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回復魔導士のトップリーダーに選ばれてから数か月。
前魔法帝の計らいで利権を占めていた王貴族出身の回復魔導士を一掃し、
出自関係なく実力で序列を決めた私の采配に反発する保守派と、私のやり方を支持する革新派の派閥で混沌を極めていた。
私の執務室は常に爆発物など何かが仕掛けられているため、同じ階にいる魔法帝ユリウス様に危害を加えず自分の部屋だけに被害が抑えられるよう、部屋内部に防御魔法を施していたが地味にマナを消費するので苛立ちを覚えた。
重要機密書類など誰が見ているかもわからないので常に自分の手で持ち歩き、誰が仕事の話を盗み聞きしているかわからないので全て、光の精霊の通信魔法でやり取りを通して行った。
その徹底したやり方から、保守派の嫌がらせ行為は最悪の事態にはならなかったが、日に日に自分の精神は疲弊していることがわかった。
そんな中、派閥争いが激化していることを耳にしたユリウス様に呼び出されてしまい、私はその執務室に赴いた。
「・・・立場や出自に関係なく実力で決める君のやり方を責めるつもりはないよ。しかし、性急すぎたかもしれないね」
「自分の立場に胡坐をかき、上層部のくせに何もしない王貴族は国の癌です」
「こらこら、そんな言い方はよしなさい」
誰が聞いているかわからないのだから、とまだ大人になり切れていない私はユリウス様に窘められた。
「君には派閥を生み出した責任として、最近出現した強魔地帯の魔宮の制圧を行ってもらう。同行者はメレオレオナ・ヴァーミリオン。入りなさい」
執務室の扉から入って来たのは、赤橙色に輝く長い髪をなびかせて、ヴァーミリオン家特有の赤いアイラインを引いたいかにも強そうな女性だった。
メレオレオナ・ヴァーミリオン・・・王族であるにも関わらず、魔法騎士団に所属することなく圧倒的な強さで自由にクローバー王国を駆け回っていると噂は聞いていたが、ここまで強大なマナを纏っているとは・・・
相当な実力の持ち主だろう、と隣で魔法帝に敬礼する彼女を横目で見た。
「リン。そしてメレオレオナ・ヴァーミリオン。二人にはクローバー王国に最近出現している恵外界の魔宮の制圧と適正管理化の無期限長期任務を言い渡す。」
私はユリウス様の言葉に耳を疑った。無期限長期任務?そんなことは聞いたことはない。その間、回復魔導士はどうなる?派閥争いの真っ只中だというのに私が席を外してしまっては保守派にのされてしまうのではないだろうか・・・
「お言葉ですがユリウス様・・・無期限長期任務・・・ですか?」
「はっ、事実上のクビってことだろう、リンとやら。ま、私とゆっくり長旅でもするといい」
今が一番大事な時だというのに、と拳を強く握った私はユリウス様を睨みつけた。しかし、「なぜそのような任務を言い渡したのですか」と、誰が聞いているかもわからないところで問いただすこともできず、渋々と敬礼して任務を受け入れたのだった。
「リンくん」呼び止められて、私は納得いかない様子で振り返った。眉を下げたユリウス様が少しだけ、昔のような優しい微笑みで「よく頑張ったね」と口だけ動かして、ひらひらと手を振ったのだった。
執務室から出てがっくりと肩を落としていると、ばしっと背中を叩かれた。メレオレオナ・ヴァーミリオン。強大な炎魔法を持つにもかかわらず騎士団に属さなかった王族の異端児。
「・・・これからよろしくお願いいたします。」というと、「私はぬるいやり方は嫌いなのでな。倒れたら置いていく」と言われ、足早に魔法騎士団本部を去っていく後ろ姿を追いかけた。
王都から抜けて森の中の獣道に入ったところで、彼女は立ち止まると長いため息をついた。王族の彼女も今まであとをつけてきた相当数のマナに気づいているのだろう、なぜなら私は暗殺者に狙われている今をときめく回復魔導士のトップリーダーだから。
「・・・オマエ、相当王貴族から嫌われているようだな。」
「助太刀をされてはあなたの家の名も傷つきますよ、メレオレオナ様。」
「案ずることはない、根こそぎ全員燃えカスにしてしまえば事実も隠蔽される」
そういって炎魔法を全身身に纏ったメレオレオナ様は、茂みに隠れていた暗殺者を根こそぎ地獄の業火で焼き払った。大量の亡骸は黒く焦げていて、すでに人の形を失っていた。もはや敵か味方だったか判断もつかないだろう。
数にして20・・・いや30といったところか、さすがに彼女も息を乱しており、魔力の回復を施すと「お前はやはりぬるいな」と一蹴された。消息を残さないように、死体に残った彼女の炎魔法のマナの残滓を消し去ると彼女は一瞬だけ眉を動かして、「・・・さすが魔法帝の愛弟子といったところか・・・ぬかりないな」とつぶやいた。
光の精霊で移動させようとすると制止され、その魔法は目立つから強魔地帯までは獣道で歩いていくと地獄の宣告を受けた私は、前を歩く彼女の後ろをのろのろと歩いた。
・・・・冷静になって考えてみると、ユリウス様が私に無期限長期任務を言い渡した理由がわかる。
私が回復魔導士のトップリーダーとして選ばれた理由は、建前では『伝説の聖女』を広告塔として不足する回復魔導士の拡充、そして魔法騎士団の負担軽減を謳っているが、
本音は革新派派閥の発足のため・・・小さい頃からユリウス様の弟子として格差是正の考えを持った私を回復魔導士のトップに置くことにより、その上層部として権力を握る王貴族の一掃と、それを疑問とする新たな火種を生み出すことを目的とした。
ユリウス様の声に出さない労いの言葉は、私がその任務を全うしたことを意味していたのだろう。
無期限長期任務はある意味で、王貴族からの攻撃を逃れて休暇を楽しめと言っているようなものだ。しかし王都よりも強魔地帯の方が安全とはどういう了見だろうか・・・。
この間に私が播いた新たな火種は、ユリウス様の追い風を受けて大きな業火となり、私達の任務の終了を言い渡す頃には革新派が第一党という状態に仕上げるつもりなのだろうと改めて彼の計画の深淵を見た。
「リン、置いていくぞ」
ぼうっとしていた私が我に返ると、メレオレオナ様は見えるか見えないかのところまで先を行っていた。
彼女と一緒といると休暇も休暇にならないのだけれどとため息をついて、走る彼女の後ろを追いかけるのだった。