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翌日、自我を取り戻して体力も回復したシャーロットが『金色の夜明け』に現れたらしく、団員たちに「リンを出せこの野郎」と脅し回って荊魔法までつかって来たため血相を抱えた団員に私は呼び出された。
ウィリアムさんの書類の整理を手伝っていた私は、そのことを聞いて顔をしかめる。
シャーロットがこうやって私を呼び出すときは十中八九ヤミさんのことかウィリアムさんのことだと相場は決まっていた。
溜まった書類に筆を走らせるウィリアムさんが「行っておいで」と微笑むが、特に仕事に区切りがついたわけでもないしと思い悩む。
なんとかしてウィリアムさんの負担を軽くするため、「1時間で帰ってきますね」と告げて、顔色の悪い団員達に連れられてシャーロットのもとへ向かった。
「あの時のことは何も覚えていないのだ・・・!でもなぜかヤミと・・・前よりいい感じになった気がした」
だんっとシャーロットがビールジョッキを片手に机を殴った。騒ぎ出すシャーロットを引っ張って金色の夜明けから飛び出すように駆け込んだ大衆居酒屋だ。真っ昼間だというのに大盛況だった。
がやがやと騒がしいので誰にも聞かれることはないだろうと思っていたが、シャーロットの存在はわりと目立つようで、聞き耳を立てている者はいないかひやひやとしていた。
「あんま覚えてないんだよな―――」というと、シャーロットはぐわんぐわんと私の肩を揺らして、「思いだしてくれ!あの場にいたリンだけが頼りなんだ!」と必死にすがる思いで聞いてきた。
団員たちの前や団長会議の時はいつも冷静でほとんど感情を表に出さない彼女なのに、なぜ私の前ではこうも感情的でバイオレンスで一生懸命になるんだ可愛いなあとほほえましく思った。信頼関係のある友人は大事だ。
しかし1時間で帰るとは言ったものの話は長くなりそうで・・・これは彼女のためにも夜中に女子会を開くしかないかと提案する。
「ごめんねシャーロット。もっと話を聞いてあげたいのは山々なんだけど仕事が立て込んでて・・・よかったら今日の夜中、女子会しない?美味しいお菓子とお酒用意するから、ね?」
「じょ・・・女子会・・・!?・・・いいが、うちの団はちょっと色々と壊れていて貸せないぞ」
壊れていたというよりエルフ化していたあなたが壊しまくったんでしょうとため息をついた。まあそう言うことは隠しておきたいんだろうなと思い気にしないことにする。
「私の部屋、ちょっとリッチになったから人呼べるんだ。ねえ見たい?」
そう言うと、目を輝かせ少女のような笑顔でシャーロットが「見たい!!」と即答した。あの冷徹な女団長の面影はどこへやら。
「よし、決まり!じゃあ22時に『金色の夜明け』に来てくれたら私の部屋に通すよう門番に伝えとくわ。あとでねシャーロット」
今日は私のおごりと言ってシャーロットのビール代を払った私は席を立った。少ししょげる彼女も可愛いがあとで会えると頭を撫でて後ろ髪ひかれる思いで大衆居酒屋をあとにする。
天気のいい晴れやかな昼下がり。皆街の復興に力を入れ、私も何かできることはないか考えたのち、海底神殿でカホノがやっていた疲労回復の魔法を模してみようと光創生魔法を王都全土に張り、光の花吹雪を振らせた。
「お、この光創生魔法はリン様じゃないか・・・!」「この光の花に当たると元気が湧いてくるぞ、さすが聖女様。ありがとう!」
大人たちは私に気付いて手を振ってくれたし、子供たちはその花吹雪を追いかけたり食べようとしたり無邪気な笑顔を見せてくれる。
このクローバー王国もまだまだ捨てたもんじゃないなと思いながら、ウィリアムさんの好きそうなお茶菓子を買って『金色の夜明け』に戻ったのだった。
『金色の夜明け』に戻りウィリアムさんのいる執務室へ行くと、仮面を置いてソファで仮眠をとるウィリアムさんが見えた。
紅茶とお茶菓子を出すのはあとにしようと思い、ブランケットを持ってきてウィリアムさんにそっとかける。
すると、その私の腕を掴むウィリアムさん。「狸寝入りは感心しませんよ」と私が言うと、うっすらとアメジストの瞳を開けたウィリアムさんが「今起きたところだよ」なんて都合のいいことを言って微笑んだ。
腕を引っ張られてソファの上でウィリアムさんの体の上を跨る私。もし他の団員たちが入ってきたらこの状況をなんと説明しようかと瞳を泳がせた。
「あの・・・心臓持たないんで降りていいですか」
「ふふ、離さない」と意地悪く微笑むウィリアムさんは態度さえ穏やかで紳士的なのに、捕まれた腕を離してもらえず全然取り合ってくれなかった。もうどうにでもなれと自分を預ける。とくとくと規則正しく聞こえてくる彼の心臓の音と温かい体の熱に少し微睡んでしまった。
「今日の夜中シャーロットと女子会するんです。他の団員も来て盛り上がっちゃったらすみません」
「女子会・・・?」
「女性だけでお菓子やお酒を持ち込んで、専ら恋愛話と噂話で盛り上がる会です。」
「そういえばリンはシャーロット・ローズレイと仲良かったね。彼女が恋愛話に興味あるとは思わなかったが・・・」
「ふふ、ウィリアムさん。まだまだ彼女のことわかってないですね~彼女は強くて冷たそうに映りますけど本当はとっても可愛らしくて、純粋で恥ずかしがり屋さんで・・・」
嬉しくなった私はシャーロットの話を続けていると、ウィリアムさんの胸板に体を預けていた私の視界はくるりと反転した。
気づけば私はウィリアムさんに跨られていて、こつんとおでことおでこがくっついた。アメジストの両眼に捕らえられた私は言葉を止めてしまった。
「リンをこんな嬉しい顔にさせる彼女に、少し嫉妬してしまったよ。」
「嫌でしたか?」
「全然。君の大切な友人だからね」
そして私の唇に優しく口付けを落としてくるウィリアムさん。女子会は私も参加できないかな?と聞いてきたので、女子じゃないのでダメですと一蹴した。
少し残念そうな顔をして、彼は私の頭を優しくなでる。腫れ物を触るかのように優しくなでられていると、なんだか眠くなってこの後の仕事のことなんてどうでもよくなりそうだった。
そんなとき、扉の外からノック音が聞こえて私達は猫のように飛び上がる。
乱れた髪と服を整えて、応答すると任務の報告に来る団員たちが見えた。今までいちゃついていたなんて絶対に言えない。
ウィリアムさんはウィリアムさんでいつの間にか仮面を被っていつもどおり書類に目を通してペンを走らせていた。光魔法でも使ったのかと思うほどその動きは俊敏だった。
団員からの報告を受けたウィリアムさんはさすが団長の顔になっていて、てきぱきと次の指示を出している。
話を聞いているとアスタ君が悪魔を宿していることで数日後裁判に掛けられるだろうという情報もあり、整理する書類の動きを止めてしまった。
僅かな時間、ウィリアムさんと視線が絡み合う。おそらく私は、今後アスタ君を巡る市民の暴動の火消し作業に追われるのだろうとため息をついた。
団員達が報告を終えて執務室を出ると、ウィリアムさんは私の名を呼んだ。
「近々、その件で団長会議があるかもしれない・・・その時は君も『金色の夜明け』の顧問として同行してほしい」
「承知しました。あ~早くヤミさんのひいひいとしてる顔が見たいなあ」
団長会議のあと、今までこの仕事は秘書だ秘書だと書類仕事を投げつけてきたヤミさんの顔が早く見てみたい。
私がいたことの有難みを感じてくれるだろうとにやにやしていると、ウィリアムさんが「少し性格が悪くなったね」と言われた。前にもユリウス様に同じようなことを言われた気がする。
溜まっていく報告書の決裁を進めるウィリアムさんを横目で見て、先ほど買って来たお茶菓子でも出してこようと自分の部屋に戻った。
キッチン付きの私の部屋にダージリンの穏やかな香りとマロングラッセの旬な香ばしい香りが広がり鼻腔をくすぐった。
仕事を進めるウィリアムさんの机の脇に紅茶とお茶菓子をそっと置いた。『金色の夜明け』は王貴界から近くの場所にあるので、こういった季節のお茶菓子を手軽に買いに行って楽しめるのもいい。
彼の「ありがとう」という言葉に嬉々としている私だが、仕事の邪魔にならないように一礼して、彼の秘書として読み終わった報告書の整理と、今まで団長不在で溜まっていた騎士団への任務要望書の受理およびスケジュール調整を進め始めるのだった。