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Side Yami...
「おい、聖女様、ついにオレは副団長に就任したぞ・・・ってあれ、」
「リン様なら、つい先日退団されましたよ。」
「はあ?」
わざわざ王都の拠点まで足を運んで、『伝説の聖女』様に自慢しに行こうと思っていたのに、その部屋はもぬけの殻で、団員達が彼女のいた部屋の後片付けをしていた。
聞けばリンはユリウスの旦那の魔法帝就任後、魔法帝直属の回復魔導士の命を受けて退団したとのことだ。
機密情報であり、団員達もそれを知ったのは就任する前日だったらしい。急な事態だったので自分たちも動揺したとそいつらは話していた。
「・・・まじか」
あいつがそれを聞いたらどういう顔をするだろうかと楽しみにしていた心はだんだんと消沈していく。いずれ『灰色の幻鹿』の団長になったら、副団長にでもさせてやろうと息を巻いていたのに。
しかし、何か妙な胸騒ぎがしてアジトを出たオレは、魔法騎士団本部へと先を急いだ。
回復魔導士の知り合いのオーヴェンというおっさんに、リンの様子を聞こうと探しているとちょうど廊下でばったりと居合わせた。
「おいオーヴェンのおっさん、話があるちょっと来てくれ」
人気のいない廊下に移動して、おっさんははあとため息をつく。だいたい話の内容は予想していたのだろう。
「だいたい聞かなくてもわかるよ・・・新しくうちにきたリンという『伝説の聖女』だろう?」
「知ってんなら話が早い、どーなってやがる」
「どうなってるも何も、魔法帝の愛弟子だろ、彼女は。就任後、回復魔導士たちのトップとして早速働きずめだと聞いている」
下っ端のオレにはあまり情報が回ってきてないんだ、すまないねと告げて逃げるように去っていくおっさんの首の根っこを掴んで、オレはリンのいる部屋を聞いた。
聞けばユリウスの旦那のいる部屋と同じ階らしい。警護が厳重だから気を付けるようにと言われたがどこと吹く風だ。そんなの蹴散らしてしまえば問題ない。
しかし、なぜ誰も気づいてねえんだ、魔法騎士と回復魔導士の間の歪を忘れたか。戦場では回復魔導士の力に甘えて、魔法騎士が暴れて好き勝手し放題、それを嫌がる回復魔導士は少なかったはずだ。
元魔法騎士団員のやつが魔法帝の一存でトップに立てばそりゃ不平不満を漏らすやつがたくさん出てくる・・・あいつの心が砕けてないことだけを祈って、リンのいる部屋に向かって走った。
護衛の兵士たちを蹴散らして、廊下を走り切ったオレはあいつのいる扉を勢いよく開いた。
そこには丸い目をして立っているリンと・・・なぜか金ピカヘンテコ仮面団長がそこにいた。
「えっと・・・ヤミさん?」
「奇遇だね。彼女に何か用かな、ヤミ」
よく見ると、リンの顔には泣き腫らした跡があった。どうせあいつのことだ、さっきまでぐすぐすと泣いていたんだろう。
何だかよくわからないが、強い感情の波が押し寄せて「別に」と声を荒げた。ああ、あの金ピカヘンテコ仮面団長にもいらいらするし、泣き腫らすリンの顔がいやに頭に残る。
「じゃあ、私はこれで」と部屋をあとにした金ぴか仮面団長。部屋にはリンとオレだけになった。副団長になっただなんて、今の酷い顔のそいつに言えるわけがなかった。
「・・・噂は聞いてますよ、ヤミさん。副団長になったんですね。おめでとうございます」
「・・・ああ」
知ってんじゃねえか馬鹿野郎。今にも消えてしまいたい、そんな顔でオレを見るな畜生。「何かあったか」と聞いても、彼女が答えるはずもなく。
いつも喧嘩してばっかりのオレが、心配になってきてみたと柄にもないことをそいつに言ってみると、聖女様は振り絞った笑顔で、「元気にやってますよ、安心してください」と思ってもないような嘘を言うのだった。
Side William...
ヤミがやってくる数分前のこと。
ユリウス様の魔法帝就任祝いに魔法騎士団本部に出向いて挨拶を終えた後、彼女の顔を見に行こうと部屋に向かった。薔薇園で曇らせた表情が私の頭から離れず、それからどうも胸騒ぎが収まることはなかった。
今まで受けていた王貴族からの差別を受け、その繊細な心は深く傷ついていたことを知っていたにも関わらず、なぜ私は今まで見てみぬふりをしていたのだろうか。
ノックをしたあと、彼女の答えを聞く余裕も無く扉を開けた。回復魔導士のトップとして用意された広い部屋に、上質で重厚感を持った机がどっしりと構えている。
彼女は机に腰掛けて、写真を見ながら泣いていた。何もいわずにただ涙を流す彼女は、今にも消え入りそうだった。
「え・・・ウィリアムさん・・・どうして、」
「遅くなってすまなかった」
震える彼女を抱きしめる。あれから、あまり食事を取ってないのかもしれない。元々とても線の細い体をしていたのに、さらに細くなってしまったような気がする。
魔法騎士団を退団して、誰も知り合いのいない回復魔導士のトップリーダーに立たされた彼女の心細さ、寂しさを今になって感じた。
そして、副団長になって初めて気づいた、自分の夢だけをひたすら追いかけて、それが彼女を守るためにもつながると信じて周りのことがよく見えていなかったことが。
彼女の手に持つ写真には、彼女と、私と、ヤミとユリウス様が笑って映っていた。『灰色の幻鹿』のいた頃の何気ない写真だ。いつもリンはヤミと会うたびに喧嘩をしてその仲裁に入ったものだと苦笑する。
「もどりたい・・・」かすれた声でつぶやく彼女の気持ちが胸を突き刺す。精神的に参った時は、私が支えてあげたいと思っていたのに彼女の気持ちを支え切れてない自分の無力さを恥じた。
「君を支えるのにふさわしい存在になるには確立した地位が必要だと思って、君の気持ちにちゃんと気づいてあげられなかった・・・すまない」
「何故ウィリアムさんが謝るんですか・・・私がこんなのになってるのは、私の心が弱いせいだからですよ・・・」
泣き腫らすリンの頬には涙でできた道がとめどなくあふれてくる。彼女の幸せな世界ができればいい、そう願えば願うほど、なぜ彼女は泣いてしまうのだろう。
背中をさすっていると、だんだんと落ち着いてきたのか、彼女の震える体はだんだんと収まっていった。
「こんな時に、報告をするのも無粋だとは思うのだけれど」と言うと、リンは潤んだ瞳で私を見つめた。その深海の宝石のような瞳を見ていると、妙に顔に熱を帯びて目をそらしてしまう。
「私とヤミが副団長に就任したよ。・・・ようやくね」
リンは目を大きく開き、先ほど泣いていた顔が嘘のように笑顔が戻ってきた。ころころと表情を変える彼女はなんとも愛おしい。
彼女は自分のことのように嬉しそうに笑って、私の首周りに腕を絡めて抱き着いた。
「本当ですか!!!ウィリアムさん!ああ、ヤミさんにもお祝いの言葉を送らないと!・・・おめでとうございます、副団長!!」
「ありがとう」そう言って笑い合う。私も頑張らないとですね!とリンは自分を奮い立たせていた。
彼女にはもう休んで、私の隣で笑っていてほしいだけなのにと心の中では思っていたが、きっと彼女自身がそれを許さないだろう。私は「そうだね」としか言えなかった。
そんな中、どたどたと廊下を走る音が聞こえて、ノックもせずに扉が急に開かれた。思わず私達は抱き合う腕を放して距離を取る。
ヤミが、ぜいぜいと息をあげて入って来た。『灰色の幻鹿』のアジトから走って来たのだろうか、そしてきっとこの部屋に私がいたことに驚いたのだろう。一瞬だが目を丸くして、私をにらんだ。
「えっと・・・ヤミさん?」
「奇遇だね。彼女に何か用かな、ヤミ」
「別に」
私の言葉に一蹴したヤミに、自分はお邪魔かもしれないと思い部屋を退出する。近くにいて薄々わかっていた、リンと喧嘩するたびに彼自身が彼女に惹かれていることも。
しかし、不幸中の幸いなのかもしれないが、ヤミもリンも自分の心に気付くのに果てしなく疎く、その感情にできれば一生気づかないでほしいと願った。
残念だけれど、世界中の何よりも、リンだけは譲れないんだと彼に心の中で謝って、魔法騎士団本部をあとにした。
「おい、聖女様、ついにオレは副団長に就任したぞ・・・ってあれ、」
「リン様なら、つい先日退団されましたよ。」
「はあ?」
わざわざ王都の拠点まで足を運んで、『伝説の聖女』様に自慢しに行こうと思っていたのに、その部屋はもぬけの殻で、団員達が彼女のいた部屋の後片付けをしていた。
聞けばリンはユリウスの旦那の魔法帝就任後、魔法帝直属の回復魔導士の命を受けて退団したとのことだ。
機密情報であり、団員達もそれを知ったのは就任する前日だったらしい。急な事態だったので自分たちも動揺したとそいつらは話していた。
「・・・まじか」
あいつがそれを聞いたらどういう顔をするだろうかと楽しみにしていた心はだんだんと消沈していく。いずれ『灰色の幻鹿』の団長になったら、副団長にでもさせてやろうと息を巻いていたのに。
しかし、何か妙な胸騒ぎがしてアジトを出たオレは、魔法騎士団本部へと先を急いだ。
回復魔導士の知り合いのオーヴェンというおっさんに、リンの様子を聞こうと探しているとちょうど廊下でばったりと居合わせた。
「おいオーヴェンのおっさん、話があるちょっと来てくれ」
人気のいない廊下に移動して、おっさんははあとため息をつく。だいたい話の内容は予想していたのだろう。
「だいたい聞かなくてもわかるよ・・・新しくうちにきたリンという『伝説の聖女』だろう?」
「知ってんなら話が早い、どーなってやがる」
「どうなってるも何も、魔法帝の愛弟子だろ、彼女は。就任後、回復魔導士たちのトップとして早速働きずめだと聞いている」
下っ端のオレにはあまり情報が回ってきてないんだ、すまないねと告げて逃げるように去っていくおっさんの首の根っこを掴んで、オレはリンのいる部屋を聞いた。
聞けばユリウスの旦那のいる部屋と同じ階らしい。警護が厳重だから気を付けるようにと言われたがどこと吹く風だ。そんなの蹴散らしてしまえば問題ない。
しかし、なぜ誰も気づいてねえんだ、魔法騎士と回復魔導士の間の歪を忘れたか。戦場では回復魔導士の力に甘えて、魔法騎士が暴れて好き勝手し放題、それを嫌がる回復魔導士は少なかったはずだ。
元魔法騎士団員のやつが魔法帝の一存でトップに立てばそりゃ不平不満を漏らすやつがたくさん出てくる・・・あいつの心が砕けてないことだけを祈って、リンのいる部屋に向かって走った。
護衛の兵士たちを蹴散らして、廊下を走り切ったオレはあいつのいる扉を勢いよく開いた。
そこには丸い目をして立っているリンと・・・なぜか金ピカヘンテコ仮面団長がそこにいた。
「えっと・・・ヤミさん?」
「奇遇だね。彼女に何か用かな、ヤミ」
よく見ると、リンの顔には泣き腫らした跡があった。どうせあいつのことだ、さっきまでぐすぐすと泣いていたんだろう。
何だかよくわからないが、強い感情の波が押し寄せて「別に」と声を荒げた。ああ、あの金ピカヘンテコ仮面団長にもいらいらするし、泣き腫らすリンの顔がいやに頭に残る。
「じゃあ、私はこれで」と部屋をあとにした金ぴか仮面団長。部屋にはリンとオレだけになった。副団長になっただなんて、今の酷い顔のそいつに言えるわけがなかった。
「・・・噂は聞いてますよ、ヤミさん。副団長になったんですね。おめでとうございます」
「・・・ああ」
知ってんじゃねえか馬鹿野郎。今にも消えてしまいたい、そんな顔でオレを見るな畜生。「何かあったか」と聞いても、彼女が答えるはずもなく。
いつも喧嘩してばっかりのオレが、心配になってきてみたと柄にもないことをそいつに言ってみると、聖女様は振り絞った笑顔で、「元気にやってますよ、安心してください」と思ってもないような嘘を言うのだった。
Side William...
ヤミがやってくる数分前のこと。
ユリウス様の魔法帝就任祝いに魔法騎士団本部に出向いて挨拶を終えた後、彼女の顔を見に行こうと部屋に向かった。薔薇園で曇らせた表情が私の頭から離れず、それからどうも胸騒ぎが収まることはなかった。
今まで受けていた王貴族からの差別を受け、その繊細な心は深く傷ついていたことを知っていたにも関わらず、なぜ私は今まで見てみぬふりをしていたのだろうか。
ノックをしたあと、彼女の答えを聞く余裕も無く扉を開けた。回復魔導士のトップとして用意された広い部屋に、上質で重厚感を持った机がどっしりと構えている。
彼女は机に腰掛けて、写真を見ながら泣いていた。何もいわずにただ涙を流す彼女は、今にも消え入りそうだった。
「え・・・ウィリアムさん・・・どうして、」
「遅くなってすまなかった」
震える彼女を抱きしめる。あれから、あまり食事を取ってないのかもしれない。元々とても線の細い体をしていたのに、さらに細くなってしまったような気がする。
魔法騎士団を退団して、誰も知り合いのいない回復魔導士のトップリーダーに立たされた彼女の心細さ、寂しさを今になって感じた。
そして、副団長になって初めて気づいた、自分の夢だけをひたすら追いかけて、それが彼女を守るためにもつながると信じて周りのことがよく見えていなかったことが。
彼女の手に持つ写真には、彼女と、私と、ヤミとユリウス様が笑って映っていた。『灰色の幻鹿』のいた頃の何気ない写真だ。いつもリンはヤミと会うたびに喧嘩をしてその仲裁に入ったものだと苦笑する。
「もどりたい・・・」かすれた声でつぶやく彼女の気持ちが胸を突き刺す。精神的に参った時は、私が支えてあげたいと思っていたのに彼女の気持ちを支え切れてない自分の無力さを恥じた。
「君を支えるのにふさわしい存在になるには確立した地位が必要だと思って、君の気持ちにちゃんと気づいてあげられなかった・・・すまない」
「何故ウィリアムさんが謝るんですか・・・私がこんなのになってるのは、私の心が弱いせいだからですよ・・・」
泣き腫らすリンの頬には涙でできた道がとめどなくあふれてくる。彼女の幸せな世界ができればいい、そう願えば願うほど、なぜ彼女は泣いてしまうのだろう。
背中をさすっていると、だんだんと落ち着いてきたのか、彼女の震える体はだんだんと収まっていった。
「こんな時に、報告をするのも無粋だとは思うのだけれど」と言うと、リンは潤んだ瞳で私を見つめた。その深海の宝石のような瞳を見ていると、妙に顔に熱を帯びて目をそらしてしまう。
「私とヤミが副団長に就任したよ。・・・ようやくね」
リンは目を大きく開き、先ほど泣いていた顔が嘘のように笑顔が戻ってきた。ころころと表情を変える彼女はなんとも愛おしい。
彼女は自分のことのように嬉しそうに笑って、私の首周りに腕を絡めて抱き着いた。
「本当ですか!!!ウィリアムさん!ああ、ヤミさんにもお祝いの言葉を送らないと!・・・おめでとうございます、副団長!!」
「ありがとう」そう言って笑い合う。私も頑張らないとですね!とリンは自分を奮い立たせていた。
彼女にはもう休んで、私の隣で笑っていてほしいだけなのにと心の中では思っていたが、きっと彼女自身がそれを許さないだろう。私は「そうだね」としか言えなかった。
そんな中、どたどたと廊下を走る音が聞こえて、ノックもせずに扉が急に開かれた。思わず私達は抱き合う腕を放して距離を取る。
ヤミが、ぜいぜいと息をあげて入って来た。『灰色の幻鹿』のアジトから走って来たのだろうか、そしてきっとこの部屋に私がいたことに驚いたのだろう。一瞬だが目を丸くして、私をにらんだ。
「えっと・・・ヤミさん?」
「奇遇だね。彼女に何か用かな、ヤミ」
「別に」
私の言葉に一蹴したヤミに、自分はお邪魔かもしれないと思い部屋を退出する。近くにいて薄々わかっていた、リンと喧嘩するたびに彼自身が彼女に惹かれていることも。
しかし、不幸中の幸いなのかもしれないが、ヤミもリンも自分の心に気付くのに果てしなく疎く、その感情にできれば一生気づかないでほしいと願った。
残念だけれど、世界中の何よりも、リンだけは譲れないんだと彼に心の中で謝って、魔法騎士団本部をあとにした。