔薇』のローブを着た者たちとすれ違い振り返ると、シャーロットの姿がいたので呼び止める。
『碧の野薔薇』の団長が先に行ってるぞと言って会場に入っていき、悪かったかなと思いながらその場はシャーロットと私だけになった。
「なんだ、お前も来ていたのかリン」
「うん、ユリウス様・・・あ、ノヴァクロノ団長に連れられてね。今日ヤミさん来てるよ」
そう言うと、彼女は顔を真っ赤に染めて、明らかに動揺しながらどもり声で「何を言い出すんだ急に!!」と私の肩を掴んでぶんぶんと振り回した。
齢18でローズレイ家の呪いを受けたシャーロット。それを救ってくれたヤミさんのことを話す彼女の顔は、まさに恋する乙女のようで、相談に乗っているうちにやっと自分の気持ちに気付いたらしい。
大切な櫛を葬り去った一件でかなりヤミさんのことを恨んで気落ちしている私は、シャーロットに私の代わりでヤミさんの相手をするようお願いして、特にやることもないだろうし『灰色の幻鹿』のアジトに戻ることにした。
帰路の途中で、王貴界のとあるアクセサリーショップで何か選んでいるウィリアムさんを発見し、窓からこっそりその様子を見つめた。
ユリウス様にお留守番を任されといて出歩くとはウィリアムさんもやるなと思いながら、その動向を探る。あれはウィリアムさんの瞳の色をしたアメジストのイヤリングだ。
きらきらと輝くその繊細で美しいイヤリングを満足そうに手に持って、店員さんに会計を終える彼を終始見ていて、私は疑問に思った。いったい誰にあげるんだ?
もやもやと心の中で黒い感情が沸き上がる。相手が知らない女の人で、それを喜ぶ女性と愛おしそうに見つめるウィリアムさんの優しい顔など想像すると胸が押しつぶされそうで息がまともにできなくなった。
ウィリアムさんが出てくる前に、アクセサリーショップから離れて、ふらふらと帰路に戻る。
魔法騎士団入団試験で盛り上がりを見せる街の人々に苛立ちを覚えた。ヤミさんのことは思いだすとむかつくし、ウィリアムさんのことを考えると胸がきゅっとなるし、今は浮かれた気分じゃないんだ私は。
会場へと楽しそうに向かう人々に背を向けて、とぼとぼと歩いていると、背後から私の名前を呼び留めるよく聞きなれた声が聞こえた。
振り返ると、金色の仮面を被ったウィリアムさんが、困ったように眉を下げて微笑んで、ゆっくりとこちらにやってくる。
「だめじゃないか、ユリウス様とヤミと入団試験に行く予定だっただろう?」
「だめじゃないですか、ウィリアムさん。ユリウス様からお留守番頼まれてたのに」
今の私は少々気が立っていて、ウィリアムさんに対しても攻撃的な口調になってしまった。かといって彼は何も悪くないと平静を取り戻した私はすぐに「・・・ごめんなさい」と謝る。
苦笑した彼は私の手をひいて、『灰色の幻鹿』のアジトに向かう道を歩いた。だんだんと行きかう人々が少なくなって、街も静けさを取り戻す。
「リン、目を瞑って」と言われて、訝し気に見つめると「何も怪しいことはしないよ」とおどけてみせるウィリアムさん。
両耳に何かをつけられる感覚に違和感を覚えつつ、「いいよ」と言われて目を開けた。
手鏡をポケットから出して自分の顔を見つめると、先ほどウィリアムさんがアクセサリーショップで手にしていたアメジストのイヤリングが私の耳に掛けられていたのだ。
「・・・ウィリアムさん、これ・・・」
「櫛の代わりにはならないけれど・・・君に似合うと思って」
照れたように頬を掻くウィリアムさんに驚く私。きらきらと輝く美しいアメジストは私には不釣り合いだけれど・・・とても嬉しかった。
「ウィリアムさん、ありがとう・・・!!ずっと大切にします。次はヤミさんなんかに消されないようにしないと・・・」
「行っておいで。ユリウス様にあとで怒られるよ」
私も今から何事もなかったように帰るから、と続けて言うウィリアムさんと、何か秘密を共有しているようでくすくすと笑い合った。そろそろ魔法騎士団入団試験が始まる時間だ。ウィリアムさんに手を振って私は光魔法を使って急いで会場へと戻った。
どうやらぎりぎり間に合ったらしい。会場の二階に上ると、団長たちが勢ぞろいしていた。
ユリウス様が私の変化にすぐに気付いて朗らかに「素敵なイヤリングだね、リン」と言ってくれた。
ヤミさんがちらっと横目で私を見るなり面白くなさそうに舌打ちをして、会場に目を移した。何だあの態度はいつかぶっ倒してやる。
しかし、しばらく経てばそんなことどうでもよくなるくらい私はずっと機嫌が良かった。
このイヤリングと櫛までもが、私の居場所を掴むための魔力探知機だったということは、数年後ヤミさんに破壊されるまで知る由もなかった。
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心配性のウィリアムさんとそれを面白くないと思っているヤミさん