00
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「下民の聖女だと―――?信じられん。王貴族が選ばれるべき神聖な役目だぞ。」
「さっさと国王も死刑に処せばよろしいのに―――」
「あれが神の使い?小汚い下民め。どうせ嘘でもついて我々に取り入ろうとしているのだろう」
王貴界で歩くだけでもひそひそと街の者たちは彼女に後ろ指をさす。
『伝説の聖女』として人々から信仰されるべき彼女は、下民出身というだけで酷い蔑視に遭っていた。
彼女は唇を強くかんで今にも涙が出そうなところをこらえて魔法騎士団本部へ向かう。
足早に道を歩く彼女についていくのもやっとで、私は彼女の手を取ろうとすると、少し怒気を孕んだ声で「邪魔」と振りほどかれた。
そのあと我に返り、自分が口に出した言葉を後悔した彼女は足取りをどんどん遅くしていき、裏路地へと入った。
そして、人気がいないことを確認し安堵した彼女は、私に対して謝罪をするとともに地面に目を落とした。
下民の彼女が生まれつき持ってしまった強い力に人々は畏怖し、そこから始まる醜い嫉妬。
彼女が悪いわけではないのに、なぜこんなにも傷つけられなければならないのだろう。
震える彼女の肩に手をまわした。噛んだ唇から血が出るまで、涙をこらえる彼女を最後まで見ていられなかった。
私自身、自分の受けた呪いによって酷い虐待を受けていたし、自分の体に住むもう一人の私も、人間によって酷い仕打ちを受けたから、その気持ちは痛いほど伝わった。
それでも、彼女はこの国の為に力を尽くしていた。
戦争で傷ついた人々を癒し、時には蘇生し、時には盾となり、時には支援した。
「リン―――どうして君は、この国を見捨てないんだ」
「ユリウス様と、みんなのいるこの団が好きだから・・・です」
彼女が喋ると小さな唇から血が流れ、『灰色の幻鹿』団のローブが赤く染まってしまった。
深紅に染まった鹿が私を見つめる。何度、彼女のローブはこうやって自分の血で染まったのだろう。何度、自分の涙でローブを濡らしたのだろう。
決意を固めた私は勇気を出して彼女に言った。
「もし自分が、いずれ新たな団を作るのが夢だと言ったら、君はついてきてくれる?」
絶対に彼女を自分の血で染めないような、彼女を守ることができる最強の団を作るとしたら。
そう告げると、リンはしばらく唖然と口を開けていたが、ふっと笑って肩に手をまわす私の手をどけた。
「ウィリアムさん。泣き虫な私ですけど、お転婆なこと忘れてましたか?」
彼女は不敵に笑って真っ赤な鼻をすすった。少しリンのことを誤解していたらしい。きっと私と同じ上に立つことを夢見る者なのだと感じた。
聖女であることに慢心せず研鑽し、ただひたすら実績を積み、守られるくらいなら守ってみせるといった心意気。だからユリウス様がリンを可愛がるのだろう。
それでも、彼女のことが目から離せないのは・・・何故なのだろうか。
ユリウス様のような尊敬しているような感情でもなければ、他の団員達のような気の置ける友情・・・といった感情でもない。
思い悩んでいると、いつのまにか彼女は、目の前から忽然と消えていた。通りから私を呼ぶ声が聞こえてくる。
先ほどまで泣きそうになっていた顔が今では元通りの明るい笑顔に戻って、「置いてきますよ」なんて言って笑っている。
その笑顔は太陽のような優しさで、私を照らしてくれた。待っているリンのもとへ行き、魔法騎士団本部に彼女と向かう。
今日は戦功叙勲式の日だ。団長であるユリウス様はもちろん、リンと、私と、新人のヤミ・スケヒロと言った男と出席することになっている。
そして、誰が『灰色の幻鹿』で一番になるかは、これからのお楽しみである。