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「ごめんね・・・天使様。あとの責任は私が負うわ」
どうやら天使様のリンは、私の体の中で眠ってしまったらしい。でも、500年前の記憶も、天使様の記憶も私に集約されていて、全てを思い出した。
人間に対する憎悪も、不当な判決をした神々に対する不満も、悪魔が計画していた残忍さも私の頭の中に嵐のように入ってきて正直、悲鳴をあげたくなった。
「天使様、こんな感情コントロールしてたなんてよくやるわ・・・乗っ取ったくせにリンちゃんは闇落ち寸前よ」
ふらつく体をなんとかして翼の力ではばたき平衡感覚を保たせる。
とりあえず、全ての記憶が無理やり集約されたため状況を整理しようと思う。
リンと名の付く者は三体いる。
まず、本体でありあの世の天使様 リン―――彼女は、気高くカリスマ性を持った人々を導く存在であり、あの世とこの世の均衡を保つ“冥界の番人”という役割を神様から与えられている。
過剰に現世から死者を送ってはならないし、あの世の存在を現世に渡らせてはいけないという、もし彼女に胃があればストレスで穴が開きそうな役割らしい。
加えて、あの世とこの世の間にある“影の王宮”の管理を任されているのも彼女の役割。セフィラの徒は自分の仕事を減らそうとエルフに与えたらしいが現状を見る限り失敗したようだ。
500年前、彼女はエルフ殲滅を止められなかったことによる責任を問われて堕天使へと堕ちてしまい、本来持っていた光魔法を剥奪され、マナも半減された。本来現世にいてはいけない存在なので、転生体として存在していた。それが二人の転生体である。
一人は、500年前の転生体であるエルフ リン―――彼女は、信心深く全てを包みこむような慈悲深い存在であり、慈悲と博愛を説いて回りエルフに深く信仰された。
彼女の教えとリヒトの存在によって、人間とエルフの親交は深くなり次第に人々から“聖女”と呼ばれるようになった。これが『伝説の聖女』様の逸話の発端である。
なぜか、人間によってその真実は書き換えられ、歪んだ逸話となって人々から信仰されることとなったのだが。
そして、現世の転生体である人間の私 リン―――自己紹介するのも恥ずかしいが、驚くほど『伝説の聖女』の自覚がなく好き勝手に生きている。
堕天使に落ちた転生体ということで、神聖さや気高さが削がれたのではないかと天使様のリンは思っていたらしい。後天的にだが王貴族に散々いじめられたせいで卑屈な性格となっている。
転生体の二人の魔法は、天使様の光魔法の残滓―――悪く言えば残りカス――――を使わせてもらっていたらしい。
残滓である私がクローバー王国の回復魔導士のトップって、この国の予後が不安になってくる。いや、それほど天使様の光魔法は強大だったということか。
天使様の体を乗っ取った私は、光魔法が使えた。理由はわからない。
容姿は天使様の姿のままで、変わったことと言えばどこかに消えていた光の精霊が私に纏っているというところだろうか。
そして自分の体は人間の体ではなく、あの世の体・・・悪魔だとか天使だとか現世にいてはいけないものの体なので、魔力の桁が全く違うことがわかる。
状況を整理し終えると、視線の先にエルフに乗っ取られたゴーシュとマリーちゃんが、『黒の暴牛』の団員たちと戦っていて胸が痛んだ。早くこの状況をなんとかしないと。
光の精霊が集合して、光の杖へとかたちを変えた。昔から使っていたかのように驚くほど手によくなじんで、振りあげれば私の意志に反応して魔法が増長した。
「光創生魔法 断罪のマリア」
光の杖から放たれるは一筋のまばゆい光。それは形を変えて、翼をまとった美しい女性に変化し、彼女がゴーシュの鏡魔法をすべて破壊した。
自分でも信じられなかったが私は新しく攻撃魔法を会得したらしい。鏡魔法が消えてゴーシュ達も『黒の暴牛』の団員たちも私の方を見た。
「聖女様・・・なにをしているのですか!?」ゴーシュ・・・いや、今はドロワと言った方が正しいのだろうか。
彼は私が攻撃魔法で防いだことに驚きを隠せていないらしい。そりゃあそうか。先ほどまで一緒に影の王宮解錠してた仲間だもんね。
「ゴーシュ、ごめんね。せっかくの鏡魔法壊しちゃって。
でも、あなた覚えてないでしょうけど、『黒の暴牛』に入る前のすれてた頃囚人だったあなたを更生しようと私はとてもあなたに手を焼いたの。
それはそれは酷い反抗期でねえ。私とそんな歳離れてないのに「うるせえババア」とか言いやがるし本当に子どもというかシスコンというか。
正直、あの時の恨みを晴らすつもりはないんだけど、ちょっぴり今ので晴れやかな気持ちになったのよねえ―――――
――――だから、」
振り返って『黒の暴牛』の団員たちを見つめる。アスタ君に、ゴードン、グレイ、そして・・・ヘンリーが起きていることに驚いた。
「リンさあああああああん!!!」とぴょんぴょんと跳ねているアスタ君が可愛らしい。
そして、先ほどの会話を聞いていた彼らと気持ちは一致していたようで、彼らは深くうなずいた。
「「「「「痛い目見してでも元に戻して 絶対文句言ってやるわ」」」」
「聖女様・・・あなたには少し黙っててもらうとして、お前たちは消えてもらう」
アスタ君の持つ滅魔の剣から先に対処しようと思ったのか、彼はアスタ君に集中的に攻撃を繰り返した。
それに対抗するようにアスタ君は悪魔の力を借りて姿を変えてゴーシュに斬りかかろうとするが、なかなか彼の攻撃は厄介らしく鏡魔法によって距離を取られていた。
それをサポートするグレイとゴーシュ。そして移動魔法を巧みに操るヘンリー・・・手伝ってあげたい気持ちはあるのだが、今の不慣れな力を使うとおそらく全員が吹き飛んでしまう。
「じゃあせめて・・・いつものリンみたいに皆をサポートしますかね」
アスタ君に攻撃を託して、地下へと真っ逆さまに落ちていく3人のクッションを作るため幾分か魔力を抑えて「光創生魔法 女神のゆりかご」を唱える。
「誰も仲間を失いたくない――――それはあなたもよ、ゴーシュ」
アスタ君の滅魔の剣はゴーシュとマリーちゃんについに届いて、二人は倒れてしまった。
彼らのもとに向かうと、倒れて空を見つめるゴーシュは視線を向けることなく私に問いかけた。「あなたはあの日、転生魔法を施したのではなく、食い止めたのですか」と。
「冥界の番人でも転生魔法を食い止めることはできないわ。だけど、あなた達の邪心を少しでも浄化するよう魔法はかけさせてもらった」
そう答えると、なるほどと納得したらしい。「どおりで、いまあんたを見てると穏やかになれそうだ」と鼻で笑った。本当かよ。
「もうこの体は勝手にしろ。邪心に取り込まれる前にな」
「じゃあ悪いけど、仲間を返してもらう」
アスタ君が滅魔の剣を立てて、ゴーシュとマリーちゃんからエルフの魂を浄化させた。
その時、ゴーシュはアスタ君に言った、「滅魔の剣の代償は必ず払われるようになってる、それを肝に銘じておけ」と。